第42話 傾向と対策と
「貴方達は何者かしら?」
「我々は王国貴族であられるポーラリア侯爵様の騎士。私はその中でも筆頭魔法使いです。」
「よりによって王国貴族かよ…」
「貴方達の目的は?」
「先日この森で黒き魔力が観測された。その調査が目的です。」
「それはまた…こないだの戦いか…俺は見てねぇがクロウが頑張ったっていう…」
ベルが質問し、棘に縛られた男が話す。それに合いの手を入れるようにネルが呟く。
先日のクロウの使った魔術の余波。どこまでそれが届いたかはわからないが、王国に気が付かれるほどの膨大な魔力だったことがうかがえる。
「よくわからないわね。調査ってなんなのかしら。」
「らちがあかんな。我が聞こう。うぬらの任務はなんだ。」
よくわかっていないベルに業を煮やしたガルガンドが問う。調査といってもさまざまだろう。敵対する目的のものから友好的なもの。後者であればいい、しかし前者であった場合…。
「我々の任務は黒き魔力が観測された場所の現地調査及びその痕跡の追跡。もし万が一この地に流された魔の象徴により引き起こされたものであれば、事故に見せかけて殺すようにと命じられている。」
その言葉を聞いて守護者達の雰囲気が変わる。濃密な殺気。部屋の温度が何度か下がったかの様な空気。
この男は言ったのだ、彼らの主人を害すると。それを聞いて冷静でいられるほど器用な者がこの場にはネルしかいなかった。ネルも怒ってはいる。憎悪と言っても良いだろう感情。
しかし長年の経験が冷静さを失わせることを寸でのところで引き止める。
「落ち着きなお前ら。結果論だがベルとブレアのお手柄ってこった。まずはその危険はねぇ。この話を聞いて今後どうするか、とりあえず話を続けようや」
今にも男を八つ裂きにしそうな6人にネルは待ったをかける。
守護者達は同時にネルを見て、殺気をおさめると剣呑な雰囲気のまま黙る。
「まぁそうは言ってもこんな調査だ。確実に国王も絡んでる。面倒なこった。」
そう言うネルをカストロは一瞥するとネルに向かって影を伸ばす。
「ネル。ミネルバ・フォン・アークライト」
「おい!何をしているの!カストロ!貴方ね!」
殺意を持ってネルに影を伸ばすカストロに、アドラは魔力を込めた拳をいつでも放てる様に構えて間に入る。
「アドラ。どけ。私は聞かねばならない。我らが主人の守護者として。貴殿はどちらの味方かと」
ネルは何も言わずにカストロを見る。守護者達は各々臨戦体制をとりながら言葉を待つ。
アドラとテトラ、ベルはネルをいつでも助けられる様に。ブレアとガルガンドは3人を警戒しながらもネルに注意を向けている。
「はっ!愚問も愚問だぜカストロ。クロウの味方に決まってるだろうが!俺はあいつの父親だ!誰がなんと言おうとな!初めはいつか迎えが来るかもと別れが辛くない様にそう呼ばれる事をやめさせようとしたがよ。今となっちゃ愛する息子さ。俺だけじゃねぇ。マーサもアッシュもコニーもレオニールも!全員があいつの家族だよ。王国だろうが帝国だろうが敵になるなら容赦しねぇ。その時は真の雷帝の怖さ見せてやるさ。一面枯れ木も残さねぇ。」
ネルは笑う。その笑みには嘘はない。心から愛する家族のために何者にも負けぬ自信と信念があった。まさに父親であった。
「大変に失礼いたしました。お父上殿。この罰は何なりと。」
カストロはすかさず影を霧散させると両手を地につけ頭を下げる。
「はっ!お前もクロウの家族だろ。主人が心配でたまらねぇんだ。罰なんかあるかよ。」
ネルは笑いながらカストロの頭を上げさせる。
「それによ。昔は王国に忠誠を誓っててもな。別にあの狸みてぇな王に誓ったわけじゃねぇ。今更なんの関係もない!」
そう言うネルに守護者は頷くと未だ棘に縛られる男を見る。
「それで。貴方達の主人は諦めるのかしら?」
「我々はポーラリア侯爵様の精鋭。我々が帰らぬとなればさらに多くの騎士を動員するだろう。ここで成果を上げれば王へ顔が売れると考えていらっしゃる。」
クロウの首を手土産程度にしか考えぬ愚か者に流石のネルも怒りを抑えきれない。
今度はそれをテトラが制す。
「まぁ落ち着きましょう。これで王国の滅びは確定。すぐにでも制圧して消滅させます。大丈夫。2度と逆らう者が出ない様に徹底的にやりましょう。」
そう言うお前が一番落ち着けと全員が思う中、ベルが問う。
「テトラ。貴方が1番落ち着きなさい。滅んで終わりなんて許されないわ。こんなの王様1人残して人間は皆殺しにした方が良いわよ。そうよ。許されないのだから。永遠にね?」
ベルは昏い笑顔で言う。愛しき人に牙を向くその原因を根こそぎ殺そうと。
「お前ら…なんでまともなのがいねぇんだ…1番まともそうなアドラなんてもはや魔力を抑えられてねぇ…ガルガンドは、なんで盾を持って立ち上がってるんだ…」
ネルは嘆く。血の気の多い連中に。まともな者のいない話し合いがこんなに疲れるものとは知らず、次からはマーサを連れてこようと心に決めるのであった。
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