第25話「灯り」

「あれ、おかしいな」

 浩也ひろやが戸惑いの声を零す。扉を開けた先は薄暗い通路だった。壁沿いに蝋燭の灯りがあるので、進むべき方向はかろうじてわかるものの、奥の方は真っ暗で見通すことはできない。足下に落とし穴があったとしても、気づかないまま足を踏み入れてしまいそうだ。

「実は左の扉が正解だったのかしら」

「うーん、『left』はleaveの過去形、『残すleft』って意味もあるでしょ? だから、やり残したことはありますか?ってメッセージと共に玄関ホールに戻されて、全部の部屋を自由に回れるようになるってだけなんだよね」

「ホワイトマンに捕まって最初の部屋へ戻されるみたいな感じ?」

「いや、あれとは違って自由探索モードになる感じ。大体は猫の部屋に入り浸たってるね」

「実際に撫でられるわけでもないのに? でもまあ、猫なら仕方ないわね」

「単にここは、次の場所へ向かう為の通路ってだけなのかな。じゃあまあ取りあえず進んでみよう」

 浩也はまりのの頭を抱え直すと、通路に足を踏み入れた。壁沿いには手すりがあり、浩也はそれを伝いながらひたすら歩く。

「実はあの階段みたいに無限ループしてたらどうしようか」

「ちょっ、やめてよそんな……」

 浩也に振り向いてもらったが、入り口だった場所の灯りはもうわからない。このまま薄暗い通路を彷徨い続けることになってしまうのかと不安が募ってきたあたりで、通路にひとつの変化が現れた。

「なにこれ、レバー?」

 浩也が首を傾げながら、壁に現れた大きなレバースイッチを触る。

「それを下げたら落とし穴が開いて真っ逆さま、なんてことになったら嫌よ」

「さすがにそれはクソゲーと言わざるを得ないね。じゃあちょっと、このあたりを調べてみよう」

 目視では判別しづらいと、浩也は屈んで床や壁を触ってみるが、継ぎ目や段差のようなものは見当たらなかったらしい。

「やっぱり、こういう場合はレバー動かしてみるのが手っ取り早いか」

「えっ、ちょっ……」

 まりのが制止の声を上げるより早く、浩也はレバーをぐいと押し下げた。すると扉が開いたのか、通路の奥が四角く光る。

「もう! あなたも結構物理的じゃない! これで実はトゲトゲの天井が落ちてきましたとかだったらどうするのよ」

「あはははごめんごめん。でもまあ、扉が開いたんだから……あれ?」

 浩也が手を離すと、レバーが上がって扉が閉じてしまう。もう一度レバーを下げると扉は開いたが、手を離すとまた扉が閉じてしまった。

 今いる場所からどんなに急いでも扉が閉じるまでに間に合いそうもない。これは、また自分が重りになるしかないのではと、まりのが思い始めた時、

「そうか、ここで使うのか」

 浩也がジーンズのポケットから手錠を取り出した。

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