僕の彼女は――
いつかと同じように酔っ払って帰ってきた美咲を、僕はいつかと同じように介抱しようとした。上着を脱がし、水を差し出し、ベッドに寝かせ、部屋に置いてある化粧落としを使って化粧を落とし。
そこまでしたところで、美咲が唐突に僕に抱きついてきた。
「ユートぉ……嫌いにならないでぇ……」
化粧が落ちて普段よりすっきりとした目元を赤く腫らしながら、美咲はポロポロと涙をこぼした。僕はそんな美咲を見てギョッとしてしまって、ほんの少しの間硬直してしまった。
美咲が僕に泣きついてくるなんて初めてのことで、こんな時に何をしてあげるのが正解なのか咄嗟に判断できなかったのだ。
そんな僕の態度が美咲の不安を掻き立てたのか、すでに流している涙の量をさらに増やして、美咲は抱きつく力を強めた。手を美咲の頭の後ろに回し、ぐいっと僕の肩に顔を押し付けた。彼女の涙で肩がどんどん濡れていくのがわかる。
「あたし頑張るからぁ……頑張って、ギャルみたいになるからぁ……ビッチみたいになるからぁ……あたしのこと見捨てないでぇ……!」
そんな美咲の様子に、僕は何も言わずに美咲を抱きしめ返した。
何をやっているんだ僕は。こんな美咲の様子に面食らって硬直してる場合じゃないだろ。
昔は顔も名前も知られていない同級生だったから話を聞くだけしかできなかったけれど、今は僕は美咲の彼氏で、美咲は僕の彼女だ。
僕は抱きしめた美咲の背中を安心させるようにぽんぽん叩き、耳元に口を寄せて「大丈夫。大丈夫だよ。僕が美咲のこと嫌いになるなんてことありえないよ」と囁き続けた。
そうしながらどれだけの時間がたっただろうか。最初は泣いて震えていた彼女の体だったけど、いつの間にか震えは止まっていた。
まだ時々しゃくりあげるように体がひくっとなる時はあるけれど、涙も止まったようで、僕の肩が新たに濡れることは無くなった。
「ユートぉ……ユートぉ……好き……好きなのぉ……」
「うん。僕も美咲のことが好きだよ」
美咲の呟きに僕はそう返事を返したけれど、美咲から返答がなく。
そっと肩に寄せた美咲を見ると、泣き疲れたのか元々酔っていたからか、いつの間にか彼女は眠っていた。
ベッドの上で抱き合っていたから、僕はそのまま美咲をベッドに寝かせると、美咲の涙で濡れたシャツを脱いでスウェットに着替える。
シャワーを浴びたい気分だったけれど、今の美咲を一人にしてしまうのは危ない気がして、僕はベッドで眠る彼女の横に潜り込むと部屋の電気をそのまま消した。
そのまま美咲を抱きしめる。僕がそばで寄り添って、美咲が起きた時に不安にならないように。
聞きたいことはたくさんあるけれど、それは明日の朝に改めて聞けばいい。
高校の時とは違って、僕と美咲はずっと一緒にいるのだから。
翌朝目が覚めると、美咲はまだ僕の腕の中で眠っていた。
近くに置いていた自分のスマホを手に取って時間を確かめると、今はまだ朝の六時くらいで、大学までの時間はまだまだたっぷりあった。
まぁそもそも今の状態の美咲を大学に連れて行くつもりも特にないけど。
僕は目が覚めても特に起き出すことなく、美咲を抱きしめたまま時間を過ごした。昨日の美咲は本当に不安そうで、あんな美咲を見たのは初めてだったからとても衝撃的だった。
それと同時に、とてつもなく申し訳なさやら不甲斐なさやら自分への怒りやらを感じてもいた。
美咲は昨日「嫌いにならないで」とか「見捨てないで」なんてことを言っていた。僕は普段美咲と過ごしている中で、そんな言葉に繋がるようなことを言った記憶はないけれど、もしかしたら何か彼女だけが感じ取れるものが態度に出ていたのかもしれない。
それは意識していない部分の話ではあるから、ともすれば美咲に指摘されない以上僕にはどうしようもなかったものなのかもしれない。それでも彼女を不安にさせてしまったと言うことは事実で、だからこそ僕は僕自身が許せなかった。
もっと普段から気持ちを伝えてあげるべきだった。もっと早く話をするべきだった。「他の男とセックスしてきた」なんて報告してくるのは普通ではないのだから、そんなことを言われた時点でちゃんと話を聞いてあげるべきだったのだ。
そんなことをつらつらと考えて一人反省会をしていると、腕の中の美咲がモゾモゾと動き始めた。どうやら目を覚ましたらしい。
「おはよう、美咲」
目を覚ました美咲に声をかける。美咲はまだぼーっとしているのか、視線を上げて僕の顔を見ると「ユートぉ……?」と弱々しい声でつぶやいた。
「うん。僕だよ。鈴木悠斗だよ」
そんな僕の返事に彼女の目が覚めたのか、彼女はぎゅっと力強く僕に抱きついた。
「ユート……ユートだぁ……えへへ……本物だぁ……」
僕に本物も偽物もないと思うけれど、何か夢でも見ていたのだろうか?
