第41話 悪夢

 ベルとブレアが家に着くと、抱えられた男を見てガルガンドは盛大にため息を吐く。

 ガルガンドや他の守護者達も男達の接近には気がついていた。ブレアよりも後で気がついたがまさか1人を残して皆殺しにしてくるなどと思わず、警告して戻ってくるだけだと思っていた。


「はぁ…忘れていましたよ。あなた達がそう言う性格だと言うことを…」


「はぁ?!よく言うわよ!聞いたわよ?!クロウ様のご家族がいる側で完全詠唱で魔術を行使したんでしょう?!天使のくせに慈悲のないことね!」


「なっ…!あれはもちろん巻き込むつもりはなかったのです!それにちゃんと加減はしていました!」


 呆れ顔のテトラに煽るベル。他の守護者達もどうしたものかと表情は暗い。

 許可なく侵入してきたとはいえ、こちらが勝手に領域を決めて警戒していただけのこと。注意書きがあるわけでもないのだ。

 それを許可を取れと言う方が難しい。

 だからこそ警告をしにいくことが当たり前だと観ながら思っていたのだ。


 しかし、この2人は問答無用で皆殺し。敵か味方もわからずに、男1人を捕まえて家に帰ってきた。


「大丈夫よ!!敵に違いないわ!それはそう!私の勘がそういっているもの!」


 根拠もない自信によって殺された者達に同情するも、怪しい集団であったのは確かだった。


「おいおい!騒がしいぞお前ら!なにをヤンヤヤンヤいってやがる!」


 そこへネルが入ってくる。


 守護者達も増え、急に成長したクロウのために、増改築し各1人に部屋が割り当てられるようになったクロウ達の家、リビングは全員が集まってもまだ余裕のある大きさになっており、そこで守護者達は言い合っていたのである。


「いやぁ!なんでもないのよ?うん!ごめんなさいなぁお義父様?ね?ブレア!なんでもないでしょぉ?」


「はい!はいでしゅ!なんでもないでしゅので!きにせずにどうぞなのでしゅ!!」


 慌てたように答える2人、目は泳ぎ何かを隠していることは誰の目を見ても明らかだった。


 そしてネルの目線が、捉えられた男に止まる。


「は…??いや…おい…誘拐…?」


 ネルは意識なく倒れ寝かされている男を見るとポカンときた表情で問いかける。


「ちがうでしゅ!!誘拐じゃないでしゅ!!」


「そうなのよぉ!敵よ!敵なの!間違いないのよぉ!!」


「ばっか!なんでその敵がこんなところで意識不明で寝てるんだ!!1人か?!1人で攻めてきた馬鹿者なのか?!おい!誰か説明しろ!!」


 慌てる2人に顔を真っ赤にして怒るネル。他の守護者は額に手を当てまた一つため息を吐く。


「あー。話せば長くなるんですけどね。ネル。気を確かに聞いてください?」


 そう切り出したのはテトラ。あくまでも冷静に努める雰囲気にネルは嫌な予感しかしない。


「実は…何時間か前にね。こちらに向かってくる大勢の人の気配があったのよ。迷うそぶり無く私たちのこの家に向かう気配がね…」


「は…気配…?」


「そう。まず気がついたのはブレアだったみたいだけど、私たちみんな気がついたわ。それはもうベルとブレアが出た後だったけれど。」


「そ…それで?」


 アドラがテトラに変わり説明する。その口ぶりからあらかた想像できたネルは額をひくつかせながら話を聞いている。

 

「この男以外全部殺してきてしまったのよ…警告もなしに皆殺し…」


「だああああああああ!なんでだ?!?!なんでなんだ?!敵か?!本当に敵か?!客だったらどうする!あああああ」


 ネルは耐えきれなくなり発狂する。頭に手をやりぶんぶんと振りながら絶叫する。理解できない。本当に客だったらどうするつもりなのか。なんで皆殺しなのか。もうわけがわからないと言った様子で叫び続ける。


「お義父さま?大丈夫よ!敵なのよ!私の勘がそう言ってるもの!」


 まさに、容赦ない爆弾発言。勘で殺すなど狂気の沙汰だとネルは涙さえ浮かべながら、恨みがましく2人を見やる。


「悪夢だ…なんだこのサイコパスども…頭のネジ何本か落としきてやがる…」


「だ、大丈夫なのでしゅ!今からこの男を尋問してしっかり吐かせるでしゅ!ベルしゃん!お願いしましゅ!」


 もはやぶつぶつと呟く人形のようになったネルを横目にブレアはベルそう言うと、ベルが男の前に移動する。そしてすかさず魔術を行使し始める。


「 嗚呼運命の人


  私と貴方に嘘はなく

  私と貴方に秘密はない


  私に全てを教えて欲しい

  私に全てを与えて欲しい


  貴方に私の全てをあげる

  貴方に私の魂すらも


  嗚呼愛しき人よ

  貴方が嘘をつくならば

  貴方の心を野薔薇で縛ろう

  貴方に秘密があるならば

  貴方の体を鎖で繋ごう


  私は貴方

  貴方は私

  楽園のまどろみに身を置いて


  言葉を縛る薔薇の棘  」


 詠唱する。ベルの狂愛が産んだ愛しき人の全てを知りたいと言う願いを魔力に込めて。

 男の体を薔薇が締め上げる。鋭い棘が肉に食い込み身体中から血を流す。しかし苦痛が伴うようなそぶりはない。

 男は目覚めず、しかし口だけがピクリと動く。


「さぁこれでいいわよぉ。尋問を始めましょぉ」


 ネルはその光景を見て天を見上げ黙り込み。逆に。守護者達は、嘘のつけぬ薔薇に囚われた男に、守護者達は質問していくのであった。

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