第35話 守護者
クロウは研ぎ澄まされていく。魔力は圧縮し膨張し、その姿を変えていく。
「
顕現せよ
漆黒を喰み、闇を統べ、死を超越せし魔の双子よ
顕現せよ
日輪を喰み、日を統べ、生を遍く照らす 光の乙女よ
顕現せよ
全てを飲み込む強欲の化身、何者をも通さぬ不屈の門番よ
我が片翼をもって顕現せよ
圧縮せよ圧縮せよ
我が魂の一欠をもち相剋の力の前に頭を垂れよ
我が求めるは破壊
我が求めるは再生
天地を統べし黒き星の化身
汝ら我が元に集いて喝采を
汝ら我が元に集いて祝福を
我は王たる証を持って全ての者を導くだろう
その穢れの一切を引き受けよう
汝らこそが星の守護者なり
」
クロウは歌う。
頭に浮かぶ無数の文字をなぞる様に。
クロウの元より出た黒き魔力が脈動する。今か今かと急かすが如く、今にもはち切れんばかりの魔力が凝縮していく。
そして、時は満ちる。
音もなく止む魔力の嵐。唐突に崩れゆく魔力の中に。4つの影が立っている。
クロウは微笑み歓迎する様に両手をあげる。
今ここに、守護者が顕現した。
黒き魔力が霧散する。
1人は美しい銀髪に赤い瞳の美丈夫だった。黒いコートを身に纏い、口元には鋭い牙。端正な顔立ちの中に嗜虐的な笑みを浮かべ立っている。
1人は美しい銀髪に赤い瞳の妖艶な女だった。真っ赤なドレスに身を包み、黒いストールを巻いている。口元には鋭い牙。その指先には鋭い爪が、唇を撫で舌なめずりをする姿が官能的だった。
1人は金髪に青い瞳をした女の子。純白の祭服を着て、少し小柄な体を揺らし立っている。柔和な笑みを浮かべながらくるくると周りを見渡す。
1人は灰色の髪にブラウンの瞳の大きな男。盾を持ち身の丈は2メートルを越える巨大。その顔は無表情でまっすぐ前を向いている。
身に纏う雰囲気はアドラとテトラと同じもの。圧倒的強者の風格に空気が張り詰める。
そんな中、クロウだけが笑みを浮かべて4人を見ていた。
「初めまして、クロウだよ。いきなり呼び出されて戸惑ってるかもだけれど、少し協力して欲しいんだ。」
戦場の中にいるとは思えぬ気軽さを持って話しかけるクロウ。4人は振り向きクロウを見やると、微笑みを浮かべるもの。緊張に顔を強張らせるもの。様々な態度であった。
「我らが主人。クロウ様におかれましては初めてお目にかかります。私、カストロ・ヴェルデハイルと申します。何卒、我が忠誠をお受け取りください。」
「うん。よろしくねカストロ。歓迎するよ。普段は友達として接してね。」
初めに声を発したのは銀髪の赤き瞳の美丈夫だった。
他の3人はカストロの挨拶を聞いて、先を越されたという様に少しの悔しさを含む様な顔をしてカストロを睨む。
それに対してカストロは早い者勝ちだという様に不敵に笑う。
「まぁ、自己紹介もあるけれど、とりあえずこの状況をなんとかしないといけないんだ。敵は軍勢。個々人は大したことないけれど、あんまり森は傷つけたくないから僕がやろうと思うんだ。」
そういわれると4人は周囲を見渡して、敵を見る。
「なんともまぁ有象無象がこんなにたくさん。私嫌いなのよね。群れても弱いんだもの。食べる価値もなさそう。」
そう言うのは銀髪の妖艶な女だった。それを受け他の3人はそれぞれ反応するが、クロウがそれを宥める。
「まぁとりあえず、彼らにもご挨拶ついでに、君らの名前も教えてよ。名も知らぬまま死んでいくのも可哀想だし。」
アレクシアは口を開け、目の前の光景に眩暈を覚える。
なんなのだその余裕。こちらは万に迫る軍。あちらはたった4人増えただけ、それなのに相手にすらされていない。その雰囲気に恐怖が怒りへと変わっていく。
「「「「承知いたしました。御心のままに。」」」」
4人は綺麗に一礼するとまずはカストロが一歩前に出る。
「それでは僭越ながら私から。私、闇に生き夜を司りし吸血鬼が1人。夜の支配者、真紅の怪物。黒き王が誇る守護者の一員。カストロ・ヴェルデハイルと申します。以後お見知り置きを。」
優雅に礼をし冷たい笑みを浮かべるカストロ。
「次は私が。私、闇の愛子、闇に愛されし者。夜を司りし吸血鬼が片割れ。黒き王が誇る守護者の一員。ベルロッテ・ヴェルデハイルと申します。あ、決して名前を呼ばないでくださいね。我が主人以外に呼ばれるなど虫唾が走りますので。」
ベルロッテは礼をして、クロウは振り向くと愛しい目をしてニコリと笑う。
「ふむ。2人は相変わらずですの。わたちは聖なる御子。我が主人しゃまに使えし祝福の子。天使たるべく生まれし怪物。黒き王が誇る守護者の一員。ブレア・フォー・ベルナルティといいましゅ。あ、可愛く可愛いブレッちって呼んでくださいね。」
ブレアはパチリとウィンクすると、アレクシアを見て、口を満月の様に歪ませて笑う。
「はぁ。最後は我であるな。全く。貴様らは変わらないな。まぁよかろう。黒き王がお待ちじゃ。」そういうと巨体な男はため息をつく。
「我こそは。全ての栄光ありしと謳われし者。神をも喰らう鬼の末裔。真なる恐怖の体現者。黒き王が誇る守護者の一員。ガルガント・ディアスである。貴様ら。我らが王の御前である。歓喜せよ。主人から死を賜われる幸運を。」
ガルガンドはそう言うと拳で盾を叩きつけ、アレクシアを睥睨する。
そうして揃う。6人の守護者たち。
古の争いで最強最悪と謳われし、凶なる怪物たちがここに顕現した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます