第19話 美羽との遊園地デート 4

「次のお客様〜」


 しばらく世間話をしているとスタッフから呼ばれ、お化け屋敷の中に入る。


「な、なぁ、優。く、暗くないか?」


「そうだな。思った以上に本格的だ」


 入った瞬間、明かりが一切届かなくなる。


「さて、進むか」


「あ、あぁ」


 震えてる声で隣にいる美羽が返答し、俺たちは歩き出す。


 しばらく歩くと「ポタっ…ポタっ…」との音が聞こえてくる。


「な、なんか水の音が聞こえるんだけど、雨漏りでもしてるのか?」


「確かにポタポタと音は聞こえるが、外は雨なんか降ってないぞ?」


 俺は隣にいる美羽へ雨漏りではないことを伝える。


「だ、だよな?じゃ、じゃあ……ひゃぃ!」


 突然、美羽が変な声を出す。


「ど、どうした!?」


「く、首元に水が当たったような……」


「ん?上に何かあるのか?」


 俺たちは同時に上を見る。


 すると、頭上に怖い顔のお面をした人形が吊るされていた。


「キャァァァァァァ!!!!」


 それを見た美羽が悲鳴を上げながら俺の右腕に抱きつく。


「も、もももしかして、アタシがさっき感じた水滴って……血……なのかも」


「お、落ち着け!あれは人形だ!」


「そ、そうだよな!さすがに人間の血じゃないよな!」


 テンパりながらも何とか人形であることを理解した美羽がホッと安心する。


「だから安心して進もう」


「あ、あぁ」


 そう言って俺たちは歩き始めるが…


「な、なぁ、美羽さん?」


「な、なんだ?」


「なんでまだ俺に抱きついてるんだ?」


「えっ!そ、それは……こ、怖いから……」


 美羽が目を潤ませ、震えながら言う。


 どうやら見栄を張るのは終了したようだ。


「だ、だから……も、もうちょっとだけ、このままでいいか?」


 そして、上目遣いでお願いされる。


「お、お化け屋敷を出るまでだぞ?」


「う、うん。あ、ありがと…」


 最初に張った見栄をどこかへ投げ捨てており、今の美羽はお化けに怖がっているただの美少女。


 そんな美羽の姿にドキっとしてしまう。


 俺は右腕に感じる柔らかい感触を堪能しないよう注意しつつ、ゆっくりと前に進む。


 すると…


「なんだ?ここは?」


「病院の病室だと思うけど……」


 俺たちは病院のベットが何個も並べられている場所に辿り着く。


「進むにはベッドとベッドの間を通らないといけないようだな」


「うっ、そ、そうだな……これ、絶対なにか起こるよ……」


 腕に抱きついている美羽が、そんなことを呟く。


「俺もそう思うが通るしかないだろ」


「だ、だよな……」


 俺たちは覚悟を決め、ベッドとベッドの間を歩く。


 少し歩くと天上から1体の人形が突然落下し…


「呪ってやる……呪ってやるぞぉぉぉ!!!」


 と叫びながら俺たちの前に姿を表す。


「キャァァァァァァ!!!!」


 それを見た美羽が悲鳴を上げて俺への抱きつきを強める。


「だ、大丈夫だ!これも人形だから!」


 未だに目をつぶって震えている美羽に声をかける。


「ほ、ほんとか?」


 そんな美羽が涙目になりながら上目遣いで聞いてくる。


「あ、あぁ。だから怖がらなくていいよ」


 俺が声をかけると、美羽は人形をだということを確認して、その場に座り込む。


「お、おい!大丈夫か!?」


「も、もう無理。歩けない……」


 どうやら驚きすぎて腰を抜かしたようだ。


「ご、ごめん。うまく立ち上がれなくて……」


 美羽の身体を見ると、未だに震えているのがわかる。


(見栄なんか張らなくていいのに。まぁ、可愛い美羽を見れたから役得ではあるが)


 そんなことを思いつつ、俺は美羽をおんぶできるように座る。


「ゆ、優!?」


「け、決してやましい気持ちがあるわけじゃないぞ。ただ、ここでずっと座ってるわけにもいかないから……」


 俺はしゃがんだ状態で必死に美羽をおんぶする理由を述べる。


「やっぱり優は優しいな」


 すると、そう呟いて美羽が俺の背中に乗る。


「優のおかげでさっきまでの恐怖が嘘みたいに無くなった。ありがと」


 その言葉は嘘じゃないようで、今は一切震えていない。


「気にするな」


 そう応えた俺は、美羽をおんぶしたまま歩き続けた。




 あれから、美羽をおんぶしたまま歩き続けるが…


(おんぶってヤバいぞ。美羽の柔らかいアレが背中に当たって、正直お化け屋敷どころじゃないんだが)


 俺は自分自身と戦っていた。


 決して大きくはないが程よい膨らみを持つ美羽のアレは童貞の俺には刺激が強い。


「やっぱり重いよな?」


 そんな俺の動揺が伝わったのか、美羽が見当違いなことを聞いてくる。


「い、いや、全然重くないぞ!むしろ軽いくらいだ!」


「そ、それならいいけど…」


 そんな会話をしていると、日の光が遠くに見えた。


「お、出口のようだな」


(ふぅ。危なかった。俺の理性よ、よく頑張った)


 そう手放しで褒めてあげたい。


「その……おんぶしてくれてありがと」


「これくらい大したことないよ」


 俺は出口前で美羽を降ろす。


 そして出口に向かって歩き出す。


「このドキドキは吊り橋効果だ。勘違いするな」


 その時、美羽が何かを呟いてたが、俺の耳には届かなかった。




 その後、夕方まで美羽と遊園地を満喫し、俺たちは最寄駅で別れることとなる。


「今日はありがと。アタシの見栄に付き合ってくれて。それと、お化け屋敷のことは忘れてくれ」


 お化け屋敷のことを思い出してか、美羽の顔が赤くなる。


「コレが今日の報酬だ」


 そして俺は諭吉を2枚もらう。


 美羽からお金をもらうのは心苦しいが、受け取らなければ怪しまれるので素直に受け取る。


「今日も楽しかった。目的も果たせたし」


 目的とは結衣ちゃんに俺が県外に行くため、しばらく会えないことを伝える件。


「また何処かで会った時は声かけるから。その時は無視しないでくれると嬉しいな」


「あぁ。俺も美羽を見かけることがあったら声かけるよ。美羽とのデートは楽しかったから」


「そ、そうか……。優も楽しかったって思ってくれたんだ」


 そう呟いて嬉しそうな顔をする。


「じゃあ、俺はこれで……」


「ま、待ってくれ!」


 お金をもらったので長居するのは良くないと思い立ち去ろうとするが、美羽に呼び止められる。


 俺は振り返り美羽の顔を見ると、真剣な表情をしていた。


「な、なぁ優。こ、今度はレンタルの関係じゃなくてアタシと……」


「えっ!美羽ちゃんと優斗くん!?」


 真剣な顔で何か言ってる最中、馴染みの声が聞こえてくる。


「り、梨沙!?」


 その声の主を見て、美羽が驚きの声をあげる。


 そこには紙袋を持った私服姿の山﨑梨沙がいた。

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