第13話 弱男の遊び

 クソみたいな食レポが終わってから三日後。乃和木風華はまた勝手に俺の家に上がり込んでいた。


「え、またチャンスくれたんすか?」


 ズレた擬音を使ったり、人妻キャスターのビッキーにカレーをぶっかけたり散々だった食レポ。確実にクビかと思いきや会社はまだコイツにチャンスを与えるらしい。偉い人の弱みでも握ってんのか?


「そうなんですよー。なんと今度はマスコットキャラクターにふんすることになったんです!」


 もはやお天気お姉さんでもねぇじゃねぇか! いやコイツは元々天気やってねぇけど!


「あはは……なんかまためんどくさそうっすね」


「これ、例のごとく番組の構成表です」


 また社外秘の資料を他人に見せるバカ。


「くれぐれもご内密に。うひひ、お主も悪よのぅ」


 お前だけだよ!


 で。


 ざっと構成表を眺める。まとめるとマスコットキャラクターの“ドライくん”とやらに扮してダンス、次にお悩み相談をやり、その後、歌をやるらしい。


 スタッフにやらせとけよ、と思うが、伝統的に中の人は色んなお天気キャスターが代わる代わるやることになっているらしい。スタッフにやらせとけよ。


 これじゃあお天気お姉さんじゃなくて歌のお姉さんじゃねぇか。いやマスコット被るから歌の化け物だな。


「このお悩み相談って内容わかるんすか?」


「いえ、当日まで分かりません。なるべく新鮮なネタでやりたいからとだけ言われました」


 まーたぶっつけ本番かよ。コイツには無理だっつーの。


「歌とダンスはさすがに決まったものっすよね?」


「はい。歌のデモテープと歌詞、ダンスの映像と振り付け表をいただいてます」


 アイドルにやらせとけよ。


「うーん、随分と骨が折れそうなことばっかっすね。とりあえずお悩み相談から対策練って行くっすかね」


 と言ってもなんのヒントもないしなぁ。仕方ない過去の出題傾向から対策を練るしかないか。受験生かよ。


「過去の相談ってまとめられてたりしないっすか?」


「あ、資料もらいましたよ」


 先に出しとけよ。乃和木を白い目で一瞥いちべつした後、資料に目を通す。


「恋愛、進路、仕事、人間関係……それと天気の相談っすか」


 後は『ドライくんのパンツの色はなんですか』とかクソ質問もあるな。こういうのは対策難しいし無視でいいか。


「相談マスターの私なら余裕そうですね」


 俺が友達ならお前にだけは相談しねぇわ。


「……それじゃあ練習してみるっすか」


 資料から適当に選んで相談してみる。


「相談っす。彼氏が二股してることがわかりました。どうしたらいいっすか?」


「真っ二つにしましょう」


 サイコパスぅー!


 クソみたいな答えだが、マスコットキャラが答えるというていならこれでいいかもな。コイツの天職見つかったな。もう二度とマスコットから出てくるなよ。


「次の相談っす。僕は高校生なんですが、進路に迷っているっす。進学すべきか、就職すべきかどちらがいいと思うっすか?」


 こんなのマスコットキャラに相談すんなよ。


「羅針盤を買いましょう」


 大航海時代の幕開けだー! コイツに相談したことを大後悔しただろうね!


「続いての相談っす。仕事に対してモチベーションが湧きません。どうしたらいいっすか」


「エナドリ飲みましょう」


 物理的解決!


「人間関係に悩んでいるっす。学生の頃、部活で一緒だった嫌いな先輩と会社でも一緒で何かとやり辛いです。どうすべきでしょうか?」


「辞めたら?」


 相談乗る気なし!


「相談っす。いつも天気予報を見てから出かけるのですが、大体外れて雨に降られます。何かいいお天気番組はありませんか?」


 これスタッフの自作自演だろ。明らかに自社の番組言わそうとしてんじゃねぇか。


「番組より靴占いなんてどうですか? 靴を飛ばして表が出たら晴れ、裏が出たら雨、横になったらくもりです。結構当たりますよ」


 うんうん、お天気キャスターが言うことじゃないね!