なんて思いながらも、僕は美咲を抱きしめ返して、昨日と同じように安心させるように背中をポンポン叩いた。
「本物の鈴木悠斗だよ。美咲のことが大好きな鈴木悠斗。大丈夫だよ。嫌いになったりしないよ」
彼女を安心させるように言葉と態度で気持ちを伝えていく。
美咲は僕に抱きつきながら「うん……うん……!」と小さく頷いていた。
美咲が起きてからしばらくの間、僕たちはそうやって時間を過ごした。
いつの間にか大学の一限の開始時刻なんていうのはとっくに過ぎていたけれど、そんなことは全く気にしなかった。
大学なんかよりも、今二人で過ごすこの時間が何よりも大切だった。
しばらくして美咲が「シャワー浴びたい」と言って僕の腕から抜け出したので、美咲がシャワーを浴びている間に二人分のコーヒーを用意した。
シャワーを浴びた美咲は僕とお揃いのスウェットを着ていて、僕のそばにピトッとくっついて離れようとしなかった。
そんな彼女の髪を僕はドライヤーを使って乾かしてあげる。僕は彼女の髪を乾かしてあげるのが好きで、よく彼女のお風呂上がりに髪を乾かしていた。だから、これは普段通りの行動だ。
彼女は僕が淹れたコーヒーをちびちびと飲みながら、僕にされるがままになっていた。
髪を乾かし終わって、二人ともコーヒーを飲み終わって。
僕と美咲は二人寄り添うように並んで座っていた。
僕は文庫本を手に取って表紙を開いた。
彼女は膝を抱えた姿勢で座っていて、スマホのロック画面を眺めていた。彼女のスマホのロック画面は、僕と美咲が二人で旅行に行った時のツーショット写真だった。
僕はいつかの時と同じように、文庫本に目を落としながら彼女に告げた。
「僕には、今美咲が抱えている不安な気持ちがよくわかんないんだけどさ。辛いことがあったら人に吐き出したほうがいいんじゃない?」
「あの時と違って僕たちはもう他人じゃないけど」なんて付け足して、僕は少し笑った。
初めて僕と美咲が会話をしたあの日。
あの日も美咲はとても落ち込んでいて、僕はその隣に座っていた。
僕は少しでも美咲の不安を取り除いてあげたかった。美咲が話しやすいようにしてあげたかった。僕自身がやっていることだけを見ればあの日と似たようなことをやっているけれど、そこに乗せている僕の気持ちは全く違うものになっていた。
あの日初めて二人で会話した時から、僕は心の底で美咲のことが好きになっていた。
「あたし、ホントはね……ユートと付き合うつもりって、なかったんだ……」
しばらくした後、美咲は弱々しい声で話し始めた。
「あたしユートと会うまで、ホントに空っぽで、ダメなやつでさ。早く大人になりたい、なんて友達とか親に言いながら、やってることなんて彼氏とかセフレ作ってセックスとかでさ。そんなんで大人になれるわけでも、うまくいくわけでもなくて、親ともケンカするし彼氏とかともうまくいかないし。マジでバカで空っぽで、どうしようもなくて項垂れてた時に出会ったのがユートでさ」
僕はあの時と同じように、相変わらず視線は文庫本に落としたままだった。
「あの時のユートにとっては本当に気まぐれで、あそこに座ってたのがあたしじゃなくても誰にでもそうしたんだってわかってたんだけどさ。それでも、あの日あたしはマジで救われたんだ。ユートはただ話を聞いただけっていうかもしれないけど、あたしにとって、それだけでよかったんだよ。あたしの話をただ聞いてくれるだけで、あたしのことを受け入れてくれるだけで、それだけでよかったんだ」
「うん」
「それからの高校生活、あたしはユートのおかげでホントに楽しかった。あたしが何やっても受け入れてくれる人がいるって、そう思えるだけで心が軽くなるんだ」
「うん」
「そんな、あたしのことを受け入れてくれる人が近くにいてさ。あたしが何やってもわがまま言っても最後には笑って受け入れてくれる人がそばにいてさ。そんなの、その人のこと好きにならないわけないじゃん。――ううん。ホントはわかってたんだよ。初めて喋ったあの日から、心の中ではユートのことが好きだってこと」
