第9話 山﨑梨沙の恋愛マスター 2
「私に恋の必勝法を教えてね!恋愛マスター!」
満面の笑みで山﨑さんが言う。
「なら、さっそく始めようか。山﨑さんから依頼されたレンタル時間は1時間だから後30分しか……」
「あ、そのことなんなけどね、草薙くん。レンタルの時間を延長したいなーって思ってるんだ」
「延長?」
「うん。男の人にレンタルを依頼するってことは男の人と2人きりになるってこと。好きな人でもない人と長い時間一緒にいるのは私が嫌だったから1時間に設定したけど、草薙くんが相手なら話は変わってくるよ」
そう言って山﨑さんが財布から諭吉を1枚取り出す。
「草薙くんとならずーっと一緒に居られるから、日が暮れるまで私に恋の必勝法を教えほしいの。ダメ……かな?」
不安そうな顔をして上目遣いでお願いしてくる。
3大美女と呼ばれるだけあって山﨑さんの上目遣いは並みの男なら断ることができないほどの威力を持っている。
もちろん、俺も例外ではない。
「あ、あぁ。どうせ山﨑さんとの仕事が終わったら暇してたから構わないよ」
「やった!ありがと、草薙くん!」
不安そうな顔が一点、飛び跳ねて喜ぶ山﨑さん。
(俺と山﨑さんは見ず知らずの関係というわけではない。だから延長をお願いされたんだろう。期待に応えられるよう頑張ってアドバイスしないと)
そう心の中で決意する。
「さっそく草薙くんには恋の必勝法を教えてもらうよ!」
「あぁ。力になれるか分からないが任せてくれ」
「うんうん!じゃあ、まず初めに私が草薙くんにいくつか質問するからどんどん答えてね!」
「分かった」
山﨑さんの為になるよう、俺は真面目に答える。
「草薙くんは胸が大きい女の子が好きなの?」
「そうだな。強いて言うなら大きい方が好き……って俺の好みは要らないだろ!」
素直に答えてしまったが、間違った質問だと思うので指摘する。
「そんなことないよ!草薙くんの意見が全男子の意見だから!でも草薙くんは大きい方が好きなのか……」
後半は残念そうな声色で自分のまな板のような胸を触る。
「だ、大丈夫だ!山﨑さんの魅力は胸じゃないから!」
周囲に人がいる公園の中で大声を上げる。
何事かと周囲の人が注目するが、そんなことを気にしている場合ではない。
「……ほんとにそう思う?」
「あぁ!俺は愛嬌のある可愛い笑顔と優しいところが山﨑さんの魅力だと思う!それにスラッと細くて色の白い生脚には自然と吸い寄せられるような色気があって……えーっと……」
「ま、待って!そ、そんなに褒められると顔が変になっちゃうよ……」
必死に魅力を伝えていたため、山﨑さんの顔を見る余裕などなかったが、現在の山﨑さんは変な顔を隠そうと必死に両手で自分の顔を覆っている。
「ちょ、ちょっと待ってね!1分あれば元に戻るから!」
そう言って俺に背中を向ける山﨑さん。
(耳まで真っ赤になってるし。確かに俺みたいな根暗男から褒められたら嫌な顔になるよな。でも山﨑さんは必死に俺から隠そうとしている。そんなところが優しいと思うな)
それを見せない優しさに感動する。
「すーはー」と何度か深呼吸をした山﨑さんがクルッと180°回転して俺の方を向く。
「ごめんね!もう大丈夫だから!」
「あぁ。俺は気にしてないよ。でも、1つだけ言わせてほしい。俺の答えが全男性の答えとは限らないから……」
「そんなことないよ!じゃあ、次の質問ね!」
「あ、はい」
そんな感じで俺の指摘を無視した山﨑さんが、ひたすら俺の好みを聞き続ける。
「なるほどなるほど。優しくて笑顔の可愛い女の子が好みで、身体的特徴は草薙くんよりも背が低くて胸が大きい女の子と……」
質問攻めを受けた俺は素直に全てを話してしまい、山﨑さんが一所懸命メモしている。
(全部バレた。俺の好みが山﨑さんに全部バレた……)
今すぐにでも布団を被って暴れたいくらい恥ずかしい。
そんな俺を他所に“ぴょこぴょこ”と可愛く山﨑さんが近づく。
そして俺の顔を上目遣いで覗き込む。
「ねぇ、草薙くん。私って草薙くんが理想にする女の子になれてるかな?」
「あ、あぁ。根暗な俺に話しかけるくらい優しい女の子で山﨑さんは可愛いから俺の理想に近い……かな?」
「ふふっ、ありがと〜」
俺の言葉を聞いて満面の笑みとなる山﨑さん。
(可愛いなぁ!マジで誰だよ!山﨑さんの好意に気づかない男は!人生を損するレベルの失態をしてるぞ!)
そう叫びたい。
「つ、次はどうするんだ?一通り質問は終わったんだろ?」
「うん!だから次は実技をしようと思うんだ!」
「実技?」
「うん!草薙くんを意中の男の子と思って私がアプローチするんだ!」
「なるほど。それは大事だな。で、俺は何をすればいいんだ?」
「草薙くんはそこに立ってるだけでいいよー!」
「……?」
とのことで首を傾げながらその場で突っ立っておく。
すると「えいっ!」と言った可愛い掛け声と共に、俺の左腕に山﨑さんが抱きつく。
「や、山﨑さん!?」
「じ、実技だから!私が意中の男の子を堕とす練習だよ!」
そう言う山﨑の顔は真っ赤になっている。
「そ、それで……ど、どうかな?私を好きになりそう?」
「あ、あぁ。とても効果的なアプローチだよ」
「そ、そうなんだ……」
未だに顔を赤くしている山﨑さんを見ながら左腕に感じる感触を堪能する。
「草薙くんの腕って硬いね。男の子って感じがするよ」
「き、鍛えてるからな。筋肉には自信あるんだ」
自慢ではないが、やる事がない時は部屋で筋トレをしているため、筋肉には自信がある。
「もし私が彼女になったら、この腕で私のことをぎゅーって抱きしめてくれるんだ……」
ウットリとした目で山﨑さんが呟く。
「そんな未来はないとは思うがな」
「ふふっ、そんなことないと思うけどなー」
「………え?」
「こ、ここまでだよ!」
気になる発言をしたため聞き返そうとしたが、急に大声を上げて俺の腕から離れる。
「つ、次のステップに行くから今のは忘れて!」
「あ、あぁ。わかった」
そんな感じで、その後も山﨑さんのアプローチ練習に付き合った。
「今日はありがと、草薙くん!」
日が暮れたため解散する流れとなり、山﨑さんが財布から諭吉を1枚取り出す。
「役に立てたのなら良かったよ」
「うん!私が眠れない夜を過ごしそうなくらいだよ!」
「そ、そうか。明日は学校だから早めに寝ろよ」
「うん!また明日学校でね!」
そう言って俺に諭吉を1枚手渡した山﨑さんが走り去る。
「この2日間で3大美女の3人と変な関係になってしまったぞ。明日からの学校、何事もないといいなぁ」
そんなことを思いながら帰路についた。
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