高揚と安心(2)
優馬は今日もダンジョンに挑む。今度はDランクダンジョンだ。
「じゃあ、今日も待っているからね、優馬君」
私が送り出すと、笑顔で返してくれる。
優馬は顔が良いから、とても似合っているんだよね。優しい微笑みって感じで。
今回は、あまり厳しい試練ではないかな。少しずつ段階を踏んでいかないとね。
優馬の成長だって、ちょっと戦ったくらいで一気に伸びるものじゃないから。
ダンジョン入口の門へと向かうと、国が設定した受付が対応する。
一応、ちゃんと攻略できる人間は大事にしたいみたいだ。
国の思惑がどうであれ、私は優馬以外はどうでもいいけれど。
身分証明証として作られたギルドカード。
そこには、ダンジョン攻略の実績を乗せることにしたみたいだ。
確かに合理的ではあるよね。誰が期待できるのか、ひと目でわかる。
実際に、今回の受付は、実績を積み重ねた優馬に注目しているみたい。
私だけのヒーローでなくなるかもしれないことは、少し不満だけれど。
それでも、優馬がヒーローとして認められるのは、悪いことではない。
「もう、いくつものダンジョンを攻略しているんですね。お願いします。できるだけ早く、このダンジョンを攻略してください。ここは私の故郷なんです」
「努力はしますけど、期待はしないでくださいね。僕は僕の命を優先します」
「当たり前です。こんな若い子に、命をかけさせて情けない限りですが。それでも、全てを押し付けないだけの良心はあります」
今回の優馬は、ダンジョンの攻略を頼まれている。
それでも、私を優先してくれた。承認欲求の為なら、受けた方が良いんだけどね。
ただ命が惜しいから出たセリフじゃないって、私には分かる。
だからこそ、素敵なんだよね。誰かのために命を大切にする。難しいことだから。
そのまま会話を終わらせ、優馬はダンジョンへと入っていく。
おおよそのDランクダンジョンにおけるコンセプトは、モンスターと正面から挑むこと。
苦手な敵から逃げることはできないし、楽な敵だけ倒すこともできない。
つまり、確かな戦闘能力が求められるんだよね。
とは言っても、まだまだ弱い敵ではあるけれど。
ゲームのように、パターン構築だけで倒せる敵だ。慣れれば楽勝だと思う。
実際、優馬はさほど苦戦せずに次々と進んでいく。
鎧型の敵も、スライムの強化版も、四足歩行の獣みたいな敵も。
いろいろと用意したけれど、強くなった優馬にとっては楽だったみたい。
思ったより、成長しているな。ステータス的には、敵の攻撃を一度や二度受けても大丈夫。
だけど、優馬は命がかかっている訳だからね。攻撃を受けずに進んでいる。
このまま進むようなら、一回くらいは必中の攻撃を用意しても良いかもね。
まあ、しばらくは先の話だ。ちょっと、邪魔が入りそうな気配もあるから。
刀也が同じダンジョンに入っている。万が一優馬が追い詰められていると、面倒だ。
優馬をいじめていただけあって、敵視しているのは明らかだからね。
だから、今回のダンジョンではあまり優馬を追い込めない。
刀也が優馬を助けるなんて、ありえないからね。何なら妨害してもおかしくない。
ということで、優馬は順調にボスまで進んでいった。骸骨剣士だ。一応、剣技を操る。
優馬は特に苦戦することもなく、しっかりとボスを倒していく。わざと弱体化はさせていないから、確かな実力だ。
だけど、そんな優馬に刀也が襲いかかった。
ナイフを振り回して、攻撃していく。
「何をするんだ!?」
「お前が死んでくれれば、愛梨は俺のものになるんだ。ダンジョンなら、死んでも犯罪にならないよな?」
何をバカなことを。刀也程度の力では、私をモノにはできない。
それに、あんな品性のない男を私が好きになるはずもない。
どんな未来であっても、刀也と私が結ばれるなんてありえないことだ。
それに、ステータスを見る限りでは、優馬に傷すら付けられないよ。
だけど、優馬はわざわざ刀也を殺さないように立ち回っている。
申し訳ないけれど、その努力は無駄になるよ。私が刀也を殺すからね。
ダンジョン内のモンスターは、私が好きに配置することができる。
つまり、難易度なんて自在に設定できるんだ。
刀也がこれから先もダンジョンに挑むのなら、絶対に死ぬ設定にしてあげる。
何をしても無駄で、じわじわとなぶり殺しにされる苦しみ。それを味わってもらうよ。
どうやって刀也を殺そうか考えていると、戦いはゆっくりと進んでいく。
「どうしたどうした!? やっぱり、俺に手も足も出ないか!? お前みたいなザコに、愛梨は相応しくねえんだよ!」
反撃しない相手に、自惚れている刀也。
本当に間抜けだ。優馬はいつでも刀也を殺せて、だけど手加減しているだけなのにね。
実際、優馬の行動は相手を観察しているだけだ。