それを聞いて、僕は「彼女も同じ気持ちだったんだな。僕のことを好いてくれてたんだな」と知れて、こんな時だけど嬉しくなってしまった。
「高校時代、ユートと出会ってからできた彼氏は、みんな、ユートへの気持ちに蓋をするための存在だった。ユートを好きにならないようにするために利用してた。自分から新しい彼氏なんて作る気にはならなかったけど、あたし自分で言うのもなんだけど、そこらへんの女子より可愛かったし、ノリも軽かったから男の方から寄ってきたから、彼氏には困らなかった」
僕はそこで、思わず口を挟んでしまった。僕が口を挟まなくても彼女は全部喋ってくれただろうけれど、気になってしまったのだからしようがない。
「なんでそんなことしたの?」
「あたしみたいにいろんな男とセックスしてたような汚い女がユートのこと好きになったら、ユートが汚れちゃうと思ってた。あたしバカだし、汚いし、こんなのがユートのこと好きになっちゃったらヤバいと本気で思ってたんだ」
「そんなことないと思うけど」
「今なら、そう思うけど。その時のあたしは本気で思ってたんだから」
そこで彼女の話が一瞬途切れた。僕がページを捲る音が部屋に響いた。
「……でも、そんな気持ちで付き合ってたのって、案外バレるらしくてさ。最後はいっつも「他の男のことしか見てない奴とは付き合ってられない」ってフラれちゃってた。あたし、そう言われちゃうとなんにも言えなくて。だってホントのことだったし」
「ちょっと嬉しい」
「バカ。……それでさ、あたしはユートへの好きの気持ちに蓋したいって思いながら、どうしてもユートと離れたくなくてさ。大学もユートが受けるところにして、ユートのお母さんにこっそりユートの住む場所聞いたりして。でもそんなのユートに知られるのも恥ずかしいから全部内緒にして、大学入って」
「え、アパート近いの偶然って言ってたの嘘だったの?」
「偶然近くになるなんてことあるわけないじゃん」
そう言って彼女は笑った。
「でもそうやってユートの近くにいたらユートのこともっと好きになるなんて、あたしの中の当たり前のことにあたし自身気づいてなくて。好きにならないようにとか、汚しちゃうからとか、そんなことすら頭に浮かばないくらいユートのこと好きになっちゃってた時に、サークルの飲み会があって」
「あの美咲が酔っ払って僕の家に来た時のやつ?」
「うん……。その飲み会で、あたしはお酒なんて飲むつもりなかったんだけど、あたしのグラスの中身をこっそり酎ハイに変えてたやつがいたみたいで、それでお酒だと気づかずに飲んじゃってさ。あたしその時知ったんだけど、めちゃくちゃお酒弱かったみたいで、すぐ酔っちゃって」
「ひどい奴がいたな。そんなサークルやめて正解だよ」
「これがあったからやめたんだよ。――それで、酔ったあたしを介抱しようとしたのかお持ち帰りでもしようとしたのか、サークルの男の先輩があたしの肩持ち上げたん、だけど、ね……」
そこで彼女は言葉を切って、言い淀んだ。
そこでお持ち帰りされましたーという話ではないと思う。だってその後彼女は僕の家まで一人で来てるわけだし。でも、言い淀むということは、この先の話が彼女にとってとても不安に思っていることなのだろう。
そこで僕にできることは、彼女を受け入れてあげることだ。
「大丈夫だよ、美咲」
僕は文庫本から顔を上げて、彼女の顔を見つめた。彼女も僕の方を見つめていて、不安げに揺れる彼女の瞳と視線が交わった。
だから僕は彼女を安心させるために笑顔を作った。
「大丈夫。僕は美咲のこと嫌いになったりしないよ」
僕がそう言うと、美咲は表情を歪めて、まなじりを下げて、またポロポロと涙をこぼし始めた。「うん……うん……ありがとぉ……!」と頷きながら、彼女は続きを話し始めた。
