第16話 美羽との遊園地デート 1

 翌日の日曜日。


 俺は美羽にレンタルされた。


 内容は美羽の彼氏として妹の結衣ちゃんを交えた3人で遊ぶこと。


 現在の時刻は8時55分。


 集合時間の5分前に集合場所へ到着した俺は、すでに集まっていた美羽と結衣ちゃんに謝る。


「ごめん、遅くなった!」


「気にするな。アタシらがはやく来すぎただけだ」


「そうですよ!」


 開口一番に謝ると、2人は気にしなくて良いと言ってくれる。


 その優しさに感謝しつつ、俺は目的地を聞く。


「今日はどこに行くんだ?」


「遊園地だ。結衣が優と行きたいらしくてな」


 俺たちの住んでいる街には大きな遊園地があり、今日はそこに行くようだ。


「あ!ウチは途中で友達と合流するから、草薙さんとお姉ちゃんのデートを邪魔する予定はないからね!」


 詳しく聞くと、結衣ちゃんは12時から友達と遊園地を周るらしい。


 ちなみに今日のレンタル時間は夕方までなので、結衣ちゃんと別れた後も俺は美羽と遊ぶようだ。


「それじゃ、れっつごー!」


 右手を天井に突き上げて結衣ちゃんが歩き出す


 その様子を後ろで見ていると、美羽から話しかけられる。


「すまんな、優。こんなことに付き合わせて。もう2度お願いしないと思ってたんだが」


「気にするな。これも仕事だからな」


 俺は謝ってくる美羽に仕事だからと伝える。


「仕事だから……か」


 すると美羽の表情が突然曇る。


「アタシ、優に会えるの結構楽しみにしてたんだ。優は仕事だからそんなこと思わなかったかもしれないが」


 そう言って肩を落とす。


 そんな美羽を見て、俺は思っていることを素直に伝える。


「なぁ、美羽。もしかして俺が仕事だから嫌々来たと思ってないか?」


「え?違うのか?」


 不思議そうに問いかける。


「あぁ。偽の彼氏という形だが、美羽みたいな可愛い子とデートできるんだ。楽しみに決まってるだろ?」


「かっ、可愛い……」


 俺が伝えた途端、美羽の顔が赤くなる。


「だから俺に気を使う必要なんかないぞ」


「そ、そうか……それならとても嬉しいぞ」


 そう言いながら美羽が微笑む。


「っ!」


 その笑顔にドキっとしてしまい、美羽から目を逸らす。


 そのタイミングで前方にいた結衣ちゃんが声をあげる。


「遅いよ!2人とも!10分後の電車に乗りたいんだから!」


 遠くの方からでも分かるくらい頬を膨らませている。


「ウチの妹がお怒りだから急いで結衣のもとに行くか」


「そうだな」


 俺たちは早足で結衣ちゃんのもとへ向かった。




 9時半からの入園開始に間に合った俺たちは、入園開始を待つ行列に並んでいる。


「草薙さんってモデルとかやってますか?」


 行列を待つ間、結衣ちゃんが俺に話しかけてくる。


「いや、そんなことはやってないぞ」


「えー!勿体ない!草薙さん、とてもカッコイイのに!」


「そうだな。アタシもやってないのは勿体ないと思うぞ」


「そ、そうか?」


「うんっ!だってここに来るまで、草薙さんのことを見てる女の子がたくさんいたよ!きっと草薙さんのカッコ良さに見惚れてたんだよ!」


「そんなに褒められると頑張って身だしなみを整えた甲斐があったよ。美羽の横に立つとなれば、並の男じゃ困るからな」


 美羽の隣に並んでも問題ない男になれるよう身だしなみを整えた俺は、2人に褒められて嬉しくなる。


「でも、草薙さんは気合い入れすぎ!これじゃ、草薙さんに言い寄ってくる女の子が増えてお姉ちゃんが困っちゃうよ!」


「そ、そうか?」


「うん!お姉ちゃんもそう思うでしょ!?」


「え!?あー、そ、そうだな」


 突然振られた美羽が慌てて答える。


「でしょ!だから『草薙さんはウチのものだー』ってアピールしないと!」


「「えっ!」」


 俺と美羽の声が被る。


「だからお姉ちゃんと草薙さんは手を繋いだ方がいいと思う!」


「「っ!」」


 まるで名案かのように結衣ちゃんは言うが、その提案に俺たちは固まる。


「あれ?どうしたの?」


「い、いや!なんでもない!優と手を繋ぐくらい何度もやってるからな!」


 強がる美羽が俺の手を握ろうとするが、頬を少し染めながら手を出しては引っ込めている。


 その様子にクスッと笑ってしまう。


(見栄を張った妹の前だから頑張ろうとしてるなぁ)


 美羽は見た目に反して男慣れしていない。


 初恋の経験もない初心な女の子ということは、仲良くなった数日間でよく分かった。


(美羽と関わるまでは男遊びが得意な美少女だと思ってたから、全然違うことを知った時は驚いた)


 慣れないことをしようとしている美羽を見て自然と笑みが溢れつつ、俺は美羽の手を握る。


「ひゃっ!」


 すべすべしてて柔らかい美羽の右手を握り、指を絡めた恋人繋ぎをすると、美羽が変な声をあげる。


「いつも美羽は恥ずかしがるから俺から手を握ってるんだ」


「そーなんだ!お姉ちゃん、可愛いね!」


「〜ぅ!」


 妹に恥ずかしいところを見られた美羽が、顔を赤くしながら声にならない声をあげる。


 その様子は普段の美羽からは想像できないくらい照れた顔をしており、控えめに言ってとても可愛い。


「な、なにか言いたそうだな?」


「いや、可愛いなって」


「っ!」


「でしょ!ウチのお姉ちゃん可愛いよね!」


 俺の発言により一層顔を赤くする美羽と、手放しで同意する結衣ちゃん。


 その後、一向に顔の赤みが治らない美羽の手を握りながら、遊園地の開園を待った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る