第4話「温室」

 扉を開いた先は、まるで温室のような部屋だった。花壇には色とりどりの花々が植えられており、壁一面がガラス張りとなっている窓の外には、のどかな田園風景が広がっている。

「まるで別世界に来たみたい」

「この唐突さ、いかにも脱出ゲームって感じだよね」

 浩也ひろやに頭だけの自分を抱えてもらいながら、まりのは周囲の様子を観察する。温室の床には、ところどころに何やら意味ありげな模様のタイルが貼られ、それらを繋ぐように黒い線が描かれている。温室の奥に先へ続く扉があるけれど、やはりというかなんというか、扉には鍵がかかっていた。

「ねえこれ、そこに置いてある鉢植えとかぶつけて、窓ガラス割っちゃえば外に出られるんじゃないかしら」

「まりのちゃん、意外と物理的なんだね」

「だって、ちまちま謎解きなんてしてる方が面倒じゃない」

「まあそうなんだけど。でもほら、見てみてよ」

 浩也がまりのの頭を窓ガラスに近づけてみせる。

「何よコレ、絵じゃない」

 そう、ガラス張りの窓と思ったのは、壁一面に隙間なく貼られた額縁に収まる、精密な風景画だった。温かな日差しが差し込んでいるように思えたものは、天井に並ぶ照明の光だった。

「変なところで手が込んでるのね。これ作ったひとは一体なに考えてるのかしら」

「匠の遊び心みたいなもんじゃない?」

「なによそれ。で、やっぱりここも見覚えがあったりするの?」

「そうだね。ほらここ、床のタイルが蓋になってるんだ」

 まりのを抱えた浩也が、床にあるタイルを持ち上げると、そこには矢印の描かれたバルブが収まっている。

「これを、全部繋がるように矢印の位置を合わせるんだ」

 バルブを捻ると、床の黒い線が青色に変化した。浩也は床のあちこちにある床のタイルを持ち上げては、バルブの位置を合わせていく。ついには水道の蛇口がある場所まで青い線が繋がった。

「線は繋がったけど、鍵が開いた音はしなかったわね」

「あともうちょい手順があるんだ。これで蛇口から水が出るようになったから」

 浩也は花壇の端に置いてあった如雨露じょうろに水を満たし、鉢植えのひとつに水を注いだ。すると、鉢植えにあった蕾がみるみる開く。カシャンと音がして、咲いた花から鍵が床に落ちた。

「この鍵で次の部屋に行けるようになったってわけ」

「ねえこれ、最初から花の蕾をこじ開けたらよかったんじゃないの?」

「まりのちゃんは物理的だなぁ」

 笑いながら浩也は鍵を拾い上げた。

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