「あたし、男の先輩に触られた時、自分でも訳わかんないくら本当に嫌で、全身に鳥肌立って、それで……それで、吐いちゃって……。あたしが吐いたのに気づいた他のサークルの子が心配してあたしのところに来てくれたんだけど、女の子に触られるのはなんにもないのに、男子に触られるとホントに無理で……」
「うん」
「あたし、それでめちゃくちゃ不安になって。もし、もしユートに触られたときに同じようになったらどうしようって。ユートに触れない、触れ合えないってなったらどうしようって。それで、いてもたってもいられなくなって、不安で不安で泣きながらユートの家に行ってさ」
「うん」
「真夜中にいきなり来たあたしをユートはいつも通り受け入れてくれて。酔ってたのに走ったせいで頭フラフラになってたあたしを介抱してくれてさ。その時ユートに触れられて無理になるどころか安心感しかなくて。それで、次の日起きた時、あたしの中にユートが好きって気持ちしか残ってなくて、それで、そのまま付き合ってって……」
「そっか」
「それで、ちょっと冷静になったら、あたしユートと付き合うつもりがなかったってこと思い出して、なのに自分の行動がアレだったから落ち込んでさ……。でも今更ユートから離れるなんて絶対無理で、そんなの自分が一番よくわかってたから別れるなんて言えなくて」
「別れるなんて言われなくてよかった」
「ユートと一緒にいるの幸せすぎるのに別れるなんて絶対無理ぃ……!」
「僕も一緒だよ」
僕がそう言うと、美咲は感極まったのか手に持っていたスマホを放り出して僕に抱きついてきた。僕も文庫本を置いて美咲をだき締め返した。
「あたし、あたしね? バカだから……ホントにバカだから……! 絶対そんなことないってわかってるのに、頭ではわかってるのに……心の中で怯えてる自分がいて――!」
僕は無言で彼女の背中を撫でてあげた。幼子をあやすように。不安を取り除いてあげるように。
「高校の時、ユートがあたしのことを受け入れてくれた時、あたしってビッチなギャルみたいな奴だったから……。だから、ユートが受け入れてくれたのは「ビッチギャルなあたし」だって感じちゃって……! こんな、ユート以外の他の男に触られるだけで吐いちゃうような、そんな女なんて受け入れられないんじゃないかって……!」
背中を撫でながら「大丈夫、大丈夫だよ」と優しく告げる。
「ユート以外の男とセックスなんてありえないし、そもそも触れすらしないし……! でもそんなの全然ビッチでもギャルでもないから、せめて言葉だけでもって思って! だから他の男とセックスしてきたなんて言って! あたし、ずっと……ユートと出会ってからずっと、ユート以外の男とセックスなんてしたことないのに!」
「高校の時、セフレがどうこう言ってたのは?」
「あんなのユートの気が引きたかったから梓に手伝ってもらって吐いてたウソだよ! ユートと出会ってから今までのセフレなんてみんな連絡先ブロックしたし新しいのも一人たりとも作ってない!」
「そっか。そうだったんだ……」
こんな時に思ってはいけないのかもしれないけれど、僕はそれを聞いてとても嬉しく思った。彼女が他の男とセックスしても気にしないとは言っていたけれど、やっぱり本心では他の男とセックスなんてして欲しいわけなくて。
それが、僕と出会ってからは僕としかしたことがないって言われて、嬉しくないわけがなかった。
だから、僕はそれを素直に美咲に伝えることにした。
「美咲が僕以外とセックスしてないって言ってくれて、今僕はすごく嬉しいよ。ありがとう、美咲。僕に一途でいてくれて」
そもそも、今こうやって美咲が泣いてしまっている原因は、僕が美咲の生き方を否定したくないからと、他の男とセックスしてこないでほしいという僕の気持ちを伝えなかったのが原因だ。美咲の中では違うのかもしれないけれど、少なくとも僕の中ではそうだった。
だから、僕は美咲に伝えるのだ。
「僕は、美咲がビッチだったからでも、ギャルだったから受け入れたわけでもないよ。美咲が美咲だったから受け入れて、好きになったんだ。どんな美咲でも好きだったから僕は美咲に何も言わなかったけど、それが間違ってたんだね」
