第14話 並木彩とのショッピングデート 1

 土曜日となる。


 今日は並木先生からレンタルされて、デートをすることとなっている。


 レンタルの理由は『家に同棲してる証拠品がない』から。


 確かに、俺の日常品は一つも置いておらず、洗面台など隅々まで調べられたら一発で同棲してないことがバレる。


 ということで、俺たちは同棲するのに必要な物を買いに、近くのショッピングモールを目指して歩いている。


「暑いわね」


「暑いですね」


 大人らしさを出しつつも、夏らしい爽やかな服装に身を包んでいる彩さんが呟く。


 前回はスーツ姿しか見ておらず、学校でもスーツを着ているので、彩さんの私服姿にドキッとしてしまう。


「それにしても、今日もゆーくんはカッコいいわね。道行く人たちから注目されてるわよ」


「そ、それを言うなら俺じゃなくて彩さんですよ」


 今もすれ違う人たちから「胸でかっ……」とか「モデルさんかな?」とか言われている。


「そんなことないわ。ほら、今すれ違った女の子たちなんか、ゆーくんのことずーっと見てたわよ」


「あはは……なんか恥ずかしいですね」


「ふふっ、そうね。なら急いで向かいましょうか」


 俺たちはすれ違う人たちから注目を集めながらショッピングモールを目指した。




 ショッピングモールに到着する。


 土曜日ということで家族連れやカップルなど、たくさんの人で溢れかえっていた。


「人が多すぎて疲れそうだわ。はやく終わらせて帰りましょう」


 そういって彩さんがメモを取り出し俺に渡してくる。


「これから買う物のメモですか?」


「そうよ。私が同棲に必要な物をリストアップしてるわ」


 メモを見ると歯ブラシや食器類、枕等が記載されている。


「今度お母さんが来た時は前回よりも長居するわ。その時までにカモフラージュしておこうと思って」


「分かりました。このメモ以外にも必要な物がないか、確認しながら買い物しましょう」


「話がはやくて助かるわ。落ち着きようといい、とても高校生とは思えないわね」


「そんなことありませんよ。それを言うなら彩さんだって、その格好だと大学生のお姉さんにしか見えませんよ?」


「………」


 俺が褒めた途端、彩さんが困ったような表情となる。


「すみません、変なこと言いましたね。忘れてください」


「いえ、ゆーくんは悪くないわ。ただ、お世辞でもそんなことを言われたことが少ないから反応に困って」


「え、そうなんですか?」


 学校で3大美女と呼ばれてるので、校内ではチヤホヤされていると思っていた。


「えぇ。だから反応に困ってたのだけど……決めたわ。ありがとうって笑って言うことにするわ。ありがとう、ゆーくん」


 その笑顔に歳上の色気を感じ、つい見惚れてしまう。


「あ、この店なんてどうかしら?」


「そっ!そうですね!いいと思います!」


「……?そう?なら入るわよ」


 俺の反応に首を傾げた彩さんだが、すぐに歩き始める。


「まずはペアのマグカップを買うわ」


「同棲の定番グッズですね」


「えぇ。この日のためにゲームの時間を割いて見たくもない恋愛ドラマを見たんだもの。この程度の常識は備えているわ」


 少し得意気な彩さんだが、自慢するところではないと思う。


(ここまでの会話から同棲するまでに至る恋愛をしたことがないようだが……さすがに恋愛経験くらいはあるよな?)


 歩くだけで男の視線を集めている彩さん。


 それくらい美人な彩さんが恋愛経験ゼロとかそんな事実はないと信じたい。


「ゆーくん、コレなんてどうかしら?」


 俺が不安に思っていると、彩さんから声がかかる。


「どれですか?」


「コレよ。真空耐熱で持ちやすさを追求した持ち手、それにお手入れ簡単な幅広設計。コレにしましょう」


「却下です」


 見ただけで同棲カップルが使っているようなマグカップではないものを提示される。


「む〜。あ、じゃあコレはどうかしら?落としても絶対に割れない構造をした……」


「却下ですよ。なんで機能性を重視した物ばかり選んでるんですか」


「………もう、紙コップでいいんじゃないかしら?」


「不貞腐れないでください」


 俺に指摘されたのが悔しいのか、むすっとしている。


「ゆーくんって本当に高校生なの?実は私より歳上ってことは……」


「ありません。ごく一般的な意見を言っただけです」


「つまり、ゆーくんは私が一般からあぶれた独身女性と言いたいのね?」


「あ、コレなんてどうですか?」


 勝手に盛り上がっている彩さんを無視して、近くにあるマグカップを手に取る。


 色違いでマグカップを並べると2匹の犬が寄り添うように見える可愛いらしいマグカップ。


「あら、可愛いわね」


 1人で盛り上がっていた彩さんも、このマグカップを見て落ち着く。


「コレがいいわね。気に入ったわ」


「ついでにフォークやスプーンも買いましょうか」


「えぇ」


 そんな感じで一通り揃える。


「実際に使うワケでもない物を買ったとなると、なんとも悲しい出費ね。別に良いのだけど」


 買った物の数に比例して出費が増え、見る見るうちにテンションが下がる。


 彩さんとの距離感をまだ掴みきれていない俺としては、どうフォローしたらよいかと考えてしまう。


 すると「ぐぎゅるるる〜っ」とお腹の虫が聞こえてくる。


「わ、私じゃないわ」


 顔を真っ赤にして弁明する彩さん。


「そういえばお昼がまだでしたね」


「私じゃないと言ってるでしょ?」


「向こうにフードコートがありましたので、休憩がてら食べに行きましょうか」


「えぇ、そうよ!私よ!私のお腹の虫が鳴ったのよ!だって夜遅くまでゲームして朝起きた時にはゆーくんとのデートの時間だったの!食べる時間なんてなかったのよ!」


「さて、行きましょうか」


「ねぇ、ちょっとは触れてくれないかしら?全く触れないでいてくれるのも、キツイものがあるわ」


 ジトーっとした目で俺に訴える。


「彩さんって時々可愛いところがありますよね」


「っ!」


 ものすごい顔で睨まれる。


「すみません、調子に乗りました」


 そんな彩さんへすぐに謝る。


「い、いえ。怒ってるわけじゃないわ。ただ、可愛いなんてほとんど言われたことないから、ビックリしてしまって」


 そう言って頬を少し赤くする。


(え、もしかして本当に恋愛経験ゼロなんじゃ……っていやいや、彩さんほどの美女が恋愛経験ゼロとかあり得んだろ。うん、きっと冗談だ)


 そう自分に言い聞かせ、彩さんとフードコートを目指した。

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