第24話 彩さんとのお泊まりデート 1

 俺は彩さんの自宅に到着する。


「いらっしゃい、ゆーくん」


「お邪魔します」


 そんな俺を露出の多い夏物の服を着た彩さんが出迎えてくれる。


「家の方は大丈夫だったかしら?」


「えぇ、なんかと」


 俺が両親のいない特殊な家庭環境ということは伝えていない。


 もちろん、副担任なので草薙優斗の家庭環境は知っているが。


「あの時買った同棲グッズは至る所に置いてるわ」


 その言葉通り、リビングに通された俺は、前回部屋に上がった時にはなかった物の数々が目に入る。


「適当にくつろいでちょうだい。お母さんは19時くらいに来ると言ってたから」


 現時刻は18時半。


 彩さんに言われた通り、お母さんが来るまでは彩さんが買ってくれた同棲グッズの数々を確認しながらゆっくり過ごす。


「彩さん。なんで俺は一泊する必要があるんですか?お母さんが帰ったら俺もコッソリ帰る形で良かったと思いますが」


「それが、お母さんもここに泊まるらしいの。だから同棲していることが疑われないよう、ゆーくんにも泊まってもらうことにしたわ」


「なるほど。恋人関係でもない男の俺が一泊することに危機感を持ってなさすぎだと思ってましたが、翠さんも泊まるんですね」


 翠さんとは彩さんのお母さんだ。


「あ、当たり前よ。私はホイホイ男を連れ込むような女じゃないわ」


 少し頬を染めつつ俺に言うと、“ピンポーン”と玄関のチャイムが鳴る。


「どうやら来たようね」


 その言葉通り、彩さんが玄関を開けたら、彩さんのお母さんである翠さんが現れた。


「こんばんは」


「こんばんは、草薙くん。今日もカッコいいね」


「あ、ありがとうございます」


 彩さんに似て美人である翠さんから褒められ照れてしまう。


「さて、さっそくだけど料理を始めようかな」


 到着早々、翠さんは手を洗って料理を始める。


「草薙くんはくつろいでてね。彩はこっちで私の手伝いよ」


「わかったわ」


 翠さんの指示を受け、俺はリビングで親子2人の料理姿を眺める。


「いい、彩。カレーにパイナップルは入れちゃダメよ。アレを入れてるのはウチだけだから」


「えっ!そうなの!どの家庭でも入れてるものと思ってたわ!」


「あと、辛さは草薙くんの好みも聞かないとダメよ。お子ちゃま舌の彩は甘口が好みだからといって甘口のカレーを作ったらダメだからね」


「お、お子ちゃま舌じゃないわ!か、辛いのが苦手なだけよ!」


「それをお子ちゃま舌と言うんだけど」


 そんな会話が聞こえてくる。


(なんか、彩さんの花嫁修行って感じだな。言わないけど)


 その光景を微笑ましく思う。


 しばらく眺めているとカレーの良い匂いが漂ってくる。


「おー!美味しそうな匂いですね!」


 俺は調理している彩さんたちのもとへ向かう。


「もう少し待ってね。もうすぐで出来るから。彩はご飯をお皿によそってて」


「わかったわ」


 どうやら煮込む段階に入ったようで、彩さんがご飯をよそう。


 そして、翠さんがルーをつぎ、カレーが完成する。


「「「いただきまーす!」」」


 俺は“パクっ”とカレーを食べる。


「んー!美味しいです!」


「そう、それなら良かったわ」


 俺の隣に座っている彩さんがホッと胸を撫で下ろす。


「どう?彼氏に手料理を作るって良いよね?」


「ゆーくんは彼氏じゃないけど……そうね。とても良いわ」


 そして嬉しそうな顔をする。


「これは彩が草薙くんを彼氏として紹介してくれるのも時間の問題ね!」


「そ、そんなことないわよ」


 さらなる追撃を翠さんから喰らい、頬を赤くする彩さん。


「ふふっ、今はそういうことにしといてあげる」


 彩さんの返答に満足したかのような笑顔で翠さんが言う。


「それで、私は草薙くんと彩の惚気話が聞きたいのだけど……何から話してくれるの?」


 さっそく翠さんから惚気話を求められる。


 それに関しては予め彩さんと話し合っていたため、問題なく惚気話をする。


 俺たちがどこで出会ったか、なぜ愛人件ヒモとなったかを重点的に。


 そんな俺たちの話をお酒を飲みながら翠さんは聞く。


「うんうん、若いっていいね!」


 だいぶ酔っ払ったのか、翠さんのテンションが上がる。


「彩も久々にお酒を飲もうよ!」


「私は飲まないわ」


「えー!草薙くんの前で彩が飲んだらどうなるのか、知ってもらってた方がいいんじゃないの?」


「余計なお世話よ。私はゆーくんの前で絶対飲まないから」


「ねぇ、草薙くん!彩はね、お酒を飲むと……」


「お母さん!余計なことを言わないで!」


 俺にこっそりと伝えようとした翠さんを、彩さんが止める。


 しかし、完璧な女性である彩さんの弱点となりそうなので、興味が湧いた俺は翠さんに詳しく聞く。


「その話、とても気になりますね」


「ゆーくん!?」


「うんうん!実は彩ってお酒を飲むと……」


「うるさいわよ!お母さん!私はお酒を飲んでも変な女にならないわ!」


「よくそんなことが言えるね……」


 若干、呆れながら翠さんが言う。


「そこまで言うなら……ごくっ!」


 そう言った彩さんが翠さんの飲んでいたお酒を奪い、半分くらい残っていた酒を飲み干す。


「あっ!それ、かなり強いお酒だけど……」


「なにこれ、喉熱っ!」


「わ、私は度数の強いお酒を勧めようとしたわけじゃないよ?度数が3%のほろ酔いを勧めるつもりだったんだよ?」


 その様子を見た翠さんが「私のせいじゃない」と、全力で説明している。


(一体、どうなるんだ?気になるけど……翠さんの様子からやってしまったんだろう)


 おそらく3%のものを勧めて彩さんが変になるところを少しだけ見せる予定だったのだろう。


 だが、彩さんは度数の高いお酒をグビッと飲んでしまった。


 すると、すぐに彩さんの態度が変わる。


「ぐへっ!」


 座布団に座っていた俺に後ろから抱きつく彩さん。


「ゆーくん……このままぎゅってしてもいい?」


「も、もうしてますって!」


「まだまだ足りないわ」


 そう言ってぎゅーっと俺のことを抱きしめる。


「み、翠さん!?」


「ふふっ、彩はお酒を飲むと人肌が恋しくなるの。酔いが覚めるまで誰かにずっと抱きつくわ」


「えぇーっ!」


 俺の声が部屋中に響き渡った。

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