「こう言う時は自社のお天気アプリ勧めた方がいいっすよ」


「そんなオモチャより風を読んだ方が早いですよ」


 お前は孔明かよ。


 とりあえずお悩み相談はこれ以上やらなくてよさそうだな。コイツのクソ言語センスならどうにかなるだろ。しらねぇけど。


「ところでですけど、空雄さんって普段何して遊んでるんですか? 三点倒立ですか?」


 そんなちょいアグレッシブな遊びはしねぇよ! もう三十歳で健康を気にしないといけないし、怪我するようなことはしねぇっつーの!


 じゃあ何して遊んでるかって? そりゃあエロ動画みて、エロ動画みて、休憩して、エロ動画みて。


「勉学に励んでいるっす」


「絶対ウソですね」


 どうせニート顔だよ。ふんっ。


「まぁ大体ゲームっすよ」


 本当はお天気お姉さんの生放送を垂れ流しにしているが、コイツに言うとマウントを取ってきそうなので黙っておく。


「なんのゲームですか? 石積みですか?」


 賽の河原かよ! どうせ死んだように生きている人間だよ! ふんっ!


「スマホゲーっすね。金ないし無課金で遊べる範囲で遊んでるっす。前、一緒にやったっすよね。あんなのを何個か並行してやってる感じっす」


「あ、前やってたやつ、かなり進みましたよ!」


 スマホの画面を差し出してくる。


 課金アバターに課金装備。ランクも俺のほぼ倍。クソッ、上級国民め。金にものを言わせて来やがったな……!


「空雄さんのも見せてください」


「え、あっ」


 勝手にスマホを取り上げられた。コイツ言葉選びだけでなく行動までクソだな!


「あれぇ、まだこの段階なんですかぁ?」


 マウントうぜぇ。


「課金してないっすからね」


 課金したら負けだと思っているもん!


「せっかくなのでまたマルチプレイしましょうよ!」


「いいっすよ」


 ふん、ゲームは課金力だけではないことを見せてやるよ。


 マルチプレイを開始して、さっそくボスが現れる。


 初見だからな、ちょっと様子見て——。


「なにやってんですか、こんなのゴリ押しで余裕ですよ」


 てめぇ! 課金装備のやつと一緒にすんなよ!


 あっという間に乃和木が瞬殺して、次のボスへ。クソ、今度こそ俺の真の実力を見せてやるよ。


 よし、突撃じゃあ!


「うわー、回避下手、回復のタイミングも下手ですね。敵の行動パターンと安全地帯安地把握してくださいよ。これじゃあこっちにも迷惑がかかります。マルチプレイは呼吸を合わせないとダメなんですよ?」


 うぜぇぇ! コイツ車の助手席であれこれ指示してくるタイプだな! つーかなんでこんな腕前まで上がってんだよ。これじゃあ長年やってる俺が無能みたいじゃん。無能だけどさ!


 結局、乃和木がボスを倒して終わった。


「またやりましょうね!」


 二度とやりたくねぇー。


「あはは、機会があればっすね」


「もっと練習しないと。友達はいないんですか?」


 ととと友達ぃ? そんなもの要らないんですけどー? 仮に友達365人作ったとして365日毎日結婚したらどうするんですかー? 毎日ご祝儀払わされて生活できなくなるんですけどー? 俺は結婚できないし元取れないんですけどー?


「居ないっすね。コスパ悪いんで」


「出来ないだけですね」


 うるせぇよ! どうせ酸っぱいブドウだよ!


「それじゃあ、と言うのもなんですけど、私と遊びに行きませんか?」


 は、はぁ? 女子となんて遊びに行きませんけどー? どうせ途中で会話に困ってスマホポチポチしだすんだろー? 間違いないね! ネットで見たんだからな!


「ちなみにどこに行くんすか?」


「カラオケです!」


 歌とダンスの練習したいだけだろ!

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