第37話 難しすぎる男女交際3・ひざまくら
自宅。俺と風華二人だけの昼食が終わり、食器とゴミを片付けて休憩に入った。
「疲れましたね。そうだ、肩揉んでください」
「はぁ? 嫌だよ」
「誰のお陰でおいしいご飯が食べられていると思っているんですか?」
「よーし、頑張って揉んじゃうぞー!」
俺は王様に
いや待てよ。よく考えたら若い女の肩なんて揉んだことねぇな。下手したらセクハラになるのでは?
まずいぞ、硬派な肩揉みを心掛けねば。硬派な肩揉みってなんだよ。
「まだですか? 早くしてくださいよ」
クソッ、調子に乗りやがって。
嫌々ながらも肩にそっと手を置く。……よ、よし、まだ叫ばれないな。……あれ? 何か硬いものが……これは、ブラジャーの肩紐!? ま、まずい。想定外だぞ。この場合どうすべきなんだ。
肩紐を避けて豚のヒヅメみたいな感じにして揉むべきなのか? なんか変態っぽいな。ならいっそのこと肩紐の部分だけを揉むか? もっと変態っぽいぞ!
「なにしてるんですか? ……ハッ、まさか私の体温を吸収してるんですか!?」
どんな発想してんだよ。コイツの方が変態じゃねぇか。
「しねぇよ。下手でも文句言うなよな」
「期待してないから大丈夫ですよ」
あーいえばこーいう野郎めぇ。
とにかく俺は意識しないように肩をゆっくり揉み始めた。
ぐへへ、これが女の肉か。ってバカ。無心になるのだ。そう俺はマッサージチェアだ。目の前の人間を気持ち良くするためだけの機械。……ってやっぱり変態みたいじゃねぇか!
それから、どうにかこうにか肩揉みが無事終了した。
「まぁまぁでしたね。じゃあ次は膝枕してください」
「俺が寝る側か?」
「ヒザ側ですよ」
まぁそうだよな。ここまで全部、彼氏が彼女にして欲しそうなことをやらされているし。くそーせめて逆だったらなぁ。いや、それはそれで余計なことしそうだしなぁ。
俺は渋々、カーペットの上で正座した。
それを見た風華は大きなため息をついた。
「ハァァ……なんですかその高い枕は。首がもげますよ」
「はぁ? どうしたらいいんだよ」
「これだから膝枕エアプはダメなんですよ」
なにがエアプだ。相変わらずムカつく言い回ししやがってよぉ。
「いいですか? まずおもてなしする人を汚い床に寝させようとするのがナンセンスです」
てめぇ、人の家に向かって失礼な奴だな。まぁ決して綺麗ではないけどな!
「ベッドならいいのか?」
「そうですね。足は伸ばして座ってくださいよ。高すぎて首が折れちゃいますからね」
一回折れた方がいいんじゃないか?
なんて考えながら、壁を背にベッドに座った。腰と尻が痛いので、間にクッションを入れて準備が完了した。
それを見た風華が俺の膝に頭を乗せた。思ったより軽いな。脳みそ入ってんのか?
「硬いですね。低反発まくらになりませんか?」
「俺は変身モンスターじゃねぇんだよ」
「ですね。ただのバケモノでした」
コイツ……!
「耳かきのオプションを所望します」
ここは添い寝カフェじゃねぇんだよ。
「当店はそういったサービスはおこなっておりません」
「はいこれどうぞ」
風華が昼食のお釣りの千円を渡してきた。
「まいどありー! ちょっと耳かき取ってくるわ!」
「あで」
風華の頭を押しのけて立ち上がった。
「酷いですぅ! 頭のネジが取れたらどうするんですか!」
もう取れるネジねぇだろ。
無視して耳かきを取ってきて、再び風華の空っぽそうな頭を膝に乗せた。
風華が長い黒髪をかき上げる。あらわになった形の綺麗な耳に、俺はいけないものを見た気がして目を逸らした。
そういえば耳かきも他人にしたことないな。まずい、失敗して耳を傷つけたら傷害罪になるぞ。
ゆっくりと棒を耳穴に挿入していく。
「あん」
おい、
「変な声出すな」
「
それを変な声というんだよ。
耳かきを続ける。
「あひん」
だからやめろ! 通報されたらどうする!
