本当のこと(1)
Bランクダンジョンの攻略も順調に進んでいて、そろそろAランクダンジョンの攻略に移りたい。
ただ、気になっていることもある。愛梨が上の空な瞬間が増えた気がしていることだ。
仮にダンジョンを攻略したところで、愛梨が不幸であるのならば何の意味もない。
僕はどうするのが正解だろうか。悩みながらも日々を過ごしていた。
女の子の悩みを解決できるだけの経験は僕にはない。
そこで、僕の家にやってくる夏鈴さんに相談することにした。
きっと、夏鈴さんなら良い答えを返してくれるはず。
そう信じて、いつもの場所で待ってくれている夏鈴さんに話しかけた。
「夏鈴さん、こんにちは。ちょっと相談したいことがあるんだけど、良いかな?」
「はいっ。何でも相談してください。優馬さんなら、何だって歓迎ですっ」
「最近、幼馴染の元気がないみたいで。どうすれば良いのか、よく分からないんだ」
「幼馴染というのは、女の人ですか?」
「そうだね。ずっと、一緒に過ごしてきたんだ」
「帰りを待っている人というのは、その人ですか?」
「うん。僕の安全を祈ってくれて、支えてくれているんだ」
そう考えれば、僕が愛梨に返せているものは、とても少ない。
やっぱり、貰ってばかりだよね。ご飯を作ってもらったり、待っていてもらったり。
これまでの日々でだって、ずっと隣で支えてくれていた。
誰よりも大好きな人だって、胸を張って言えるんだ。
「……そうですか。なら、プレゼントなんてどうですか? アクセサリーなんて、きっと喜んでもらえると思いますっ」
なるほど。喜んでくれると良いな。
僕だけなら、きっと思いつかなかっただろう。
だから、夏鈴さんを助けられてよかったな。ちょっと、利益で人を見ているみたいな気もするけど。
いや、違うな。夏鈴さんが生きているという事実だけでも、間違いなく嬉しいから。
「夏鈴さんに相談して良かった。なら、頑張って選んでみるね」
「私も手伝いますよっ。女の子の好みなら、私の方が詳しいはずですからっ」
「ありがとう。なら、また今度、お願いするよ」
「次の休日はどうですか? たまの休みも兼ねて、ちょうど良いと思いますっ」
「分かった。じゃあ、よろしくね」
「はいっ。楽しみにしていますねっ」
そう言って夏鈴さんは去っていく。
愛梨が笑顔を見せてくれるなら、何だって買ってあげたいくらいだ。
まあ、僕のお金には限界があるけれどね。
今の沈んだ様子の愛梨を、少しでも元気づけてあげられたらな。
それから、家へと帰ると愛梨が出迎えてくれた。
「お帰り、優馬君。ご飯できてるよ」
「いつもありがとう。今日も楽しみだな」
ご飯を食べて、少しして、やはり愛梨には元気が無いように見えた。
僕は頼りにならないかもしれないけれど、それでも力になれたらな。
「何か悩みがあるのなら、言ってほしいよ。悲しそうな愛梨を見るのは、つらいから」
「ううん、大丈夫だよ。優馬君は自分の心配をしていて。死んじゃったら、元も子もないんだから」
「無事にダンジョンを攻略できても、愛梨が苦しんでいるのなら意味がないよ」
「良いから! 放っておいてよ! ……ごめんね。少し、頭を冷やしてくる。また、明日ね」
愛梨に拒絶されたような気がして、声をかけることも、手を伸ばすこともできなかった。
そのまま愛梨は去っていき、僕はひとり残される。
いつもなら、次に愛梨に出会う瞬間を楽しみにしていた。
だけど、明日が不安で仕方がない。このまま、関係が壊れてしまうのだろうか。
そんな不安を抱えながらも、夜を越えて。
愛梨とギクシャクした関係が続いていた。それからも、特に仲直りはできずにいて。
それから、夏鈴さんとアクセサリーを買いに行く日がやってきた。
今回でダメなら、もう愛梨とは離れ離れになってしまうかもしれない。そんな恐れを抱えたまま。
「優馬さん、不安そうですねっ。大丈夫ですよ。優馬さんの気持ちは伝わりますっ」
「本当かな? 仲直りできるかな? 情けないけど、怖くて仕方ないよ」
「ケンカしちゃったんですか? なら、想いを伝えちゃいましょう。仲直りしたいって、素直な気持ちを」
「そうだね。そうするしか無いと思う。他の手段は、思いつかないよ」
もしダメだったら。そんな不安が襲いかかってくるけれど。
でも、ここが正念場だ。ダンジョン攻略だってあるから、忙しくなってしまう。