どうすれば殺さずに刀也を無力化できるのか、考えているだけ。
「お前みたいなヘタレには、反撃すらできないか!? それでよくダンジョンに挑んだものだな!」
優馬がDランクダンジョンのボスを倒したことを、どう考えているのだろう。
刀也はとにかく頭が悪い。当たり前に思い浮かべるべきことを、全く想像できないようだ。
そのまま、刀也のナイフは優馬によって砕かれていく。バットを叩きつけられることによって。
武器を失ったことで、刀也は自分の負けを理解したみたいだ。
「バカな……優馬ごときに……」
そんな事を言いながらうずくまる刀也。
優馬は刀也に対して殴りかかっていく。今までのうっぷんを晴らしているのかと思ったけど、違うみたいだ。
なぜなら、優馬は殴ることに愉悦を感じていない。ただ淡々と、必要な作業をこなしている目だ。
まあ、優馬は復讐なんて考える人じゃないよね。そこもヒーローに向いているとは思う。
だけど、どうして殴りかかっているのだろう。
楽しくもないのに、人を痛めつけるような理由があるのだろうか。
「ゆ、優馬。許してくれ。もうお前に手出ししたりしないから」
「愛梨にも近づかないことだね。破ったら、今みたいな軽いものじゃ済ませないから」
ああ、なるほど。私を守りたかったのか。やけになった刀也が私に手出ししないように。
改めて、惚れ直しちゃったよ。私の為なら、好きでもない暴力だって実行できるんだ。
「ああ。分かった!」
刀也はそう言いながら逃げていく。
それを見て、優馬はゆっくりと去っていった。
しばらくして、刀也は周りの壁に八つ当たりをしていた。
「畜生、優馬ごときに! 何か卑怯な事をしたに決まっている! なら、俺だって手段を選ばない! 殺してやる! 寝込みを襲ってでも!」
刀也は後で殺そうかと思っていたけど、気が変わった。
すぐにでも、地獄に送ってあげるね。似合いだよ。お前みたいな小物には。
さっそく沢山のモンスターを生み出して、刀也を襲わせていく。
とりあえずは、このダンジョンと同じ見た目の敵かな。
鎧とスライム、四足歩行の獣、あと骸骨も。
「なんで急にモンスターが!? こんなの、聞いてねえぞ!」
当たり前だよ。言っていないからね。
一応、法則性くらいは無いと攻略に支障が出そうだったからね。
だから、ルールを作ってはいたんだけど。
でも、刀也はこれから死ぬんだから。今の異変は誰にも知られないよ。
優馬だって、安心してダンジョンに挑むことができる。
だから、ゆっくりと絶望して死ね。
刀也は必死でボス部屋から逃げようとする。だけど、扉は開かない。
何度も扉を叩いているけれど、効果はない。
そのまま逃げ出すことは諦めたのか、今度はモンスターに挑んでいく。
「俺がモンスターなんかにやられる訳がないだろ!」
そう言って、モンスターに素手で殴りかかっていく。
だけど、今のモンスターは特別性だからね。何も攻撃なんて通じないよ。
むしろ、拳を痛めるようにできている。ステータスがあったとしてもね。
さて、どのあたりで心が折れるのかな。じっくり楽しませてもらおう。
なんて考えていたけれど、数発殴っただけで、もう諦めたみたいだ。
拳を振り上げることもせず、うなだれるだけ。
「さっさと殺せよ。モンスターに言葉なんて通じないんだろうけどな」
そんなに早く死にたいのなら、できるだけ死なせないようにするよ。
モンスターに指示をして、まずは関節を外させていく。悲鳴を上げていて、面白い。
続いては、端っこの方からゆっくりと刀也の体を刻ませる。
口から泡を吹いていて、ちょっと見苦しいな。でも、まだまだ。
「た、助けて……」
なんて言っているけれど、お前を助ける気はないよ。
そのままモンスターに痛めさせ続けて、やがて刀也は動かなくなった。
あまり気分はスッキリしないけれど、とりあえず邪魔者は消えた。
優馬が帰ってくる前に、ご飯を準備しておかなくちゃ。
Dランクダンジョンは簡単みたいだったから、次の試練をどうしようか。
今のところは、単純に敵を強くするつもりはない。
だって、ワンパターンだとつまらないからね。
いろんな優馬を見たいのに、同じ攻略法ばかりだと、ダメだよね。
ダンジョンでのカッコいい優馬も、日常の優しい優馬も、どっちも味わえる。私は幸せものだ。
そんな優馬と、最後には結ばれるんだから。想像しただけで、興奮してきちゃう。
私はウエディングドレスの方を着たいな。きっと、見とれてくれるんだろうな。
優馬と私の結婚式は、きっと誰よりも素敵な式になるはずだ。
だから、頑張ってね。優馬との結婚式、楽しみにしているからね。
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