「おい」
「次は大丈夫です。任せてください」
本当だろうな? 半信半疑のままもう一度穴に入れていく。
「oh! yes!」
英語だからセーフ! なわけあるか!
「こら、静かにしろ。近所迷惑だろ」
「ですね。我慢できないのでガムテープで口を塞いでください」
それはそれで誤解されるからやめろ!
「とりあえず手で押さえとけ」
言われた通り手で押さえる風華。しかし、耳掃除を再開すると。
「ゲギョギョギョ!」
脳を改造されている人の声やめろ!
結局、声は抑えられずにヒヤヒヤさせられながら耳掃除を進めた。
「はい、終わり」
「じゃあ次は逆側ですね」
あ、そうか。人間には耳が二つあるんだったな。人と関わらないから忘れてたわ。コイツが人だということもな!
「股間の方に向くのはちょっと嫌ですねぇ」
ふん、こっちだって嫌だよ。
風華は少し考えて、半円を描くように足を動かし始めた。周囲に足をぶつけながら逆向きになる。お前はコンパスかよ。
気持ち悪い動きすんなよな。信じられるか? コイツお天気お姉さんなんだぜ?
と、見下しつつ、なんやかんやで逆の耳の掃除も終わった。
「終わったぞ。早くどけよ」
が、風華は退くことはせずに俺の膝の上で急に仰向けになった。
視線が
「私、来週一人で天気予報やる予定なんですよ。少し不安なんです。応援してください」
もうやらせて貰えるのか。まぁ天気予報は毎日やってるし、人妻キャスタービッキーと連日何回か一緒にして、そのままの流れって感じかな。コイツの場合、あんまり間を開けると忘れそうだし。
「……頑張れよ」
「それだけですか?」
「今の風華なら大丈夫だよ」
これは本心だ。初めての天気予報の時に今後もいけそうな片鱗は見せていたし大丈夫だと思う。確実と言える根拠はないけどさ。
「ま、八十点といったところですね。今度は私をキュンキュンさせるような解答を用意しておくんですよ?」
八十点ならいいだろ。
「じゃあ次は空雄さんの話をしてください」
「話ってなんだよ」
「なんでもいいです。彼氏のことはなるべく知っておきたいんです」
めんどくせぇ女だな。
「……うーん、好きなものはドーナツ」
「知ってますよ。一問一答の時に言ってたの以外にしてください」
「そう言われてもな。俺に誇れるようなものはないし、むしろどん引きするようなことしかないぞ」
「もう充分引いてますから今さらですよ。さぁあなたの罪を告白しなさい」
「うーん」
「今まで彼女はいたことないですね」
断定やめろ。その通りだけどよ!
「ふん、居たって金が掛かるし、時間も取られるからいいんだよ」
「いない人の典型的な言い訳ですねぇ。まぁでも安心してください。これからは私が彼女の素晴らしさを教えてあげますよ」
今のところタダ飯を食えた以外いいことないんだが。
「期待しないでおくよ」
それから俺は風華に色んなことを話した。仕事、学生時代、親の話などだ。
今までこんなに自分の話をしたことはない。自分の底の浅さを知られるのが怖いから。なのにどうして風華の前ではスラスラと喋ってしまうのだろう。
……うん、見下しているからだな! コイツに嫌われたところでノーダメージだし! そうだ、そうに違いない!
自身の体温が高くなるのを感じる。なんだか手持ち無沙汰になって風華の髪に触れた。きめ細やかで、
「なんで髪を触ってるんですか?」
……え? あ! 無意識に触ってしまった!
「あ、悪い」
やばい! セクハラで警察に捕まっちゃう!
「はぁ、まったく……脳細胞が死滅したらどうするんですか! これ以上バカになったらもう終わりですぅ!」
どこに危機感持ってんだよ!
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