EX.僕の彼女は可愛い(直球)
僕の彼女の佐藤美咲はお酒にとても弱いらしい。今までは美咲がお酒を飲める年齢ではなかったから、僕と一緒にいるときは飲んだことはなかったけれど、先日美咲が二十歳の誕生日を迎えたことでお酒が飲めるようになった。
美咲の誕生日は誕生日として盛大にお祝いしたのだけれども、その時はまだ美咲がお酒に対していい印象を持っていなくて、飲むことはいったん止めていた。
美咲は大学一年の頃のサークルの席でお酒を飲まされて、その後男に触れないことを克服するためにちょっとお酒の力を借りたのに全く無理だったことで、お酒に対して苦手意識を持ってしまっていた。
ただ、改めて僕が誕生日を迎えて二十歳になったことで、美咲も自分の中のトラウマとでもいうべきものを克服しようと、この機会にとお酒を飲むことにしたらしい。
僕たちはいつものように指を絡めながら手をつないで、美咲が僕の腕に抱きつく形で歩きながら近所のコンビニへと足を運んだ。
「お酒っていろんな種類あるんだね」
「まぁ、美咲にはこんな感じのジュースに近いやつがいいんじゃない?」
コンビニのお酒コーナーでお酒を眺める。
いろいろなお酒が置いてあるけれど、あいにくと僕も美咲もお酒のことなんて全くわからないから、何がおいしくて何が僕たちの口に合わないのかなんて言うことが飲んでみるまで不透明だった。
だから俗にいうほろ酔い的な、アルコール度数少なめのジュース感覚に近いというチューハイをかごに入れて、そういえばもうすぐなくなりそうだったよなと思いだしてゴムも一緒にかごに入れた。
もう何度も僕と美咲はセックスしをているというのに、僕がゴムをかごに入れたのを見た美咲は顔を真っ赤にして「もう、ユートったらやる気満々じゃん……」なんてつぶやいている。
そんな美咲が可愛くて、僕は美咲の耳元に口を寄せて
「美咲は僕とするの嫌なの?」
と小さな声で囁いた。
美咲は体をビクッと振るわせて、少し目元をウルウルさせながら「そんなわけないじゃん……バカ……」と弱弱しく反論してきた。それから僕の腕に抱きつく力を強くして、肩に頭をぐりぐりと押し付けてきた。
去年美咲と抱き合って泣いたあの日から、美咲はとても甘えん坊になっていた。
僕の家に帰ってローテーブルの上に買ってきたお酒と、いくつかのおつまみを広げる。柿の種だったり、ポテチだったり。お酒がダメで飲みの席で消費できなくても、普段からおやつとして食べられるものをチョイスしてきた。
それから、僕と美咲はローテーブルをはさんで対面に座った。
美咲の住んでいたアパートは、いつの間にか解約していたらしい。もう荷物は必要なものはすべて僕の家に運ぶか、必要ないものは捨てるか実家に送り返したらしい。
確かに僕とずっと一緒にいて帰ってなかったから、あのままだと家賃とかもったいなかったし、解約も仕方ないのかもしれない。本当は僕と美咲に万が一何かがあって別れるなんてことになったときに備えて、美咲が一人で住めるように部屋は残した方がよかったのかもしれないけれど。
ただ、部屋を解約したということが、美咲が僕から離れる気が全くないということの表れに見えて、僕はそのことが嬉しかった。
「ん~どれにしようかな……ユートはどれ飲む?」
広げたお酒を物色しながら美咲が聞いてくる。今のところお酒の缶を見ただけでは嫌悪感とかはないみたいだ。
「僕は美咲が選んでからでいいよ。今までお酒飲んだことないから何飲んでもそんなに変わんなさそうだし」
「あたしだって全然飲んだことないよぉ」
なんて言いながら美咲はグレープの炭酸系のチューハイを選んだ。
僕は美咲の選ばなかったコーラの入ったチューハイを手に取る。
「まぁ、無理しない程度にしようね。無理なら別に飲まなくていいし」
「でも、ユートが飲めるならあたしも飲めるようになりたいし……」
そう言ってお酒の缶を眺める美咲。それからおもむろに立ち上がると、僕の隣に身を摺り寄せるように座ってきた。
「僕だって飲めるかどうかなんてわかんないし。仮に美咲が飲めなかったら僕が飲めたとしても飲まないよ」
「ユート……」
美咲が僕の顔を見上げてくる。
