透明人間になりたかった私
【今回、非常長くてかつ、暗めの内容になっているので、そう言うのが苦手な方はスルー頂ければとm(_ _)m すいません(汗)】
子供の頃から高校までの私にとって「小説」と言うのは、世界の違う人がたしなむ「よく分からないけど難しそうで、ちょっと気取った趣味」と言う存在だった。
じゃあマンガを読んでいたのか? と言うと答えは否。
その頃の私にとって、人生イコール音楽。
もっと細かく言うとバイオリンだった。
自分で言うのも凄くどうかと思うが、4歳からバイオリンを始めた私は、最初は街の小さな教室だったのがすぐに都市部の有名な教室に移った。
当時某有名オケで演奏していた人で、見込まれた子供だけがレッスンを受けられていた教室だ。
そんな所に何の間違いか潜り込んだため、両親の喜び様たるや凄かった。
私も小学校に上がる頃には、周囲の状況も分かってくるので、自分がバイオリンによって他の子供より「遙かに褒めてもらえる」と分かったので、夢中になった。
特にコンクールで賞を取ったときなどは、全校朝会の場で名前を呼ばれて、校長先生の立っている緑色の変な台に上がって賞状をもらっていて、それは子供の私の細やかな自尊心を大いに刺激し、さらにのめり込んだ。
当時、小学3年の私のため両親が楽器を買ってくれた。
それは当時100万はする物で、その価値のよく分かってなかった私でも、自分に対する期待とその高い評価は分かった。
小学5年生の時は150万。
いやはや、今思えば私も両親も先生も色々と目の前が見えていなかったのだろう。
中学生になる頃には私にとってコンクールは上位入賞は当たり前で、いかに頂点を取るか。 このエッセイの中の「温度と焼印」の様な一件があったとは言え、私の情熱は衰えず。
大学は絶対東京芸大に行きたい。
卒業したら数年留学して、将来はN響(NHK交響楽団)のコンマス(コンサートマスター)になりたい。
いや、なれるだろう。
当時は夢中になりすぎて、学校以外は家での勉強以外全てバイオリン。
休みの日なんかは1日10時間くらい弾いていた。
もっと綺麗な響きを。
もっと心地よく周囲の空気を響かせたい。
未来への道は当たり前の様に黄金色に輝いていて、私のために整地されている。
後は進むだけ。
そう信じていた。
そんな中学3年生のある日。
下校途中で私は事故に遭った。
青信号を渡っているときの事だった。
白のワンボックスカーの大きさは今も夜中に目に浮かんで、冷や汗をかいて目覚める事がある。
お陰で今も白のワンボックスカーを見ると震えが出てしまう。
当時、医師から「生きていたことはかなりの幸運だ」と言われるほどだった。
幸い脊椎の損傷も無く歩くことは出来て、女子としての命とも言える顔の傷もオペにより微かに後が残る程度だった。
しかし、神様は残酷だった。
私にとって足や顔よりも大切だった「演奏するための指」が失われた。
と、言っても無くなったわけではない。
左手の小指と薬指。
右手の親指の神経を損傷してしまい、充分に動かなくなってしまったのだ。
先生が言うには、リハビリを行えば日常生活には支障は無い、との事だった。
でも、プロを目指すバイオリン弾きにとっては死刑宣告。
(今はリハビリのお陰で、趣味でアイルランド音楽の演奏を楽しめるくらいにはなってます✨リハビリの先生、有り難う御座いました!)
バイオリンにとって音色を制御する「弓」の操作は右手親指が全て。
親指をいかにコントロールするかで音色が決まる。
左手は言わずもがなで、音程を司る。
私はそれらを全て失った。
自分でも音色には自信があった。
いかに心地よい音色を追求するか、はテクニカルな演奏よりも関心があったほど。
でも、ベッドの上で弾いた私の楽器からは初心者のような濁った音色。
リハビリを重ねても……全てが遅すぎる。
私は楽器を壁に投げつけて泣きわめいた。
花瓶やナースコール、枕や雑誌。
全てをぶちまけた。
個室の中はさんさんたる有様。
なんなら、窓ガラスにもヒビが……
看護師さんが数名入ってきて、精神錯乱を疑われるほどだった。
(その節はすいません……)
母親と弟が数時間後慌ててやってきて、私を抱きしめて言った。
「命があるじゃない、薫ちゃん! 顔だって大丈夫だった。歩くことも出来るじゃ無い!」と。
私は母親を突き飛ばし、2人にペットボトルの中の水をかけて、それを投げつけると怒鳴った。
「足とか顔とかどうでもいい! 指が欲しかった! もう殺してよ! なんで殺さなかったの、あの車……ここまでやるなら殺してよ! お母さん、〇〇(弟の名前)お願いだから殺せ!」
と、泣きわめいたのを良く覚えている。
今となっては笑い話だし、特に弟からは今でも当時のことをお互いネタにしては笑ってるけど、弟曰く当時「自分たち家族は終わった、と思った。姉さんと一緒に死ぬしか無いかも、と思った」と言ってたほど。
