第30話 梨沙とのショッピングデート 3

 その後、俺たちは屋上にあるベンチに腰掛け、昔話で盛り上がる。


「見てみて、この写真!」


「おー!これ、小さい頃の俺と梨沙だな」


 梨沙がカバンから1枚の写真を取り出す。


 その写真は俺が梨沙と別れる間際に取った写真だ。


「私、ずーっとこの写真を部屋に飾ってたんだ!だから髪が長い優斗くんを見ても、すぐに私を助けてくれた男の子だって分かったよ!」


「えっ!昔の俺と全然似てないのに!?」


「そんなことないよ!実際、写真の男の子は優斗くんだったし!」


 俺は全く分からないが、見つけることができた梨沙が言うなら、昔と似ているところがあるのだろう。


「私ね、優斗くんに再会したら絶対にやりたいことがあったの。その1つが今日のデートなんだ」


「なるほど。小さい頃巡った場所を、振り返るように巡りたかったんだな」


「うん。そしてもう1つが私の想いを伝えること」


「……梨沙の想い?」


「うん。私、優斗くんに出会ってからずっと優斗くんのことばかり考えてた。今、どこで何をしてるのかなーとか、背は大きくなってるかなーとか」


 梨沙はあの日以降も俺のことを考えてくれた。


 対する俺は今日まで梨沙のことを忘れていた。


 そのことに申し訳なさを感じる。


「そんな感じで優斗くんのことばかり考えていると、いつしか私は優斗くんに会いたくなったの。だから私はこの街に引っ越してきた」


「えっ!俺に会うために引っ越したの!?」


「そうだよ。会いたくて仕方なかったんだ」


 梨沙が嘘を言っているようには見えず、俺は照れてしまう。


「ふふっ、顔が赤くなってるね」


「あ、当たり前だ。そんなことを言われたら誰だって照れるぞ」


「確かに、私も言ってて恥ずかしかったからね」


 そう言う梨沙の顔も若干赤くなっている。


「でも、私はこれからもっと恥ずかしいことを言うから、これくらいで照れてる場合じゃないんだ」


「もっと恥ずかしいこと?」


 そのことに見当がつかず、首をかしげる。


「うん。私ね、さっきも言った通り、ずーっと優斗くんのことばかり考えてたの。小さい頃も引っ越してからも。そして再会してからも。そしたら優斗のことしか考えられなくなって……その……優斗くんのことが好きになってたんだ」


「………え?」


 梨沙からの告白に固まる。


「再会して実際に話すようになってからは、もっと好きになったよ。そして最近は優斗くんと毎日ご飯を食べてデートもできて幸せなんだ。だから、優斗くんが他の人に取られる前に伝えることにしたの。私の想いを」


 顔を赤くしながら俺の目をしっかりと見つめる梨沙。


 そして真剣な表情で口を開く。


「私は優斗くんが好き。私と付き合ってください」


 梨沙の言葉が響き渡る。


 今は夏休み期間中だが、夏に屋上を散歩する人は少なく、ここには俺たちしかいない。


 2人だけの空間の中、俺は梨沙の真剣な眼差しを見つつ、時間をかけて言葉の意味を理解する。


 そして、想っていることを口にする。


「ありがとう。梨沙みたいな可愛い子からそう言われてとても嬉しいよ」


 そこで一拍置く。


 なぜなら、今から俺は「返答を待ってほしい」と返答するから。


 そのため、重い口を開こうとすると…


「ちょっと待って!」


 と、俺の言葉を遮るように梨沙が大声を上げる。


「今、この場で優斗くんの応えを聞くのは反則な気がするの!」


「……反則?」


 梨沙の言ってることが分からないので聞き返す。


「うん。ワガママ言ってる自覚はあるけど、今聞くべきじゃないと思ってるんだ」


「……?」


 梨沙の言うことが理解できないが、どうせ俺は保留にしてもらう予定だった。


 そのため渡りに船といった形で梨沙の発言に便乗する。


「分かった。梨沙が応えを聞きたくなった時に必ず応えるよ」


「うんっ!多分、その時はすぐ来ると思うけどね!」


 確信めいた様子で梨沙が言う。


 その返答を疑問に思っていると、突然梨沙が俺の腕に抱きつく。


「り、梨沙!?」


「私は応えを保留にするとは言ったけど、アプローチしないとは言ってないよ!だから、優斗くんを確実に堕とすために頑張るからね!」


 強がった口調で言ってはいるが、梨沙の顔は真っ赤になっており、恥ずかしいことをしている自覚はあるようだ。


「まだレンタルの時間はあるよね!もう少し私とデートしよ!」


「あぁ、それは問題ないが……も、もしかしてレンタル彼氏を利用したのって俺を堕とすため……とか?」


「そうだよ!鈍ちん優斗くんを堕とすために恋愛マスターをレンタル彼氏に依頼したんだ!まさか堕としたい相手が彼氏役として来るとは思わなかったけど!」


 そう言って梨沙が笑う。


「ほら!時間がもったいないから早くデートを再開するよ!」


「あ、ちょっと!」


 その後は時間ギリギリまで梨沙に振り回されたが、とても楽しい時間を過ごした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る