第23話「白」

「そういえば、ゲーム的に今はどのくらいまで進んでいるの?」

 まりのの問いに、浩也ひろやは空いている右手の指を数えるように折り曲げて、

「えっと、今この和室を抜けるでしょ。それで……と……で……もうあと二つくらいだよ。鶺鴒せきれいの部屋みたいな隠し要素があるかもしれないし、なんとも言えないけどね」

「あの部屋の話はもういいわ」

 自分のあまりにも恥ずかしい勘違いに、まりのは思い出すだけで顔が熱くなる。余計な考えを追い払うように頭を振る――、ことはできないので、何度か強めに瞬きを繰り返して気を取り直すことにした。

 浩也の言う通りならば、あと少しでこの『脱出ゲーム』のゴールへたどり着けるはずだ。しかし、ゴールにたどり着いたとして、一体その先はどうなるのだろう。浩也は元の世界に帰れると信じて疑いもしていない様子だが、まりのは楽観視できずにいる。浩也と違い首から上だけの自分は、元の世界に帰った途端に死んでしまうかもしれない。いや、生きていたとしても、世にも珍しい喋る生首として、どこかの研究所に送られて実験動物みたいに扱われてしまうかもしれない。まりのは、白衣を着たひとたちに囲まれてる自分を想像してしまい、うなじのあたりがぞわぞわと粟立った。

「どうしたのまりのちゃん? 疲れちゃった?」

「なっ、なんでもないわっ!」

 それに、元の世界に帰れたとして、浩也ともう二度と会えないのかと思うと少しだけ――、寂しいと思ってしまうのだ。

「それよりも、ずっと私を抱えてて、あなたの方が疲れてないかしら?」

「いや大丈夫だよ、レスポールに比べたら全然軽いし。あ、レスポールってのは俺が愛用してるギターのことね」

 ギブソンじゃなくてトーカイ製なんだけどと浩也は笑う。まりのには何のことだかさっぱりわからないが、浩也なりに気を遣ってくれているのだろう。

「親父の形見なんだけど、照れ隠しにお下がりだって言ったら知り合いからバカにされちゃってね。いやだなあって思ってたら、エイゾウ君が『良いギター使ってるね』って褒めてくれたんだ。あの時は嬉しかったんだよなぁ」

「待って、形見? 今さらっと凄いこと言わなかった?」

「よし、開いた。この和室、どっちかっていうと忍者屋敷みたいだよね。襖を開けたら真っ白な壁でさ、ハズレかと思ったら、そこがぐるりと回転するドアになるんだもん。初見の時はびっくりしたよ」

「ああもう、気になる話なのに、改めて聞きづらいわ」

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