第21話 美羽の気持ち

〜長谷川美羽視点〜


 あれから優斗と別れ、アタシは梨沙と一緒に帰る。


 理由は梨沙に聞きたいことと、言いたいことがあるから。


「なぁ、梨沙って優斗のことが好きだろ?」


「ふぇっ!?」


 アタシの隣を歩いていた梨沙の顔が一瞬で赤くなる。


「なっ、なにを言ってるのかな!?」


 そして目を盛大に泳がせながらとぼける。


「アタシが何年梨沙と一緒にいると思ってるんだ?梨沙の気持ちくらい簡単に分かるさ」


「うぅ〜っ!」


 図星だったようで、顔を赤くするだけで反論はない。


「そ、そうだよ!私は優斗くんが好き!だから優斗くんとこっそりデートしてた美羽ちゃんに嫉妬してるからね!」


 そう言って可愛く頬を膨らませる。


 ここまでは予想通りの反応。


(ここからが本当に伝えたいことだ。アタシの想いを梨沙に知ってもらわないと)


 アタシは表情を引き締めなおして口を開く。


「アタシは梨沙に謝らないといけないことがある」


「……?何かな?」


 先ほどまで頬を膨らませていた梨沙が首を傾ける。


 その様子に笑いそうになるが、アタシは表情を緩めずに謝る。


「アタシ、優斗のことが気になってるんだ。もしかしたら好きかもしれない」


「………え?」


 歩いていた梨沙の足が止まる。


 それに合わせてアタシも足を止め、梨沙の方を向く。


「これが好きという気持ちなのかは分からない。優斗とはその……色々あって好きという気持ちを勘違いしてる可能性もある」


「そう……なんだ」


 梨沙が地面を見る。


(きっと怒られるだろうな。だって梨沙の気持ちを知ってる状態で優斗のことが気になってしまったのだから)


 そう思い、ビクビクしながら梨沙の言葉を待つ。


「美羽ちゃんは優斗くんのことが気になってるのか……うぅ、ライバルが増えちゃったよ……」


 梨沙が肩を落としてガッカリする。


「しかも相手は同性の私から見ても可愛い美羽ちゃん……うぅ……」


 そして、どんどん気分が落ちていく。


「でもこれは私のせい。今まで私が優斗くんとの距離を縮めることができなかったから」


 すると、突然自分を責め始める。


「ア、アタシには怒ったりしないのか?」


 先に好きになったのは梨沙だから、後から好きになったアタシに良い思いをしない。


 そう思い、アタシは怒られることを覚悟していた。


 しかし…


「……?私は怒ったりしないよ。だって恋は自由だからね。さすがに彼氏を奪い取るとか言われたら怒るけど」


 そう言って梨沙は笑う。


「そうか……やっぱりアタシの親友は変わってるな」


「か、変わってるかなー?」


 梨沙が可愛く首を傾げる。


(ほんと、アタシの親友は優しいな)


 そう思うと梨沙に抱きついてしまう。


「み、美羽ちゃん!?」


「これから暇だろ!アタシとご飯食べ行こーぜ!優斗の好きなところを話しながら!」


「えぇーっ!」


 梨沙が大きな声をあげる。


 そんな梨沙の手を握り、無理やりファミレスに連れて行った。




「えっ!梨沙も優斗をレンタルしてるのか!?」


「うんっ!だから美羽ちゃんが優斗くんをレンタルしたってすぐわかったんだー!」


 アタシは無理やり連れてきた梨沙とファミレスで女子会を開いている。


「なるほど。だからレンタル彼氏って言葉がすぐに出てきたのか」


 レンタルの言葉だけで気づくことができたのは理由があったようだ。


 そんなことを思っていると、テーブル越しに梨沙が顔を近づける。


「で、美羽ちゃんは優斗くんと2回もデートしたんだね?」


「あ、あぁ。2回したな」


 急に梨沙の顔が近くに来たため、少し顔を引きながら答える。


「ってことは、もう一度、優斗くんに会いたいって思ったんでしょ?」


「そ、そうだな。また会いたいって思ったから2回目のデートが開かれたんだ」


 梨沙の指摘通り、嫌な奴なら2回目なんてお願いしない。


 それ以前に結衣から「もう一度会いたい!」といった発言もなかっただろう。


「美羽ちゃんは優斗くんのどんな所に惹かれて気になってるの?」


「そ、そうだな。やっぱり優しくて紳士なところかな。アタシが困ってる時はアタシのことを考えて助けてくれる。そして自慢したりしない。アタシはそんな優斗に惹かれたんだと思う。他にも…」


「うん、もう大丈夫だよ。美羽ちゃんが優斗くんのことを好きってことが分かったから」


「す、好きってわけじゃなくて、アタシは気になってるだけだぞ?」


 アタシは梨沙の指摘をすぐさま訂正する。


 しかし、梨沙が「はぁ……」と呆れながら手鏡を取り出してアタシに見せる。


「鏡見て、美羽ちゃん。こんな顔してるのに好きじゃないって言うのは無理があるよ?」


「っ!」


 アタシは梨沙に見せられた鏡を見て驚く。


 そこには顔を赤くして嬉しそうな顔をしている恋する乙女が映っていた。


「ア、アタシって優斗のこと好きなのか?」


「それは分からないけど、好きじゃないって言われても説得力ないよ?」


 梨沙の言う通り、優斗の話をしただけで幸せそうな顔をしているアタシ。


 初恋の経験はないが、優斗のことが好きと認めると心がスッキリする。


「そうだな。アタシは優斗のことが好きみたいだ」


「ふふっ、明日から優斗くん争奪戦が始まるね」


「負けないぞ」


「うん!私もだよ!」


 そんな会話をしてアタシらはファミレスを後にした。

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