第38話 掃討と戦いの終わり

 クロウの一言で動き出す守護者たち。森をあまり破壊したくないとの言葉を受けて、各々が力を奮う。


 まず初めに動いたのはテトラであった。魔術ではなく魔法によって、魔力を風に変換し、敵の首を狩っていく。


 アドラは己に身体強化を幾重にもかけ一撃一殺でもって戦場をかける。また1人また1人と数を減らす兵たち。その拳で風穴を開け、手足を吹き飛ばされる仲間を見てもはや戦える様な様子ではなかった。


 カストロとベルは魔術を持って応戦していく。相手にしている敵兵をその力を持って血を吸い騙してをすする。2人の頭上には血が球体となって集まり、敵から流れる血を一滴も逃さず吸っていく。


 ガルガンドとブレアはその余波でクロウや仲間たちに被害が出ぬように守りに徹する。

 

 ガルガンドの盾は魔術の行使とともに、ありとあらゆる敵性行動を阻害する。その因果を逆転させる。

 矢は当たると言う概念から当たらないという概念に変換され、魔法の発動は失敗へと変換される。


 ブレアは森へと被害が出るたびに、その場を回復させてまわっていた。

 木を生やし、土を作り出し、その土壌を最適なものへと変えていく。被害などなかったかのように。むしろ以前よりも元気に生い茂る。ブレアは主に回復を担う守護者だ。その力はありとあらゆるものの再生。魔術を行使すれば、代償次第ではその命すら再生してみせる。


「みんなすごいな…。これで全力じゃないんだから…頼もしい。」


クロウは満足したように笑みをこぼす。

その横合いでは、6人の守護者の圧倒的な力に慄き、目が離せないアッシュたちと子供達。


もはや戦などではなく、戦闘にもなっていない。


「あんなに苦労してたのがバカらしい。こりゃ最強どころかこの6人で世界を支配できるんじゃねぇのか…」


 なまじアドラに稽古をつけてもらい実力をつけてきたアッシュは、その広すぎる地力の差にもはやそう呟くしかなかった。


 笑顔のクロウにしてもそうだ。魔術一つで静かに敵軍の半分を排除してみせた。

 一軍に匹敵する戦力。それに近いものたちが6人。もはやこの世に彼らに勝てるものなどいないだろう。


 段々と数を減らしていく兵たち。蒸発させられ、殴り殺され、生き血を吸われ死んでいく。

 その光景の中アレクシアだけは見逃されていた。


 その凶刃が彼女にふるわれる事なく、人が消えていく。


 もはや早く殺してもらえた方が幸せだろう。

 恐怖でどうすることもできず、その刃が己の心臓を早く貫いてくれるようにと祈るようにまつアレクシアだった。


 そして時は訪れる。敵兵の最後の1人にアドラの拳が放たれる。クロウの排除したものを合わせて12000人以上の人の命が、今消えていった。


「我が主人、勅命遂行いたしました。」


 アドラたちはクロウの前に集まると、膝を折り、臣下の礼をとる。


「うん!見てたよ!みんな本当にすごいね!ありがとう!それにあの人を残すなんてすごいよ!余波で死んじゃうんじゃないかと思ってた。」


 クロウは笑顔で満足そうにそう答える。その目には喜びがあり、今のその凄惨たる現場を作り出した本人とは思えない無邪気な顔だった。


「なぜじゃ…なぜ我を残した…嫌じゃ…死にとうない…苦しみとうない…助けてくれ…助けて…助けてくれ…。」



 焦点の合わない目。この数刻で何歳も歳をとったかのような憔悴ぶりにアッシュたちはもはや同情すら覚えてしまう。


「んー。あのさ。許すのは僕たちじゃない。あなたたちはあの子たちの村を襲った。そして友を殺し、親兄弟を攫い、彼らを不幸にしてしまった。」


 クロウは言う。アレクシアの罪を。許すのは自分らではないと。かの子供達にこそ慈悲を乞えと。


「後は彼らの判断に任せよう。メル。どうする?」


クロウは目覚めたメルに問いかける。クロウは既にアレクシアの命を奪う覚悟をしている。しかしメルたちの総意によってはその決断を取りやめる気もあった。


「クロウ様。私たちは彼女を許しません。どんな命乞いをしようと、同情しようと。私たちの親が帰ってこないように。彼女の命をいただきたく思います。」


 まだ年端もいかぬ子供らの決断。復讐を成し遂げんとするその思いにクロウは何も言わずに頷くと、アレクシアの前へと立った。


「助けて…くれ…なぜ…我は王なるぞ…助けて…」


 もはや助からぬとわかっているのだろう。しかし言わずにいられない。未だに王だと、後悔の念すら感じさせない傲慢さを感じられるその姿に。


 クロウは魔力を込めて剣を抜く。


「あなたは全て間違ってた。そうなってしまった事に同情はするけど。責任は取らないとね。王だから。さようなら。哀れなアレクシア。せめて黒き魔力で葬ってあげる。」


 そういうと首筋に沿って一閃。


「あぁ…美しい…ほしか…った…」


 最後まで黒き魔力に魅せられて、アレクシアの命の灯火は、クロウによって吹き消された。


 こうして一連の戦いは終わる。


 黒き王の誕生に、未だこの世は気が付かない。


 しかしいずれ知られるだろう。それはクロウらにとって、この星にとって、どんな影響を及ぼすのか。


 今はまだわからない。確定した未来などないのだから。


「さぁ。全部終わったし。ご飯でも食べようよ。僕お腹すいた。」


 そう言うクロウの顔に先ほどまでの雰囲気はない。本当に何事もなかったかの様に。

みんなを見て笑顔で告げる。


 そこに一抹の不安と生き残った安堵を伴って。

 各々は自分のやるべき事を。まずは勝ったことを、喜んだ。

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