第15話 並木彩とのショッピングデート 2

 フードコートに到着する。


 そこで俺は唐揚げ定食を注文し、彩さんはハンバーグ定食を注文する。


「あの、失礼なことを聞いてもいいですか?」


「えぇ。内容によっては怒るけど」


 割とマジトーンで言われる。


「彩さんってもしかして恋愛経験ゼロですか?」


「あなた、聞きにくいことをズバッと聞くわね」


「さっきから気になりすぎて」


 今日だけで男性と恋愛をしたことないんじゃないか?と何度も思わせてくれる。


「言いたくないのなら答えなくて構いませんよ。失礼なことを聞いてることは自覚してますので」


「そうね」


 俺の発言を聞いて悩んだ顔をする彩さん。


「今後のことを考えて話してもいいかもしれないわ」


 そう呟いて水を一口飲んだ彩さんが話し始める。


「私ね、学生時代はドが付くほどの真面目ちゃんだったの」


「今でも十分真面目そうですよ?」


「そんなことないわ。部屋ではゲームしてゴロゴロしてるから。でもね、学生時代の私は四六時中真面目ちゃんだったの。と言ってもイメージ湧かないと思うから……」


 そう言ってスマホを取り出し、少し触った後、俺にスマホを見せる。


「私がこの街に来る前、学生だった頃の写真よ」


 俺は見せられたスマホを見る。


「ごほっ!ごほっ!だ、誰これ!?」


 そこには、漫画に登場する真面目系メガネっ子が無表情で写っていた。


 髪の毛は今みたいにロングにしておらず三つ編みにしており、メガネもオシャレなメガネではなく真面目ちゃんが付けるようなメガネ。


「高校生の頃の私よ」


 少し恥ずかしそうに彩さんだと認める。


「彩さん、今コンタクト使ってるんですか?」


「真っ先に気にするところじゃないでしょ。コンタクトだけど」


「たまに目つきがキツイことがあったので、視力悪いんじゃないかと思ってましたから」


「今も昔も愛想なくて悪かったわね」


(そんなこと言ってねぇよ)


 少し睨まれながら呟かれる。


「私の地元が周りに田んぼしかないド田舎だったの。だからといって、この姿はあんまりだけど」


 昔の自分に文句を付ける彩さん。


「見た目は真面目ちゃんですが、中身も?」


「えぇ。笑っちゃうくらい見たまんまよ。勉強ばかりで趣味は読書。友達との遊びも少なかったわ。おかげで教師という仕事に就けたのだけど、それだけだったわ」


「それだけ……というのは?」


「信じてたのよ。たくさん勉強して就職したら自然と恋愛して結婚して……真面目に頑張れば人並みの人生を送れると思ってたわ。でもある日、1人でカップ麺を食べながら地元の友達から届いた何通目かの結婚式の招待状を見てた時思ったの」


 ――おかしいなぁ。私はいつまでこんな生活を続けるのだろうって。


 完全に冷え切った料理には手をつけず、俺は彩さんの話を聞き続ける。


「でも、そんな状況を理解してるにも関わらず、全く結婚する気がないの。当たり前よね。恋愛の『れ』の字も知らない私が結婚なんてできるわけないもの。そして今頃になって心配し始める私の親も親よ。もっとはやく教えなさいよ!バーカっ!」


 徐々に熱弁し始めて声のボリュームも大きくなっているが、幸い今日は土曜日。


 たとえ独身女性が半ギレで吠えようが、誰も気にしない。


「ぜぇぜぇ……」


「スッキリしましたか?」


「大事なものを失った気がするわ……」


 そんなことを呟き、冷え切ったハンバーグを口にする彩さん。


「つまりね、色々と脱線したけど私が言いたかったのはゲームに出会えて良かったということよ」


「なんでゲーマーになった経緯を美化してるんですか」


 彩さんは見た目に反してゲームが趣味で、暇さえあればゲームをしてるくらいのゲーマーだ。


「ゲームのおかげで私は不真面目になることを学んだのよ。なくてはならない物だわ」


 先生が言っていい発言かは置いとくとして、ゲームに助けられたのは間違いないようだ。


「つまりね。もう1人でいいって言うか、現実でもソロプレイヤーで良いかなって思ってるわけよ」


「それで愛人のフリですか」


 おおかた、お見合いしろ等々をお母さんから言われたのだろう。


「えぇ。親がうるさくてね。でも私は好きで独身やってるのよ。邪魔しないでほしいわ」


「なるほどです。話はよく分かりました。でも1つだけ聞いてもいいですか?」


「何かしら?」


「もしいい出会いがあったら恋愛する気はあるんですか?」


「そうね。私も女の子だもの。恋をしてみたいという願望はあるわ。でも、なんで聞くの?」


「彩さんが美人なので、ずっと独身は勿体無いと思っただけです」


 俺の発言に目を見開いて驚く。


「も、もしかして私のこと口説いてるのかしら?」


「く、口説いてるわけではありませんが、事実を述べただけですよ」


「……そう」


 彩さんの頬が赤くなる。


「そんなこと言ってくれる機会が少なかったから耐性がないの。軽々しく言わないでほしいわ」


 そう言って再びハンバーグを食べ始める。


(誰かもらってあげて。先生、めっちゃ可愛いからさ)


 そんなことを思いながら俺も冷え切った料理を口にした。




「荷物まで持たせちゃってごめんなさいね」


「いえ、これくらい構いませんよ」


 俺は彩さんのアパートまで荷物を運ぶ。


「その……今日は楽しかったわ。ありがとう」


 そして報酬を受け取る。


「俺も楽しかったです。彩さんがソロライフを満喫できるよう、愛人のフリを頑張りますので」


「それはそれで……まぁいいわ。今日はありがとう。来週くらいにもう一度レンタルすることになるから、その時はよろしくね」


「はい、今日はありがとうございました」


 俺は彩さんに礼を言ってアパートを出る。


「さて、明日は美羽と結衣ちゃんの3人でデートか。美羽に俺がクラスメイトの『草薙優斗』だとバレないといいなぁ」


 そんなことを思いながら自宅を目指した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る