「ちがっ! 間違ってるのはあたしで!」
「ううん。僕が何も言わなかったから美咲を不安にさせてしまったんだ。だからはっきり言うよ」
そこで僕は抱きしめていた美咲の体を離した。美咲の肩を持って、不安げに揺れる美咲としっかり目線を合わせた。
「僕は佐藤美咲が大好きです。美咲には僕以外の男とセックスなんて絶対にしてほしくないし、他の誰にも触らせたくない。僕はね、心の底ではずっと美咲のこと独占したいと思ってたんだ。僕は、そういう汚いところのある人間なんだよ。それでも、佐藤美咲のことが好きな気持ちは誰にも負けない自信がある。こんな僕でも、美咲は受け入れてくれますか?」
僕が真っ直ぐに美咲の瞳を見ながら言うと、一度は止まっていただろう涙がまた美咲の瞳からこぼれ落ちてきた。
それから美咲は顔をくしゃくしゃにしながら笑って、何度も頷いた。
「あた、あたし……! バカだけど……! ユートにそんなこと言わせちゃうようなバカだけど……! ユート以外の男に触れなくなっちゃった女だけど……! それでも、それでも鈴木悠斗のことが好きな気持ちは世界中の誰にも負けないから! だから、あたしとずっと一緒にいて、ほしい、です――!」
「うん。ずっと一緒にいよう」
そう言って僕たちはお互いを抱きしめ合いながら笑った。
いつの間にか僕もちょっと泣いていて、雫がポタポタと垂れていたけれど、そんなことにも気づかないくらい美咲のことしか目に入ってなくて。
その日、僕たちは大学をサボって一日中一緒の部屋で過ごした。
いつもの日常のようだけれど少し違う、そんな日を過ごしたんだ。
それからの美咲は前以上に僕にベッタリになってしまった。派手な交友関係だった友達付き合いも、本当に仲のいい数人以外とは関係を絶ってしまったらしく、以前のように夜遅くまで出かけるといったこともなくなった。
むしろ美咲の友達付き合いに僕が駆り出されるようになって、美咲プラス数人の女子会に僕が参加する羽目になってしまったけれど、美咲がそれを望んでいるのだから僕が拒否する理由はない。
そもそも夜遅くまで遊んでいたのも「ギャルならこういう付き合いもするよね」というような思いからだったらしく、本当はさっさと帰って僕と一緒にいたかったと言われてしまえば、僕から美咲の交友関係に口出しする気もなくなるというものだ。だって僕も美咲とずっと一緒にいたいし。
もちろん以前言ったように他の男とセックスしたなんてことは一切なく、夜遅くまで遊んでいた時もメンバーは女子だけだったらしい。
「そういえばあの日、酔っ払って帰った二回目の。あれなんだったの?」
「お酒の力を借りて、友達の彼氏に手伝ってもらって、他の男に触る練習しようとしてた。友達の彼氏には悪いけどあまりにも無理すぎて帰ってきた。でもこんなこともできなかったらユートに嫌われちゃうと思ってた」
「できなくてよかったって思うべきなのかな?」
「どうかな? でも、おかげでユートともっと繋がれたと思ったら、そうなのかも」
なんて会話をして。
彼女が他の男性に触れられないというのは、僕としては嬉しいけれど、それはそれとして人としてはやっぱりまずいので、僕は美咲と二人で少しずつカウンセリングを受けている。
心の問題だろうからいつ治るかなんていうのははっきりとはわからないけれど、死にでもしない限りは僕が美咲と別れるなんてことはないから、二人で一緒に頑張っていくしかない。
僕の彼女はビッチギャルだった。
今の彼女はなんだろう? 何者でもない、佐藤美咲という僕の彼女だ。
僕は今とても幸せだ。
だから僕は彼女に伝えるんだ。
「好きだよ、美咲。ずっと一緒にいようね」
「ユート、好きだよ。愛してる。絶対離れないからね!」
本編完結ということで。
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