第28話 梨沙とのショッピングデート 1
その後、彩さんとは気まずい空気……とはならず、2人で楽しくゲームをする。
そして報酬をもらい、彩さんのアパートを出る。
その際…
「夏休み期間中だからたくさんゆーくんをレンタルするわ。楽しみにしててね」
と妖艶な笑顔で言われた。
「お、落ち着け。告白に対して真剣に考えるんだ」
俺は家に帰る道中、彩さんのことを考えながら帰宅する。
しかし、自分の幸せを今まで考えたことのない俺は、自分の気持ちを押し殺して生活していたため、うまく自分の本心を理解できない。
「先延ばしにする男はカッコ悪いが……彩さんにはもう少し待ってもらおう」
幸い、彩さんから返答を急かすようなことはしないと言われているので、じっくりと考えることにする。
そんなことを思いながら俺は自宅を目指した。
あれから数日後。
「お待たせー!」
「全然待ってないから大丈夫だよ」
俺は梨沙にレンタルされて、梨沙のショッピングに付き合うこととなった。
「今日はありがと!」
「まだ感謝されることなんてしてないぞ?」
「ううん!来てくれただけで嬉しいの!」
そう言う梨沙は本当に嬉しそうな顔をしている。
「今日は『恋愛マスター』としてショッピングデートの極意を教えてほしいって聞いてるが……俺、そんな極意知らないぞ?」
「大丈夫だよ!優斗くんは私と一緒にデートするだけでいいから!」
「そ、そうか……?」
それだけで良いとは思わないが、依頼主がそういうので文句は言わない。
そんな会話をしていると、通っている高校から5駅ほど離れている大きなショッピングモールに到着する。
「私、ここに来るの久しぶりなんだよ!」
「へぇ、昔来たことあったんだ」
初耳だったので聞いてみる。
「うん!小学生の時、一度だけ!今でも、その日のことは鮮明に覚えてるよ!」
「そうなんだ。なら、ビックリするところがたくさんあると思うよ。昔と変わってる店が多いからね」
俺は昔から何度も訪れてるため、昔と比べて変わったところの多さに驚いたこともあった。
「それは楽しみだよ!」
梨沙から本当に楽しみだという気持ちが伝わってくる。
しかし、急に元気をなくして…
「変わらないでほしい場所もあるけどね」
と、寂しそうに呟く。
「………?」
その言葉を不思議に思った俺は聞き返そうとするが「あっ!」と梨沙が声を上げるため、聞くのをやめる。
「優斗くんは小さい頃、印象に残った思い出はある?特にショッピングモールで迷子の女の子と出会った思い出とか!」
そして、先ほどの寂しそうな顔などなかったかのような笑顔で聞いてくる。
やけに詳しく聞かれたが、その思い出なら1つ該当するものがある。
「それなら1つあるぞ」
「なになに?」
興味津々といった様子で梨沙が聞いてくる。
「小学3年生の頃なんだが、一人でここに来たことがあってな。その時、小学生くらいの迷子の女の子に出会ったんだ。確か、梨沙みたいに綺麗な赤髪だったぞ」
俺は懐かしむように梨沙に言う。
「やっぱり覚えてたんだ……」
梨沙の口からそんな言葉が呟かれる。
「ん?それってどういう意………」
「よし!それなら今日のプランは決まったよ!」
梨沙の発言が気になった俺は、聞き返そうとするが、梨沙の大きな声にかき消される。
「じゃ、私に着いてきてね!」
そして、梨沙が俺の手を取って歩き出す。
(ま、いいか。また後で聞こう)
そう思い、俺は梨沙と一緒に歩き出した。
さすがに手を繋いだまま歩くのは恥ずかしかったので、放してもらうように提案する。
その時に「わ、私だって恥ずかしいんだよ!?」と言っていた。
「で、まずはどこに行くんだ?」
梨沙がどこを目指しているか分からなかったので聞いてみる。
「もうすぐで着くから……あっ!着いたよ!」
どうやら目的の場所に到着したようだ。
「よかったぁ、まだ残ってて」
そして到着と同時に安堵の声を漏らす。
梨沙に連れてこられた場所は、ショッピングモールの隅っこにある自動販売機しかない場所。
「はい!まず最初の目的地はここだよ!」
「ん?何か買うのか?」
「………?買わないよ?」
「何しにここへ来たんだよ……」
自動販売機しか置かれてない場所を最初の目的地にした理由が分からない。
その時、ふと見覚えがあることを思い出す。
(あれ?ここって確か、迷子の女の子と出会った場所だな。へぇ、まだ残ってたんだ)
「よしっ!次に向かうよ!」
ご満悦の梨沙が踵を返して歩き出す。
(ここへ来た意味は理解できないが、梨沙が満足してるから、気にしなくていいか)
俺は梨沙の笑顔を見ながら、そう思った。
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