第10話 愛人兼ヒモ役と恋愛マスターを終えて

〜並木彩視点〜


 ゆーくんが部屋に来てくれた夜。


 お母さんから電話がかかる。


「なに、お母さん」


「嫌そうに電話に出たね」


「当たり前よ。良い予感がしないのだから。で、要件は何?」


「あ、そうそう。今日、彩のアパートに行って愛人の草薙くんと会ったけど、草薙くんとは同棲してるんだよね?」


「えぇ。同棲してるわ」


 私は結婚する気がないため、愛人兼ヒモであるゆーくんと同棲しているとお母さんに伝えている。


「その割には草薙くんが住んでる形跡がなかったような気がするのよねぇ」


「!?」


 まさかの指摘に言葉が詰まる。


「あ、ふと思っただけだから違うとは思うよ。実際、リビングしか見てないからね。だから今の発言は忘れてちょうだい」


 と言われても、忘れることのできる発言ではない。


「それで本題なのだけど、彩の学校が夏休みに入ったらご飯を作りに行くから。その時には草薙くんを交えて一緒に食べましょ」


「待って、お母さん!そんなことしなくても……」


「ダメよ。今日、彩の食生活を見て作りに行かないとって思ったから。じゃ、また連絡するね」


「あ、ちょっ!」


 そこで電話が切られる。


「マズイわ。急いで同棲してる証拠を作らなきゃ」


 現在は7月中旬ということで、再来週の土曜日から夏休みとなる。


「今週の土日、どちらかでゆーくんをレンタルしないと」


 そんなことを思い、ゆーくんにメッセージを送った。





〜山﨑梨沙視点〜


 私が草薙くんの変装をすぐに見抜くことができたのは理由がある。


「ただいま〜」


 現在、私の両親は海外出張中なので家には誰もおらず、返事が返ってくる事はない。


 私は慣れた手つきで料理を作り、1人で食べる。


 そして癒しの空間である自分の部屋へ入り、ベッドにダイブする。


「ふふっ、偶然だったけど草薙くんとイチャイチャしちゃった」


 今も思い出すだけで顔が真っ赤になる。


「さて、これからどうやって草薙くんを堕とそうかな〜。ねー、草薙くん?」

 

 私は部屋に飾ってある1枚の写真に語りかける。


 その写真には幼い頃の私と、幼い頃の草薙くんが写っていた。


「草薙くんは勘違いしたみたいだけど、私は言葉通り毎日草薙くんを見てるんだよ?」


 公園へ移動する道中、私は『毎日草薙くんの顔を見てるからかな?』と言った。


 草薙くんは『毎日教室で話してるから』と捉えたけど、実際は言葉通り、毎日草薙くんを見てるから。


 もちろん、幼い頃と現在の姿では違う部分はあるが、そもそも大好きな人を見間違うことなんてあり得ない。


「それにしても草薙くんの腕、すごく立派だったなぁ。あの腕で私のことをぎゅーってしてくれたら……んっ」


 それを想像しただけで興奮してしまい、自然と下半身に手が伸びる。


「はぁはぁ……く、草薙くん……んんっ!」


 その後、草薙くんに伝えた通り、私は眠れない夜を過ごした。


【1章完結】

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