第3話 長谷川美羽の彼氏役 1
土曜日となる。
今日はレンタル彼氏の仕事が入っており、俺は待ち合わせ場所に向かう。
今回の仕事は偽の彼氏役だ。
ちなみに、雇用主となる運営からは依頼人の連絡先しか教えてもらえず、アドバイスなどは一切なかった。
あまりに適当すぎるが、運営からすればクレームさえ来なければ問題ないらしい。
実際、金のやり取りは直接手渡しで行うため、依頼人の連絡先さえ知ることができれば仕事は行える。
「レンタル彼氏という仕事だから根暗な男じゃマズイよな。それにクラスメイトや知り合いに会ったら困る」
普段の俺は、前髪を目元まで隠しており、根暗な男と言われてもおかしくない格好をしている。
そのため、現在の俺は目元まで伸ばしている前髪をワックスでオールバックにしており、俺のことを草薙優斗だと思われないようにしている。
それにモモから「オールバックの方がカッコいいよ」と言われているため、偽彼氏役として問題ない格好と判断した。
そんなことを思いながら待ち合わせ場所でスマホを触っていると…
「あのー、すみません。草薙さん……ですか?レンタルを依頼した長谷川ですけど……」
目の前に金髪美少女が現れる。
(って、長谷川さん!?)
声をかけてきた美少女の方を向くと、同じクラスの女の子だったため、心の中で驚く。
金色の髪を右側で結び、キリッとした目つきと男勝りな口調が特徴的な美少女で俺のクラスメイト。
学校内では3大美女の1人と呼ばれ、ギャルのような見た目と活発的な行動から、男遊びが得意と噂されている。
(よ、よかったぁ。髪型をオールバックにしてて。普段学校に行く時の姿だったら同じクラスの草薙だとバレてたよ)
長谷川さんの反応から、俺が同じクラスの草薙だとは気づいていない様子。
「あ、もしかして人違いでしたか!?す、すみません!」
俺が黙っていることを人違いだと勘違いした長谷川さんが謝る。
「いえ、間違っておりませんよ。本日はレンタルサービスのご依頼、ありがとうございます」
その様子を見て慌てて挨拶をする。
(クラスメイトということは忘れよう。長谷川さんは依頼人なんだから)
「今回、偽の彼氏役とのことを聞いておりますが間違いはないでしょうか?」
「あ、はい。もうすぐ妹が来るので彼氏のフリをしていただければと思います」
「なるほど……ん?」
(彼氏のフリ?長谷川さんって男遊びが得意って噂だろ?その気になれば彼氏なんか簡単に作れそうな容姿をしているのに、何で彼氏のフリが必要なんだ?)
「あのー、どうかしましたか?」
俺が頷いている最中に固まったため、長谷川さんが問いかける。
「あ、いえ。何でもありません」
(まぁ、その辺りは気にしないようにしよう。今は長谷川さんの要望に応え、お金を貰うことが最優先だ)
クラスメイトから金を貰うのは気が引けるが、俺の金銭状況を考えると甘いことは言ってられない。
そもそも、偽の彼氏ということがバレれば、お金を貰えない可能性もある。
俺は「こほんっ!」と咳払いを挟み、気合いを入れる。
「なら、俺たちに敬語は必要ないな。彼氏彼女の関係なんだから」
俺は敬語をやめて彼氏っぽく長谷川さんに話しかけるが…
「さ、さすがレンタル彼氏。距離の詰め方がすごいぞ。芸能人並みのイケメンだからできることなのか?」
なぜか感心される。
「あ、あのぉ、長谷川さん?」
「あ、はい!そ、そうですね………じゃなかった、そうだな。アタシたちが敬語を使うのはおかしいな」
感心していた長谷川さんが敬語を使おうとするが、俺にあわせて敬語をやめる。
この対応で間違ってないか不安だったが、その心配はなさそうだ。
「他に何か気をつけた方がいいことってあるか?」
「うーん……特にないな。アタシの彼氏っぽく振る舞ってくれるだけで十分だ」
「わ、わかった」
(え、かなりハードなことを要求されたんだが。俺、女性とお付き合いしたことなんかないぞ?)
今まで誰かの彼氏になった経験がないにも関わらず、彼氏っぽい振る舞いを要求される。
(これはボロが出ないように綿密な作戦会議が必要だな。まぁ、そのために妹さんが来る前に集まったんだけど)
と思い、早速会議を始めようとすると…
「お姉ちゃん、お待たせー!」
長谷川さんと同じ金髪の女の子が現れる。
「えっ!結衣!?用事は!?」
「そんなのすぐに終わらせたよ!お姉ちゃんの彼氏さんが気になりすぎて!」
金髪の女の子がペロっと舌を出す。
(マズイ!長谷川さんと何も話せてない!)
当初の予定では、彼氏のフリをしなければならない相手である妹に用事があるとのことで、俺たちが集合してから15分後に妹と合流するはずだった。
そのため、妹が来るまでの15分間でバレないための作戦会議を行う予定だったが、作戦会議を行う前に妹と合流してしまう。
ちなみに、メッセージで簡単な設定は決めているが、長谷川さんが落としたハンカチを俺が拾ったところから恋が始まり、交際期間は半年ということしか決めてない。
俺は同じ学校ということで長谷川さんのことを多少知っているが、長谷川さんは俺のことを同い年ということしか知らないため、現在、とても危うい状況に陥っている。
「へー!この方がお姉ちゃんの彼氏さんなんだね!とてもカッコいいね!」
「あ、あぁ。自慢の彼氏だからな」
作戦会議ができていない状況に危機感を感じているのだろう。
長谷川さんの返事がぎこちない。
「初めまして!ウチは『
そう言って丁寧に自己紹介をする妹。
長谷川さんと同じ金色の髪をショートカットにしている可愛らしい女の子。
長谷川さんのようにキリッとした目つきはないが、将来は長谷川のような美少女になるだろう。
「ご丁寧にありがとう。俺は長谷川さんの彼氏である草薙だよ」
偽の彼氏ということがバレないためには疑われないこと。
そのため、第一印象が大事だと思い、爽やかな笑顔で接する。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん!草薙さんとてもカッコいいよ!アイドル並みのイケメンだよ!」
「そ、そうだろ?草薙さんは自慢の彼氏だからな」
(コイツ、「自慢の彼氏」というワードで乗り切ろうとしてないか?)
そんなことを思う。
すると、妹さんが首を傾げる。
「あれ?恋人同士なのにお互いを名前で呼び合ってないんだね」
「「!?」」
俺と長谷川さんが同時に驚く。
半年付き合っていることは妹に伝えているため、違和感を感じたのだろう。
「そ、そんなことないぞ!間違っただけだ!」
長谷川さんの発言に俺も全力で頷く。
「そうなんだ。じゃあ、草薙さんのことを名前で呼んでみて?」
「うっ!え、えーっと………」
妹さんの問いかけに長谷川さんが固まる。
そこで、俺たちはミスに気づく。
(俺の名前教えてねぇ!)
草薙という名字はメッセージのやり取りで伝えたが、肝心の名前を教えていないことに気づく。
(俺、偽の彼氏役、完遂できるかな?)
そんなことを思った。
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