第5話 偽の彼氏役を終えて

「なぁ、モモ。人付き合いって大変だなぁ」


 長谷川さんの彼氏役を終えた俺は家に帰宅し、テレビを見ているモモへ話しかける。


「人付き合いなんて全然したことないお兄ちゃんが苦労せずにできるわけないでしょ。当然だよ」


 そんな俺にモモがジト目で言う。


「何があったかは知らないけど、ようやく対人スキルを身につける気になったかな?」


「それは最低限で十分だからそんな気はない。だって俺はモモが側にいてくれるだけで……」


「それはダメだよっ!」


 俺の発言をモモが遮る。


「今はそれでいいかもしれないけど、私が将来お嫁に行ったらどうするの!?」


「&@¥!%$#!」


「お兄ちゃん、なに言ってるか分からないよ」


 モモが「はぁ」とため息をつく。


「私はお兄ちゃんの彼女さんが見たいよ。私、お兄ちゃんが将来結婚できないのかもって心配してるんだから」


「彼女……ねぇ……」


「えっ!お兄ちゃんが女の子の話題に食いついた!?」


 俺の反応が珍しかったのか、モモが驚く。


 まるで珍獣でも見ているくらいの驚きようだ。


「勘違いするな。彼女が欲しいとかじゃないんだ。ただ、色々あってな」


「ふーん。まぁ、お兄ちゃんが女の子の話題に食いついただけでも満足かな。いつもは興味なさそうだったから」


 確かに、いつもこの手の話題に興味はなかった。


「それにしても、将来私がお嫁に行った時を想像しただけでこのテンパり具合。お兄ちゃんって妹離れできるのかなぁ……」


 そんなことを真剣なトーンでモモが呟いていた。




〜長谷川美羽視点〜


 優を駅まで送った後、「ただいま〜」と言って家に入る。


「お姉ちゃん!ウチ、草薙さんとまた遊びたい!次はいつ来てくれるのー?」


 するとキラキラした目をしている結衣から開口一番に言われる。


 当初の予定ではタイミングを見計らって別れたことを告げる予定だった。


 しかし、結衣が優のことを気に入ってしまい、また会いたいと催促される。


(草薙さん、アタシも惚れそうになるくらいカッコいいし、性格も良かった。結衣が気に入るのも分かるなぁ)


 とは思うが、会うことはできないのでしっかりと断る。


「あのな、結衣。優はとても忙しい人だから簡単には会えないんだ」


「え、そうなの?でも昨日、毎日放課後デートしてるってお姉ちゃん言ってたよ?」


「………」


(アタシのアホーっ!)


 放課後デートの内容は誤魔化したが、見栄を張って毎日会っていると言ってしまった。


「週に一回くらいはウチの家で放課後デートしていいからね!ウチやお母さんには迷惑なんてかからないから!」


「で、でも優は遠慮すると思うぞ?喫茶店や公園でいいって言いそうだし……」


 これ以上レンタル彼氏にお金を使うわけにはいかないアタシは、全力で会えない方向に話を進める。


「……も、もしかしてウチがうるさくて2度と家に行きたくないって言われたの?」


 すると変な勘違いをした結衣が泣きそうになる。


「も、もしウチのせいでお姉ちゃんと草薙さんが別れたら……うぅ……」


 そして結衣が泣き始める。


「わーっ!大丈夫だ!優は結衣のことを嫌ってなんかないぞ!また結衣と遊びたいって言ってたから!」


「……ぐすん……ほんと?」


「あぁ!また優を連れてくるから!」


 心の中で血涙を流しながら伝えると、結衣は涙を拭う。


「うんっ!楽しみにしてる!」


 そう言って部屋に向かう。


 その姿を茫然自失で見送るアタシ。


「毎回諭吉を使ってお願いするわけにはいかないんだが……あーもう!どーすればっ!」


 そんなことに悩まされるアタシだった。

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