第33話 妹へ相談

「だから優斗!偽物の恋人関係じゃなくアタシと本物の恋人になってくれ!」


 誰もいない公園に美羽の告白が響き渡る。


 俺は突然のことに頭を整理できない。


 そんな俺に美羽が言葉を続ける。


「アタシさ。優斗といると楽しんだ。もちろん、梨沙や他の女友達といても楽しい。でも、優斗の隣は安心するんだ。このポジションは誰にも渡したくないって思えるほどに。だからアタシは優斗に想いを告げた。梨沙に負けたくないから」


 そう言った美羽の目は真剣そのもので、真っ直ぐ俺のことを見ている。


「美羽からそんな風に思われてたんだな」


「やっぱり気づいてなかったか」


「あぁ。なんか距離が近いなーとは思ってたが」


「あれは梨沙に負けたくなかったからだな。だって梨沙の奴、グイグイ優斗に迫るもん。まぁ、優斗は梨沙の想いにも気づいてなかったけどな」


 そう言って美羽が笑う。


「さっき優斗は梨沙の告白に対して真剣に向き合っているって言ったな」


「あぁ。真剣に向き合ってるところだ」


「そうか。なら梨沙だけでなく、アタシのことも真剣に考えてくれると嬉しいな」


 そう言って美羽が満面の笑みを浮かべる。


 その笑顔に俺の心臓が“ドクンっ”と跳ねる。


「そろそろレンタルの時間も終わるから駅に向かうか」


「あ、あぁ。日も落ち始めたからな」


 俺は跳ねた心臓を誤魔化しながら美羽に同意する。


「じゃあ優斗、手……繋いで帰ろ?」


 そう言って俺の右手を握り、指を絡めて恋人繋ぎをしてくる。


「も、もうしてるぞ」


「ははっ、そうだな」


 そう言って笑う美羽の手を振り解くことはできず、俺たちは手を繋いで駅まで歩いた。




 美羽から報酬をもらい、家に帰る。


 その道中、告白の返事に対して真剣に考えていた。


「美羽からもゆっくり考えてくれって言われた。かといって、ずっと保留にするわけにもいかないよな」


 彩さんに至っては告白されてから1週間も経過している。


「まずは俺が誰かと付き合いながら、モモを幸せにすることができるかを考えないと」


 モモの幸せが第一優先である俺にとって、モモを蔑ろにはできない。


「モモを幸せにしながら、付き合った女の子を幸せにする甲斐性なんて俺にあるのか?」


 そう呟いて考え続けるが、一向に答えが出ない。


「いや、それ以前に俺は付き合いたいって思える女の子がいるのか?」


 そんなことを考えていると、いつの間にか家に帰り着いていた。


「部屋に篭って考えるか」


 そう思い、俺は一旦考えるのをやめ、玄関の扉を開けた。




 あれから数日後。


 俺は答えが一向に出ないまま、自堕落な生活を送っていた。


 そんなある日の晩。


 俺はモモと共に食事をとっていると、モモが俺に話しかけてくる。


「何か悩み事でもあるの?」


「っ!ど、どうしてそう思うんだ?」


「お兄ちゃん。ここ最近、ずっと何かに悩んでる顔をしてるから」


(できるだけ顔には出さないようにしてたんだけどな)


 長年一緒にいるモモだから気付かれた可能性もあるが。


「どうしたの?バイト先で何かあったの?」


「あー、問題が起こったわけじゃないんだが……」


 と、そこまで言って俺は考える。


(モモに相談してみるか。どうせ1人で悩んでも出てきそうにないし)


「なぁ、モモ。ちょっと聞いてほしい話があるんだ」


「なーに?」


「その……実は俺、告白されたんだ」


「えっ!友達のいないお兄ちゃんが!?」


「驚くのは良いが一言余計だ。それと、お兄ちゃんは友達が2人できたからな」


 ちなみに、その友達とは梨沙と美羽のことだ。


「ごめんごめん」とモモは謝りながら話を戻す。


「おめでとう!お兄ちゃん!今度、彼女さんを家に連れてきてね!」


「あー、それなんだが……実は保留にしてもらってるんだ」


「えっ!なんで!?その子の性格が悪いとか!?」


「いや、みんな性格は素晴らしいぞ」


「じゃあ、可愛くないとか?」


「それもない。みんな可愛いぞ」


「………なんで複数人から告白されたみたいな返答をしてるの?」


 俺が「みんな」と言ってる部分に疑問を感じたモモが聞いてくる。


「3人から告白されたからだ」


「………」


「夢の話をしてるんじゃないんだ。現実で起こった話をしてるんだよ」


 俺のことをジトーっとした目で見てくる。


「まぁ、お兄ちゃんが変な嘘をつくとは思ってないから本当だとは思ってるけどね」


「じゃあ、今のジト目はなんだったんだよ……」


 俺はボソっと妹にツッコむ。


「それで、お兄ちゃんは誰を選ぶかで悩んでるの?」


「いや、それ以前の問題だ」


 そこで一拍置き、俺は自分の考えを伝える。


「俺はモモの幸せを第一に願っている。そんな俺が、モモと同じくらい彼女にした女の子も幸せにできる自信がないんだ。でも、モモは俺の幸せを考えろと言ってくれた。だから……」


「なーんだ。そんなことで悩んでるんだ」


 俺が話している途中にも関わらず、俺の言葉を遮る。


「そ、そんなことって、俺は……」


「私にとってはそんなことだよ。だってお兄ちゃんなら私と同じくらい、彼女にした女の子を幸せにできるって思ってるから」


 確信めいた様子でモモが言う。


「モモ……」


「だからお兄ちゃんは自分の気持ちに正直になって良いんだよ!気になってる子がいるから、悩んでるんだよね!」


「まぁ……な。3人と付き合いたくないって思ったら、全員を断るだけで悩む必要なんかないからな」


 色々と悩み抜いた結果、俺は1人の女の子と付き合いたいと思った。


 だからここ最近は、モモと付き合いたい女の子の2人を同時に幸せにできるかをずっと考えていた。


「お兄ちゃんなら大丈夫だよ!だから自信持って!」


 そう言ってモモが微笑んでくれる。


「それに私はお兄ちゃんなんかいなくても幸せになれるもん!」


「な、なんだと!?彼氏か!彼氏ができたのか!?」


「お兄ちゃん、うるさい」


「………はい」


 ドスの効いた声で注意される。


「とにかく!私のことは気にせず、お兄ちゃんは自分の幸せのために気になってる子に想いを伝えてくること!そして、私にお兄ちゃんの彼女を紹介してね!」


「あぁ!」


 モモと話してスッキリした俺は、部屋に戻り、1人の女の子へメッセージを送った。

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