「マジであの時ビビりまくらされた恨み、一生忘れないからな」
と、結構言われている(汗)
楽天的でいつも飄々としてた弟と母親が、顔面蒼白で涙ぐんで出て行った。
特に顔面蒼白なで引きつった表情の弟を見たのはあれが最初で最後だった。
夜中にコンクールで演奏する自分の夢をみて「ああ……大丈夫だった、わたし」と泣いてると夢から覚めて、また激しい絶望感で夜中に暴れ回る。
どうも知らないところで精神科への転院の話も出ていたようだけど、何故かそうならずに日は流れた。
何故かは分からないけど、ある日急に私は現実を受け入れた。
もう泣いても喚いてもプロにはなれない。
そして、あんなに願っても神様は私を殺してくれない。
死ぬ気配もない。
自分では怖くて死ねない。
じゃあ生きるしかない。
生きるのは怖いけど。
私にはバイオリンしか無かったから。
小さい頃から遠足や修学旅行をサボってまで練習してた。
学校での音楽を挟まない状態での他人との付き合い方なんて知らない。
でも、やるしかない。
もっと勇気が欲しい。
そう思って本を読みまくったけど、どれも凜々しく雄々しく向かっていく勇気ばかり。
わたしには辛い。
だから自分で考えた。
勇気って、泣きながらでもときには逃げながらでも一歩前へ進むことだって。
拙作「リムと魔法が消えた世界」に出てくるこの言葉は自分で苦し紛れに考えた物だった。
幸い、勉強しかやることが無くて、落ち着いてからはバイオリンに向けてた時間全て勉強に向けたせいで高校には入学できた。
当時の私はとにかく人が怖かった。
音楽の無い私なんて価値がない。
誰もこんな私なんて求めるわけが無い。
だって、もう有望なバイオリン弾きじゃないから。
実際、お父さんだってそう。
あんなに期待してくれてた教室の先生も私を見放した。
勇気を出して送ったメールには全く返事が無かった。
数通送っても。
そんな事もあって、クラスでも誰とも話をせず、下校時間になったら逃げるように家に帰って、部屋に閉じこもっては勉強をひたすら。
べつに勉強が好きだったわけでは無く、それしか無かったから。
そんなある日。
天の配剤、と言うのを私は心から信じている。
あの日。
いつも逃げるように下校してた私に担任の先生が声をかけてきたのだ。
「京野さん、丁度良かった。図書室に本を持っていくんだけど手伝って」と。
私は「急いでるので……」と断った。
この学校で人と話したくない。
透明人間で居たかった。
でも先生はしつこく声をかけてきたので、私は根負けして渋々手伝うことにした。
その先生が非常に魅力に溢れてて、憧れてる女子も多い人だったのもあったけど……
沢山の本を抱えて、ひいひい言いながら図書室の床に降ろした私の目にふっと有る本の背表紙が飛び込んできた。
「アゴタ・クリストフ 悪童日記」
変なタイトルだな……と思いながら見ていた私に先生は明るい口調で言う。
「京野さんもこれ、興味あるの? 『悪童日記』面白いよ! 良かったら借りてって」
と、返事もしてないのに半ば無理矢理押しつけられた。
せっかく借りたし、これを読めばもしかして先生と仲良くなれるかも……
そんな下心を持って、家に帰った私は流し読みするつもりでページを開いた。
それらしく感想を言える程度に読んどこう……
それから徹夜で読み続けていた。
こんな気持ちは久々だった。
主人公の少年2人のサイコパスとしか言えない所業の数々が、淡々と日記として描写されている。
そこには人は「動物」でしかなく、人生などは単なる「作業の連続」として描かれていた。
その乾燥しきった文体の心地よさ。
そして、そっけない文体で明らかになる、人の……人生の本当の価値。
その乾ききった、冷め切った内容と文章に夢中になった。
そして朝までその本の2回目を読見終えた私は、ビックリするほど心がスッキリしていた。
そうか、人生って……ただ生きてていいんだ。
幸せってそんなに難しい物じゃないんだ。
人ってそんな大した物じゃない。だったら重く考えずに生きれば良い。
そう思うとワクワクしてきた。
ああ……物語って……面白い。
それから私は憑き物が落ちたように、クラスの子と関わるようになった。
もっと人生を楽しみたい。
人間って面白い。
人と付き合うのって音楽と同じくらい奥が深いんだ……
先生ともあの一件以降親しくなり、私が20歳を過ぎた頃は一緒に飲みに行くようにもなった。
今でも時々会っては本の話をする。
さすがにカクヨム様に出してる百合小説は見せれないけど……
※
思いっきり長くなってすいません(汗)
これが私の小説にのめり込んだ切っ掛けです。
……のつもりで書き始めたら、勝手にイメージが膨らんでなぜか「私の半生」になっちゃったけど!
こんな長い内容、すいません(汗)
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