第36話 因果応報


クロウは一歩前に出て守護者はクロウの後ろに控えると膝を折る。


「クロウ様。クロウ様のお手を煩わせることはございません。森を傷つけたくないのなら、我が妹の魔術がございます。あの程度の有象無象。一瞬の内に平らげましょう。」


「これカストロ!クロウ様がお決めになったことに異を唱えるとは何事か!貴様この俺が叩き潰して、蝙蝠よりも小さくしてやろうか!」


「はっ!これだから鬼は頭が硬い。これは忠言よ。貴様とてあの程度の者どもの血でクロウ様のお手を汚すなど、それを看過する方が余程の不敬よ!」


「あらあら勝手なことを言うのねお兄様。お兄様だってやれるだろうに。手柄を譲るだなんて、明日は世界の終末かしら?」


3人は互いに互いを煽り合う。

しかしそれを見てもなお笑顔を崩さないクロウ。微笑ましいものを見る様な目で3人を見る。


「はいはい。それまでなのでしゅ。わたちは悲しいのでしゅ。カーくんもベルっちもがるくんも仲良くしてくれなくて。わたち泣きそうです。このままじゃ暴走してしまいそうでし。」


ブレアはそう言うと泣く真似をしてみると、3人は一気に顔を青ざめさせて口を閉じる。

それは見事な勢いで、先ほどまでの口の悪さが嘘の様。


「ありがとうブレア。

でもその通りだよ。喧嘩はいいけど今回ばかりは戦争中だし。それにまずは僕からやるよ。その後残ったら君らに譲るから。ね?」


「「はっ!おうせのままに!!」」

ガルガンドとカストロは大声で了の声を上げる。


「クロウ様?私はクロウ様に逆らったりしないけれど、たくさん働いたら褒めてもらえるのかしら?」

そう言うのはベルだ。物欲しそうにクロウの目を見つめていた。


「もちろんだよ!僕にできることならなんでもするさ!」


それを聞いたベルはなんでも。なんでもなんでもとぶつぶつ言い始める。


「さて、悪いねお待たせだよ。とりあえず僕からやるよ。とりあえず後ろにいて控えていてね。」


クロウはそう言うと前へと進んでいく。

それを見た敵兵たちは、その隙だらけのクロウを見ても動けない。後ろにいる得体の知れない怪物たちが恐ろしい。怖くて怖くてたまらない。そんな気持ちが先に出て、足を震わせている。



 クロウはふと立ち止まり、魔力を纏う。今度は圧縮もせず、その膨大な魔力を、噴き出るがままにして。


「さぁいこうか。」


ふたたび頭に浮かぶ無数の言葉。それを思うままに繰り出して魔力へと送り込んでいく。


「 我は王


  星に選ばれし星の監視者


  我が元こそが最も清く

  我が元こそが最も穢れ逝く

  

  我が指先に触れよ

  汝に祝福を与えよう


  汝らの罪を我に捧げよ

  幸福たらんと望み

  不幸を呪え


  安息の地はここにある


  さぁ幸福を享受せよ


  死こそが汝の幸福たらん 」


 クロウは詠唱する。幸福になるためと人の幸せを踏み躙るそのあり方を否定する様に。

 そんなものは幸福ではないと。

 しかしわかってもいるのだろう。人とは喰い合わねば幸せになれぬとも。


ならば作ってやろうと。皆が幸せを享受できる理想郷。

そんな夢を思い描き、クロウは眼前の敵を喰い荒らす。


詠唱が終わると、魔力が地面から噴き出てくる。敵兵の足元が真っ黒に染まり、噴水が如く溢れ出る。


その黒き魔力は1人、また1人と兵を飲み込み、引き摺り込んでゆく。奈落の底へと。


阿鼻叫喚。まさに地獄絵図。

逃げ惑い悲鳴をあげる兵士たち。しかしどこからとも無く溢れる魔力からは逃げられない。

なす術なく飲み込まれる兵士たち。


そして黒き魔力が収まると。そこには半分以下にまで数を減らした兵たちが、呆然として座り込んでいた。


「なっ!!そんなばかな。何が起こっている…!何故こんなにも人数が減った!!」

アレクシアは狼狽える。

ありえぬ光景に。跡形もなくなった兵士たちの姿を見て。



アレクシアもまた座り込むしかできない様子であった。


  

   

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