第31話 美羽との映画館デート 1

 梨沙から告白された数日後。


 今度は何故か美羽にレンタルされた。


「ごめん、美羽!ちょっと遅くなった!」


「い、いや!優斗は遅れてないぞ!アタシが速く着きすぎただけだ!」


 その言葉通り、俺は待ち合わせ時間の10分前に到着した。


 だが、デートの時に女性を待たせるわけにはいかないので、次からはもう少し速く着くことを決意する。


「じゃあ、映画館に向かうぞ」


「そうだな」


 そう言って俺たちは歩き出す。


 その際、俺は疑問に思っていたことを聞いてみる。


「なぁ、美羽。俺は美羽から『もう2度とレンタルしない』って聞いてたんだが、何かあったのか?」


 前回、美羽と遊園地デートをした時、美羽の妹である結衣ちゃんには彼氏である俺が遠くに行くから会えなくなることを伝えている。


 そのため、会ってデートする必要はない。


「あー、それなんだが……今日が本当に最後だ。今日で絶対にレンタルの関係を終わらせる」


 その発言には何かしらの決意が込められており、美羽の目は本気だった。


「分かった。なら最後の偽彼氏役をしっかりと務めさせてもらうよ」


 そんな美羽を見て、俺は偽彼氏役に没頭することにする。


「あぁ。今日も頼んだぞ、優斗!」


 そんな俺の発言に美羽が眩しい笑顔で応えた。




 映画館へ到着する。


 俺たちはあらかじめ決めていた映画のチケットを購入するため、受付の女性に話しかける。


「すみません。13時から上映の『一途な女が絶対に勝つラブコメ』を見たいのですが……」


「少々お待ちください」


 俺の言葉を聞いて、スタッフが動いてくれる。


 この映画はタイトル通り、主人公を好きになったヒロインが、主人公の好みの女になるため努力し、最終的に主人公と結ばれる物語で、巷では感動作と話題になっている。


「美羽、どこに座る?」


「うーん、そうだな。それなら……」


 と、美羽が何か言おうとした時…


「お客様。現在、この劇場ではカップルシートというものを導入しております。そちらを選んでみてはいかがでしょうか?」


「「カ、カップルシート!?」」


 二人同時に声を上げる。


 明らかに動揺する俺たちへ、店員さんは仕事の一貫かのように淡々と説明を続ける。


「はい。現在は夏休み期間中ということで、キャンペーンを行っており、そちらの方が少しだけお安くなっております」


「い、いや、さすがにちょっと……」


「こちらのシートでは、お互いを仕切るものがありません。しかも、周りからの配慮も行っております。彼女さんと楽しく映画をご覧になれますよ」


(この人、グイグイ来るな!)


 俺たちの反応を見ても淡々と促される。


「カップルシートは他の席とは少し距離がありますので、声さえ出さなければ何をされても……」


「普通の席にします!」


 俺は慌てて普通の席を購入するようお願いする。


「お客様、よろしかったでしょうか?」


 受付の女性は、途中から何も言わなくなっていた美羽に確認をとる。


 どうやら美羽は俯きながら、迷っているようだ。


「み、美羽?」


「あの……そ、その席の方が安いんですよね?」


 そして、なぜか受付の女性に確認をする。


「はい。お安くなっております」


(美羽?さっさと断ろ?普通の席に座ろ?)


 俺は目を使って美羽に伝えるが、美羽は「ふぅー」と一呼吸ついたのち、意を決して受付の女性に告げる。


「そ、その席でお願いします!」


「美羽!?」


 そう美羽が言った瞬間、受付の女性がニヤッと笑ったの俺は見逃さなかった。


 そして「わかりました」と言ってテキパキとチケットを発行する。


「お、おい!美羽!さ、さすがにカップルシートは……」


「だ、大丈夫だ!だってアタシらはその……こ、恋人同士……なんだから……」


 美羽が顔を赤くしつつ言う。


 そのモジモジとした表情や仕草を見て…


(今の俺と美羽は恋人同士。だから問題ない……か)


 俺は抵抗するのをやめた。




「こ、ここがカップルシートか……」


「映画館なのに、薄暗い空間だから2人きりになった気分だな」


 映画の上映時刻10分前、俺と美羽は噂のカップルシートに横並びで座っていた。


 二人掛けのソファのようなものだが、ソファと違う点がある。


 それはその背もたれの高さ。


 後ろの客から見えないよう工夫しているため、その分個室のような密室性があり、美羽と同様、俺も二人だけの空間ではないかと錯覚してしまう。


 それに…


(な、なんか美羽からいい匂いがするしっ!)


 あまりの近さに呼吸をするだけで、いい匂いが鼻を直接刺激してくる。


(くっ、なんだこの甘い香りは。絶対に俺を殺しに来てる。これから2時間、俺は集中して映画を見れるのか?)


 そんなことを思ってしまう。


 すると、美羽が“ピタっ”と俺の肩に頭を乗せる。


「!?」


 俺は突然の出来事に体が動かなくなる。


「なぁ、優斗」


「な、なんだ?」


「アタシたちって恋人だよな?」


「そ、そうだな。今の俺たちは恋人だ」


 偽とはいえ俺たちは彼氏彼女の関係。


 お金をもらう以上、ここは偽れない。


「なら、この体勢で映画を見ても問題ないよな?」


 薄暗い空間だが、至近距離ということもあり、美羽の上目遣いがハッキリと見える。


 それに加え、距離が縮まったことで先ほどよりも良い匂いが鼻腔をくすぐる。


 集中して映画を見るなら断ることが正しいが、美羽の不安そうな上目遣いを見ると断ることなどできない。


「あ、あぁ。いいぞ」


「……ありがと」


 そう言って嬉しそうに俺へ体を預ける。


(こ、こうなったら気合で集中するっ!)


 俺は心の中でひっそりと決意した。

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