その前に、しっかりと愛梨と仲直りしておかないと。もし死んじゃったとしても、後悔しないように。
アクセサリー屋に向かって、いろいろと眺めていく。
どんな物がいいかは、よく分からないな。やっぱり、僕には難しいかもしれない。
「何か気に入ったものはありますかっ?」
「うーん。女の子のアクセサリーって、よく分からないや」
「そうですかっ。なら、このブレスレットはどうですか?」
金と白が混ざりあったみたいに、金属と宝石っぽいものがくっついたブレスレット。
あまり派手ではなくて、愛梨のイメージにちょうど良いと思う。
値段からすると、本物の宝石ではないよね。手頃な価格だし、確かに良いかも。
「良いね。なら、それで行こうかな」
「もっと色々なものから選ばなくて良いんですか?」
「夏鈴さんを信じているから。きっと、大丈夫だよ」
それに、もうひとつだけ買いたいものもあった。
ロケットを買いたいんだよね。何か、思い出の品を入れられるような。
きっと、愛梨にとっての記憶に残るものがあるはずだから。
それを手元に持って置けるのなら、きっと良いと思う。
夏鈴さんにはひとつ選んでもらったから、ロケットは自分で選ぶつもりだ。
どういう物がいいかな。そう考えていると、ふとハート型のものが目についた。
言葉にはできないけれど、少しでも思いが伝わったら。そう考えて、すぐに選んだ。
ついでに、星型の模様がついたロケットを買う。
夏鈴さんへのお礼として、何かプレゼントをできたらなって。
本人に選んでもらうのも違う気がするし、これでいいよね。
会計を済ませて、店を出る。
ちゃんとお礼を言わないとね。僕だけだったら、そもそもアクセサリーを買おうとは思わなかった。
「ありがとう、夏鈴さん。おかげで、いい買い物ができたよ」
「ふたつロケットを買っているの、見ちゃいましたっ。期待して良いんですか?」
「もちろんだよ。これ、どうぞ」
「ありがとうございますっ。……こっちの方でしたかっ。大事にしますねっ」
両方どんなデザインか、しっかり見られちゃっていたんだな。
少し恥ずかしい気もするけれど、大事にしてくれるのなら嬉しいな。
まあ、お世辞かもしれないけれど。そこは気にしても仕方ないか。
「気に入ってくれたら嬉しいよ。でも、無理に使わなくてもいいからね」
「いえ、大切に使いますよっ。優馬さんからの贈り物ですからっ」
「ありがとう。夏鈴さんには、助けられてばかりだね」
「お礼を言うのはこっちの方ですよっ。素敵な贈り物、ありがとうございましたっ」
夏鈴さんは明るい笑顔をしてくれているから、本当だと思いたい。
まあ、いらないのなら捨ててくれても良いけどね。
お礼の気持ちなんだから、邪魔だと思われているのなら意味がないんだし。
夏鈴さんは一礼して去っていく。
さあ、ここからが本番だ。愛梨と仲直り、できると良いな。
家に帰ると、愛梨が出迎えてくれる。
当たり前のようになっているけど、途切れるかもしれないと意識してしまった。
だから、今この瞬間を大切にしないと。
僕にとっては、愛梨が居てくれることが幸せなんだから。
「お帰り、優馬君。今日はどこに出かけていたの?」
「ちょっとね。ねえ、愛梨。これ、受け取ってほしいな」
もうちょっと段階を踏んだほうが良かったかもしれない。
でも、僕がうまく渡せるイメージもできないから、これしかなかったのかも。
どちらにせよ、愛梨が喜んでくれたらそれでいい。
すぐに愛梨は開けていく。ブレスレットを軽く眺めた後、ロケットを嬉しそうに取った。
そのまま胸に抱えて、僕の方を向いて微笑んでくれる。
「この形は、優馬君の気持ちって事でいいんだよね。ありがとう」
「う、うん。自分で言うのは恥ずかしいね」
「そうかもね。でも、いつかちゃんと言葉にしてほしいな。待っているから」
その瞬間の愛梨の顔は、今までに見たことがないくらい綺麗だった。
きっと、想いが通じ合った瞬間は、もっといい顔を見れるはず。その時が楽しみだ。
愛梨に想いを伝えるためにも、頑張ってダンジョンを攻略していこう。
そう考えて、改めてSランクダンジョンへと向かう決意を固めた。
まずは、Aランクダンジョンだ。一歩一歩、しっかりとね。
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