第7話「まわる」
地下鉄の駅のような場所から改札を抜けて、階段を上る。踊り場で折り返し、また階段を上る。その過程を何度繰り返したのか、この先どれだけ続くのか、まるで果てが見えない。
「これ、は、さすがに、きつ……」
ぜえぜえと息を切らした
「運んでもらってるだけなのが、さすがに申し訳なく思えてくるわ。大丈夫?」
「はあ……、今三十七階って……それだけ、覚えといて……」
「いいけど。それも謎解きに必要なの?」
浩也は頷きを返すので精一杯らしい。肩を大きく上下させて、なんとか呼吸を整えようとしている。まりのは、こんな時に汗を拭ってやることも出来ない今の自分にもどかしさを感じた。とはいえ、今この時に身体があったとしても、階段をひたすらのぼりつづけていたならば、浩也と同じように、いや浩也以上に息が上がっていただろう。浩也は着ていたシャツの袖で、顎から滴る汗を拭った。
「ふう。コントローラーのボタン押してるだけなら、楽なのになあ」
「しかもこんな変わり映えのしない景色だと、今何階なのかもわからなくなるわね」
「そこが一番の仕掛けなんだ」
浩也の話によると、五十九階まで上がったら、六段目と三段目の踏み板を調べてスイッチを押すと扉が現われる。五九六三、つまり「ごくろうさん」という語呂合わせの駄洒落らしい。
「しかもゲームでは、何も考えずに階段を上り続けていると、また一階に戻されちゃうんだ」
「やだ最悪」
「本当にね」
「そういえば、階段上ってる途中で逆向きに回っていたのはどうしてなの?」
「ああ、普通にぐるぐる上ってると目が回ってくるからね。シールドを8の字巻きするのと同じだよ」
「なにそれ?」
「さて、休憩終わり」
立ち上がった浩也が、まりのを抱えて再び階段を上り始めた。踊り場で折り返し、また階段を上る。すると、突然立ち止まった浩也が、気まずそうにまりのの顔を覗き込んだ。
「……ところでまりのちゃん、今って何階だろうね?」
「さっき休憩してたのが三十七階で、そこから六階上がったから、今は四十三階から四十四階へ向かう途中よ」
「助かったぁ」
心底安堵したように息を吐く浩也に、
「記憶力には自信があるの」
まりのはそう言って、くすりと笑みを零した。
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