相変わらず大きなぱっちりとした瞳は可愛らしくて、僕の心を揺さぶってくる。
二人して缶のプルタブを開ける。プシュッと空気の抜けるような音がして、炭酸ジュースを開けたとき特有のシュワシュワとした音が部屋に響いた。
「においとかは大丈夫?」
「もー、お酒飲んだのが原因で吐いたわけじゃないんだから、そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
なんて美咲は言うけれど、あまり匂いをかごうとはしないから、やっぱりいい気分ではないのだろう。これはまだちょっと早かったかな、と思って美咲に「やっぱり今日はやめようか?」と提案しようとしたとき、意を決したような顔をした美咲がチューハイをグイっとあおり始めた。
「み、美咲? 大丈夫?」
思わず声をかける僕を尻目に、美咲は一口、二口、三口とコクコクと可愛らしい喉を鳴らして飲み込んでいく。
「んっ……んっ……んっ……」
美咲が缶から口を離したのは、缶の中身を三分の一ほど飲み込んだ後だった。
「ぷはぁ……」と息を吐いた美咲がやたらと艶めかしくて、僕はどきりとしたと同時に美咲の変化に気が付いた。
「ユートぉ……好きぃ……!」
顔を真っ赤にした美咲が僕の肩に頭をぐりぐりと押し付けながら僕に好意を伝えてくる。手に持っていた缶をテーブルに置くと、僕の何も持っていない方の手を握り締めて、腕を自らの胸にかき抱いている。
「え、ちょっと、美咲……?」
美咲は僕によく好意を伝えてくるけれど、流石に今のは唐突すぎて戸惑いの気持ちが出てしまった。そんな僕の様子が美咲の不安を煽ったのか何なのか、美咲は「ユートはあたしのこと好きじゃないの……?」なんて目に涙をたたえながら上目遣いで聞いてくる。
そんな顔を見せられたもんだから、僕は慌ててまだ口も付けていない缶をテーブルに置いて、美咲を抱きしめた。
「僕も好きだよ、美咲」
「えへへぇ……知ってる♡」
これは――酔っているな?
遅まきながらに美咲の様子にそう悟った。
いや、ていうか本当にお酒に弱いな!?
ちょっと一気に飲んでいたとはいえ、アルコール度数の低いチューハイの缶の三分の一程度だよ? それでこんなんになるの?
「ユートのにおい好き……♡」
僕の首元に顔を寄せてすんすんとにおいをかぐ美咲。さすがにそれは少し恥ずかしいから止めてもらいたいんだけど、美咲は僕にしがみつくように抱き着いているので無理そうだった。
「美咲、ちょっと離れて――」
「やだ! 絶対離れないもん!」
「もん! とか小学生かよぉ……」
美咲に少し落ち着いてもらおうと思って声をかけると、逆に美咲が僕に抱き着く力が強くなってしまった。
まぁなんだかんだと言って僕も美咲に抱き着かれているのは嬉しいので、こう「絶対に離れない!」っていう意志を感じる行動をされると、もうこれ以上何も言えなくなってしまう。
僕が何も言わなくなったのを見計らってか、美咲がちゅっちゅと僕にキスをしてきた。唇をぺろぺろと舐めて、僕の口を開かせようとしてくる。
僕もそれに応えるように口を開けると、美咲の舌を迎え入れて口の中で絡める。
「ん~……ちゅ……♡ ちゅる……れろ……ちゅう……♡」
そうすると美咲の顔がとろとろと蕩けていって、もともとお酒で赤くなっていた顔がもっと赤くなって、まるでトマトみたいになっていく。
美咲は僕の口からその小さな唇を離すと、今度は僕の耳をハムハムと噛んでみたり、耳の穴をれろれろと舐めまわしたりしながら、片手が僕の下半身の方に伸びてきて、ズボンの上から僕自身をさわさわと触れて、僕の劣情を煽ってくる。
「ねぇユートぉ……しよ……♡」
完全に発情した雌のような雰囲気になった美咲に、僕は早速今日買ったゴムが大活躍するなと確信した。
結局その日僕がお酒を口にすることはなく。
買ってきていたゴムが減り、美咲は「もう二度とお酒なんて飲まない!」なんて叫び。
でも僕が耳元で「昨日の美咲本当にかわいかったよ……?」と囁くと、後日こっそりお酒を買ってたりする姿を目撃したりと。
僕の彼女はとても可愛い。
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