3章 3大美女との恋の行方

第23話 夏休み開始

【3章開始】


 あれから、夏休み前日まで毎日のように梨沙と紗枝が弁当を作ってくれた。


 学校中の男たちから敵意剥き出しの視線を浴びたが、2人の作ってくれる弁当がとても美味しく、毎日の楽しみとなっていた。


 そして終業式当日の金曜日。


 朝のホームルームで彩さんが教壇に立っていた。


「ホームルームが終わったらすぐに体育館へ移動よ。そこで校長先生からの話を聞き、大掃除をして今日は終わり。終業式だからといって気を抜かないように」


 彩さんが俺たちに向けて1日の日程と注意喚起をして教室から立ち去る。


「ねぇ、優斗くん!今日は予定ある!?」


「買い物に行こうと思ってるんだ。一緒に来ないか?」


 体育館へ向かってる中、俺は梨沙と美羽に話しかけられる。


「ごめん、2人とも。今日は予定があるんだ」


「そうなんだね!また今度、声をかけるよ!」


 2人の誘いを断ることに心が痛むが、今日は先客がいる。


(今日は彩さんの家にお泊まりなんだよなぁ)


 俺は数日前に来たメッセージを思い出す。



『ねぇ、ゆーくん。先週話した通り、またレンタルしたいの。今回は金曜日の夜〜土曜日昼まで。どうかしら?』


『その時間なら空いてますよ』


『ありがとう。今回は私の家にお泊まりしてもらうから、そのつもりで荷物を準備しててね』



(今度、お母さんが料理を作りに来る時に俺をレンタルするとは聞いていたが……なぜお泊まりすることになるんだろうか)


 彩さんに初めてレンタルされた日。


 彩さんのお母さんが帰り際に…

 

 『今度、私がご飯を作りに来るから。その時はご飯を食べながら惚気話を聞かせてね。もちろん、草薙くんも同席でね』


 と言っていた。


 十中八九、これの件でお泊まりすることになったのだろう。


(男である俺と一晩を過ごすことに彩さんはどう思ってるのだろうか)


 そんなことを思いつつ、体育館へ移動した。




 校長先生から有り難くないお言葉をもらい、大掃除の時間となった。


「ごめんなさいね、生徒指導室も掃除してもらって」


「いえ、男手が必要かと思いましたので」


 俺は彩さんと生徒指導室の掃除をしている。


 俺がレンタルしてる『ゆーくん』だと気づかれないように。


「草薙くんは偉いわね。率先して色々なことをやってるところを見かけるわ」


「そ、そうですか?」


「えぇ。素晴らしいと思うわ」


「あ、ありがとうございます」


 彩さんからの評価が高く、褒められたことで照れてしまう。


 その後も彩さんと雑談しながら大掃除を行なっていると…


「痛っ!」


 俺はガラスの破片で右手の甲を怪我してしまう。


「大丈夫?」


「あ、はい。これくらいは問題ありません」


 と強がってみるものの、かなり傷が深く、血が止まらない。


「ちょっと待ってて」


 そう言って先生が生徒指導室から出て、救急箱を持ってくる。


「少し痛むけど消毒するわ」


 その際、消毒液が染みて「痛っ!」と声をあげてしまう。


「はい、お終い。あとはこの絆創膏を貼っておけば問題ないわ」


 そう言って熊のイラストがプリントされている絆創膏を2枚渡される。


「なかなか可愛い絆創膏ですね」


「こ、これは救急箱に入ってた絆創膏よ。決して、私の絆創膏じゃないわ」


「そんなこと聞いてませんよ」


「そ、そうね。忘れてちょうだい」


 少し頬を染め、忘れるようお願いされる。


 その姿はとても可愛らしく…


(彩さんに恋人がいないことが不思議なんだが)


 そんなことを思う。


「もう1枚は今日のお風呂上がりにでも貼るといいわ」


「そうですね、ありがとうございます」


 俺は彩さんに礼を言って絆創膏をもらい、傷口に貼る。


 そしてもう1枚をポケットに入れる。


 その後も生徒指導室の掃除を行い、一通り掃除が終わる。


「草薙くんのおかげで速く終わったわ。ありがとう」


「いえ。また何かありましたら呼んでください」


「えぇ。頼りにしてるわ」


 そう言って彩さんが微笑んだ。




 無事に終業式が終わり、俺はお泊まりの準備をする。


 風呂に入った後、絆創膏を貼り直し、俺は妹のモモに外泊することを伝える。


「へー、お兄ちゃんの口から『友達の家に泊まる』って言葉が聞けるなんて」


 ジトーっとした目で俺のことを見るモモ。


「よくもまぁ、こんな白々しい嘘を私につけるね」


「いや、ほんとに友達なんだって」


 全く信用されていない俺。


「どこに泊まるかも教えてくれないの?」


「……許せ、モモ。明日は一緒に寝てやるから」


「お、お兄ちゃんがいなくて寂しいとか思ってないから!」


「ほんとか?今までお前を一晩1人にしたことなんてなかったから怪しいものだな。実は1人で過ごせないんだろ?」


 中学生の割に頭の良いモモには論点をすり替えるしかない。


 ちなみに性格の悪いことをしている自覚はある。


「〜〜っ!お、お兄ちゃんなんか知らないっ!途中で寂しくなって家に帰ってきても絶対に玄関のチェーンを外さないからね!」


「ありがとう、モモ。変わりに、夜はいくらでも電話に付き合ってやるから」


「電話なんかしないよ!お兄ちゃんのバカっ!」


 そう言って俺の元から去る。


「明日の昼には戻ってくるから!」


「ふんっ!行ってらっしゃい!」


 機嫌が悪そうな割には俺に「行ってらっしゃい」と言うモモ。


 そのことに笑みをこぼしつつ、俺は荷物を持って家を出た。

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