第7話 並木彩の愛人兼ヒモ役 2
チャイムが鳴ったため、彩さんが玄関まで母親を迎えに行く。
「ホントに男物の靴がある!」
扉を開けた音と共に、そんな声が聞こえてくる。
「嘘かと思ってたけど本当に男がいたんだ」
「嘘なんて言うわけないでしょ。私には立派な愛人がいるのよ」
立派な愛人というのは自慢にならないが、自慢気に話す声が聞こえる。
そして、彩さんと共に1人の女性が俺の目の前に現れる。
「わっ!すごいイケメンね。彩が養いたくなる気持ちも分かるわ」
なにもしてないが、ヒモとして相応しい男と思われたらしい。
「こんにちは。彩さんの愛人である草薙優です」
「あら、ご丁寧にありがとうございます。私は彩の母親である
彩さんに似た綺麗な女性が丁寧に頭を下げる。
(あ、やっぱりお母さんなんだ。お姉さんと言われても納得するレベルで若いな。一瞬、お姉さんかと思ったぞ)
そんな女性が現れる。
「学生とは聞いてますが大学生ですか?」
「あ、いえ、高校生です」
「えっ!?高校生!?」
驚いたお母さんは彩さんを見る。
「もしかして生徒に手を出したの?」
「そ、そんなわけないでしょ!ゆーくんからアプローチされたのよ!それに私の通ってる学校の生徒じゃないわ!」
(あ、そんな設定になってるんですね)
彩さんからアプローチしたとなれば生徒に手を出したと言われてもおかしくないので、俺が彩さんを堕としたことにしてるのだろう。
(そのことに文句はないが……すみません、俺は彩さんが勤めてる学校の生徒なんです)
なんなら彩さんが副担任をしているクラスの生徒である。
「あらそうなの。それなら安心ね」
彩さんから手を出してないことを知ったお母さんは納得した表情となる。
「それで、同棲生活とは聞いてるけどどんな感じなの?」
「そうですね。彩さんに甘やかされてばかりでとても良い生活ですよ。家事も全てやってくれますので」
「料理のできない彩が家事をしてるなんて!ちょっとは料理が上手くなったんだ!」
「うっ!え、えーっと……ほ、ほんの少しよ」
目が泳ぎまくっている。
(え、もしかして、普段料理してないのか?)
そう思い、俺が辺りを見渡すと、粗大ゴミの中身がカップ麺とコンビニ弁当のゴミで溢れかえっているのを目撃する。
(先生、料理できないんかよっ!)
衝撃の事実に頭を抱える。
「その割にはカップ麺とコンビニ弁当のゴミしかないけど……」
「「!?」」
嫌なところに目をつけられる。
「りょ、料理以外の家事です!料理が得意でないことは同棲して分かったので!」
「そ、そうよ!料理なんてしなくても、カップ麺やコンビニ弁当があるから生きていけるわ!」
「彩。それ、自慢気に言うことじゃないんだけど……」
「……そうね」
ぐうの音も出ない様子だが、何とか誤魔化すことには成功したようだ。
「それより、彩。いつまでスーツを着ているの?はやく着替えなさい」
「そうね。すぐに着替えてくるわ」
そう言って近くにあった私服を手にして部屋を出ようとする。
「あれ?ここで着替えないの?」
「あ、当たり前よ!この部屋にはゆーくんがいるのよ!」
「え、同棲してるから彩の着替えなんて何度も見てるでしょ?」
「うっ!い、いくら同棲してるからって、着替えを簡単に見せたりする安い女じゃないわ!」
「そうなの?私はてっきり結婚を前提に愛人関係なのかと思ってたんだけど?」
「違うわよ、ゆーくんとは遊んでるだけ。私、まだ結婚とかそういうのはいいって言ってるでしょ?」
(なるほど。だから彼氏じゃダメなんだな)
昨日みたいに偽の彼氏役ではダメな理由に納得する。
だからといって愛人兼ヒモ役を依頼する理由にはならないと思うが。
「ふーん。私は草薙くんが学生だから卒業するまで愛人ってことにしてると思ってたのだけど……まぁ、いいわ。今日の目的は彩に男の影があるかを確認しに来ただけだから」
そう言って立ち上がるお母さん。
「あれ?帰るの?」
「帰るよ。私も忙しいからね。それに草薙くんが変な人じゃなさそうだったから安心したわ。チャラ男を愛人にしてるんだったら怒鳴る予定だったけど」
(よかったぁ。チャラ男設定にしてなくて)
そのことにホッと胸を撫で下ろす。
「1人立ちした彩にお母さんが色々と言うのは間違ってるとは思うから、愛人兼ヒモの人と同棲してることに文句は言わないよ。でも、草薙くんが学校を卒業した時、草薙くんを彼氏として紹介してくれるとお母さんは嬉しいな」
そう言ってお母さんが玄関へ向かう。
その時、「なら結婚のことに首を突っ込まないでほしいわ」と、並木先生がボソっと呟く。
お母さんが靴を履いてアパートから出ようとした時、何かを思い出したかのように立ち止まる。
「あ、そうだ。今度、私がご飯を作りに来るから。その時はご飯を食べながら惚気話を聞かせてね。もちろん、草薙くんも同席でね。また来るから」
そう言って今度こそアパートを出る。
「「………」」
お母さんの最後の一言に固まる俺たち。
「ねぇ、ゆーくん。確か継続プランとかあったわよね?」
「はい。割引もあってお得なプランとなってますよ」
「ふふっ、お金ならあるのよ、大人だもの。お金なら……ね」
(虚な目で言わないでくれ、反応に困るから)
「あ、そうだ。まだちょっと時間あるでしょ?こうなったらヤケよ、付き合ってもらえるかしら?」
そう言って部屋に戻り、彩さんからゲーム機のコントローラーを渡される。
「これから長い付き合いになりそうだから、仲良くなるためにゲームでもしましょ」
「そうですね」
その後、レンタル時間終了まで雑談をしながらゲームを楽しんだ。
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