第15話「猫」
まりのの頭を左腕で抱えて、
中央のソファセットを囲むように調度品が置かれている。おそらくここは応接室だろう。窓の鎧戸が閉じられているせいで部屋の中が廊下よりも暗い。所々に真っ黒な影がわだかまっているような気がして、まりのはせわしなく視線をめぐらせた。
さてここはと言いながら、浩也が部屋の中へ足を一歩踏み入れた時――、
にゃーん
「きゃあっ!」
突然聞こえた鳴き声に、まりのは思わず悲鳴を上げた。
「あー、ごめん。この部屋には猫がいるんだよ」
「そういうことを、先に言って!」
今の自分に身体があったら、間違いなく心臓が早鐘を打っていただろう。まりのの目が暗さに慣れてきたところで、黒い影のわだかまりだと思っていたものが黒猫だとわかった。しかし、にゃーにゃーと鳴くもののその場から動く様子はない。
「ゲーム画面だとよくわかんなかったけど、これ置物だったんだな」
浩也がそう言いながらまりのの頭を黒猫の近くへ寄せてくれる。間近で見てはじめて置物だとわかる精巧なつくりだ。毛がふわふわと柔らかそうなのに、今の自分に撫でるための手がないのがもどかしい。
「よく見ると猫の目の形が全部違うかたちになってるでしょ」
浩也に言われて、まりのが猫の目を見比べてみると、確かにそれぞれ瞳孔のかたちがまん丸だったり半円状だったりと違っている。
「月の満ち欠けみたい。……あっ、そういうことね」
「わかった? さっき窓から見た月と同じ目の猫が次の部屋への鍵を持ってるんだ」
「これって月の形が毎回違ってたりするのかしら」
「そうなんだよ。ええと、確か月のかたちは……」
「三日月だったわ。ほらそこのソファにいる子よ」
まりのの言葉を受けて、浩也はソファの上に香箱座りしている黒猫の背をなでる。すると、置物の黒猫がにゃあとひと鳴きして、銀色の小さな鍵を吐き出した。
「ここの謎解きは簡単だったわね。ずっとこうなら楽でいいのに」
「でもこの部屋、ゲーム内では一番の難所って言われてるんだよ?」
「どうして?」
「この部屋から出たくない、ずっと猫に囲まれていたいってプレイヤーが続出したんだ」
「それは……、猫なら仕方がないわね」
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