第22話 お弁当

 美羽とデートした翌日の登校日。


「おはよー!優斗くん!」


「優斗、おはよ」


「おはよ、梨沙。それに美羽も」


 2人とも先週と同じように接してくれる。


 そのことに安堵しつつ、朝のホームルームが始まるまで周囲から注目を浴びつつ雑談していると…


「優斗くん!昨日連絡した通り、今日は弁当持ってきてないよね!?」


「あぁ。梨沙と美羽に言われた通り、弁当は持ってきてないぞ」


 昨日の夜、俺宛に2人からメッセージが来た。


 『明日、弁当を持ってこないように』とのメッセージが。


 理由は分からないが、2人の性格上、罰ゲームではないと思い、俺は弁当を持ってこなかった。


 そのことを梨沙に伝えると、なぜか美羽の方を見る。


「………まさか美羽ちゃんと考えることが同じだったなんて」


「それはアタシのセリフだ」


「ふふっ、お昼が楽しみだね」


「そうだな。梨沙には負けないと思うけどな」


 そんなことを言って不敵に笑う2人。


「あのぉ、なんで俺は弁当を持ってこないように言われたんだ?」


 さすがの俺でも弁当を持ってこないように言われたら「弁当をもらえるのでは?」と期待してしまう。


 そのため、今このタイミングで聞いてみる。


「ふふっ、それはお昼までのお楽しみだよ!」


「あぁ!お腹は空かせとけよ!」


 そう言って不敵に笑う2人。


 そのタイミングで副担任の彩さんが教室に現れる。


「じゃ、また後でね!」


 そして2人が立ち去る。


(これは、2人から弁当をもらえるということでいいのか?)


 そんなことを期待してしまった。




 昼休憩となる。


 今日も梨沙と美羽に誘われた俺は2人について行き、中庭で食べることとなる。


 ちなみに梨沙と美羽は大きなカバンを持っている。


「あっ!今日はベンチが空いてるよ!」


「ホントだ。今日はここで食べるか」


 今日はたまたま3人がけのベンチが空いており、俺たちはベンチに座って食べることとなる。


「じゃあ、優斗くんは真ん中ね!」


「……え?」


 その言葉通り、梨沙と美羽が真ん中を空けている。


「なに恥ずかしがってるんだ?」


「いや、そのぉ……」


(2人とも、周り見て?「アイツ誰?」みたいな目で見られてるよ?)


 耳をすませば「死ねばいいのに」だの「誰、あの陰キャ」だの「美羽ちゃんと梨沙ちゃんを独占しやがって!」などの発言が聞こえてくる。


 そのため、躊躇して固まっていると、突然2人から手を取られる。


「!?」


「はやく座るぞ」


「私、お腹空いたんだー!」


 そう言って2人が手を引き、俺を無理やりベンチに座らせる。


 そして、2人が俺に詰め寄る。


 “ピタっ!”と肩と肩が触れるくらい距離を詰められ、俺はドキドキしてしまう。


「ふふっ、顔が赤くなってるよ?」


「優斗って可愛い反応するな」


「っ!」


 そして揶揄われる。


「ふ、2人とも離れた方が……」


「離れたら優斗くんが逃げるでしょ?」


「そんなことされたら困るからな」


「………」


 どうやら逃げられないらしい。


「はぁ、分かったよ」


 俺は周囲からの視線に耐えることを選択し、2人から距離を取ることを諦める。


「うんっ!じゃあ、お待ちかねの昼ごはんだよ!」


「だな。アタシも待ち遠しかったんだ」


 そう言って2人が大きなカバンから弁当箱を2つ取り出す。


「むっ!ここで差を見せつける予定だったのにっ!」


「甘いな。梨沙の考えてることくらい手に取るようにわかるからな」


 悔しそうな梨沙に勝ち誇ったような表情の美羽。


「優斗。今日、弁当を持ってこないように言ったのはアタシが優斗に弁当を作ったからだ」


 そう言って俺に青いランチクロスに包まれている弁当箱を手渡す。


「わ、私も優斗くんに弁当を作ってきたんだ!」


 それに対抗するように、梨沙が花柄のランチクロスに包まれている弁当箱を取り出し、手渡してくる。


「あ、ありがとう。2人とも」


 なぜ作ってくれたのかは一旦放置し、今は2人から渡された弁当箱を開ける。


「おぉー!」


 2つとも食材に違いはあるが、どちらもバランスの取れた弁当で、とてもキラキラしている。


 美羽の弁当は肉がメインとなっており、ご飯の上にタレのついた肉、そして野菜が添えられている。


 対する梨沙の弁当はバランスよく並べられており、ハンバーグやブロッコリーなどのサラダ、そして卵焼きと全ての食べ物が美味しそうに見える。


「いただきます!」


 お腹の空いた俺は美羽の弁当から食べる。


「んー!この肉、とても美味しいよ!」


「そ、そうか!まだまだあるから遠慮なく食べてくれ!」


 俺の発言に嬉しそうな表情となる。


 そんな美羽を見たあと、今度は梨沙の弁当に目を向ける。


「じゃあ、次は梨沙の卵焼きを食べようかな」


 俺は梨沙からもらった弁当から卵焼きを箸でつかみ、食べる。


「おー!これも美味しい!俺好みの味付けだよ!」


「ほ、ほんと!?良かったぁ…」


 俺の発言に梨沙はホッと胸を撫で下ろす。


「でも、なんで弁当なんか作ってくれたんだ?レンタル彼氏でのお礼ならいらないぞ?」


 俺は純粋に思っていたことを伝える。


「えっ!えーっと……美羽ちゃんに負けたくないから?」


「アタシも梨沙と差をつけるためだな。考えることが同じだったから、差をつけることはできなかったけど」


「な、なるほど」


 イマイチよく分からないが、何かの勝負をしていることは理解した。


 その後、2人から弁当をもらったということで、かなりのボリュームがあった俺はなんとか食べ終える。


「ご、ご馳走様。弁当箱は洗って返すから……」


「ううん!そんなことしなくていいよ!だって明日も優斗くんに弁当を作ってくるから!」


「アタシのも持って帰らなくていいぞ。明日もこの弁当箱を使って優斗に弁当をあげるからな」


 そう言って2人は俺から弁当箱を回収する。


「明日も!そんなことしなくても……」


「優斗くんは気にしなくていいよ!私がやりたくてしてるから!」


「アタシもやりたくてしてることだ。だから優斗は気にするな」


 そう言って2人が笑う。


(よく分からないが、今の2人に「要らない」とは言えないよな)


 その笑顔を見て、これ以上断ることをやめた。


【2章完結】

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