第31話 尽きぬ魔力と黒い箱

 アッシュとクロウの怒涛の攻めを横目に見ながら、コニーとレオニールも負けてはいられないと奮闘していた。


「おうおう!張り切ってるねぇ。やっぱうちのリーダーは流石だねぇ!」


「コニー!軽口たたいてないで働きなさい!」


 コニーもレオニールもいつもと変わらぬ態度で子供達を守るように立ち回る。


 クロウたちのような派手さはないが、以前とは比べ物にならないほどの、技量と連携で持って、子供達に近づく兵士たちを無力化していく。


「まぁ俺とレオニールは守り専門だわな!俺たちがいれば安心よ!お前ら安心して見てな!」


コニーは子供らにニカッと笑いナイフを振るう。




一方クロウは雷を纏い戦場を支配する。


しかし雷を纏うその技は思った以上に魔力の消費が激しいようだった。


目減りしていく魔力に、無限にも思える数の敵。

まだこんなところで尽きるわけにはいかないとありったけの魔力を込める。


 するとそれに呼応するように、魔力に少しずつ黒が混ざり始める。足りなくなる魔力を補うように、無色透明な魔力が黒に染まっていく。


「なんだこれ!よくわからないけど全然魔力が尽きる気がしない!」


クロウは驚きながらも、湧き出る魔力を惜しみなく使い雷を纏い戦い続ける。


「ほう。膨大な魔力とは眉唾ではなかったか。やるのう。しかしいずれは疲弊する。人間である限り永遠はない。いつまで持つのか楽しみだ。」


 いつのまにか雪崩れ込む兵達に隠れ、黒い箱を残したまま後方へ下がったアレクシアは高みの見物が如くクロウらを眺める。


 それは自らの兵達が死んでいく事に微塵も興味がないような、むしろ昏い目をした表情は喜びさえも感じさせる。


 ポツンと戦場に置かれた箱の下、奇妙に展開された魔法陣が怪しく明滅する。

 魔力を吸っているのだろうか。人が死ぬごとにその光が明るくなっているような気さえする。

 その黒い箱が、クロウが黒き魔力を纏い始めたと同時に反応し、白く発光し始めた。


 その光は周囲を包む。突如として光り始めた箱にクロウらも、兵士すらも戦いをやめてその箱をみる。


「ついに!ついにか!!!王国に侵攻するまでもない!この闘争がついに箱を起こしたのであるか!」


 1人、アレクシアだけが驚喜する。

 何年もかけて今までどの王も開かなかったこの箱を私が開いたのだと。これでこの世は我が物だと、狂喜乱舞して狂ったように嗤う。


 その光が収束していく。そして、光が完全に止まるとそこには真ん中きら二つに割れて中に黒い球が顔をのぞかせる。

 その黒い球から突如として放たれる魔力の閃光。

 その閃光は一着線にクロウへと向かうと、クロウの胸の辺りを直撃した。


 そしてその直後、今度はクロウの体から、黒き魔力が噴き出るように溢れ出る。

 そしてその魔力が先程の閃光の軌跡を辿るように黒い球へと流れ始めた。


「う…な、なにこれ…魔力が…なくなる…?」


 唐突に、黒い球とパスが繋がったように、クロウの体から次々と黒い魔力が球へと流れ出てしまう。

 自らの意思では操作できず、扱える魔力が尽きていく。


 ついには膝をつくクロウ。

 それを見て惚けていた兵達がここぞとばかりにクロウへとにじり寄る。


 あまりにも咄嗟の出来事に、他の全員が反応できない。

 


 唐突な絶体絶命の時。敵兵も油断なくクロウの命を奪うため動く。


 その時。

 集落の反対から響き渡る轟音。

 徐々にその音はクロウたちへ向かって大きくなってくる。


「間に合った?!」


 まず初めに森から飛び出してきたのはアドラ。続いてテトラも顔を見せる。

 森の木を薙ぎ倒しながら家からクロウの元へ一直線に。猛スピードで駆けてきた。


「これは…!この…!貴様らよくも我らが主人に剣を向けたな…!」


アドラとテトラは、膝をつくクロウを見て、怒りの表情に顔を赤らめる。


 そして他の面々の無事を確認しようと周囲に目を配ると、黒い箱と黒い球で目が止まる。


「あ…れは…!まさか…黒の棺…」


 アドラは信じられないものを見たような顔をして、その黒く光る球から目が離せない。


 黒の棺。アドラは確かにそういった。


「ほう!そなた!この球の正体を知っていると見える!興味深い!」


後方から事態を負担していたアレクシアが、アドラの反応を見て声をかける。

それをみてアドラはアレクシアへ目を移すと

冷めた目で見据えて威圧するように魔力を纏う。


「あらあら、我らが主人に剣を向けた首謀者が、わざわざ我らの前に現れるなど、死ににきたのかしら?それにそれがなんであれ、あなたにはどうせなんの意味もないわよ。」


「ふん!意味があるかないかなど我が決めることよ!この黒き球の力を持って我がこの世を支配する!それに変わりはない!」


「は?支配?黒の棺を使って?何を言っているの…?」


アドラはアレクシアの言葉に、テトラと顔を見合わせる。

そしてアァと得心のいった表情に変わると意地悪な顔をして、アレクシアに向かって黒い棺の真実を語り始めたのだった。


「あなた。何か勘違いしているようだけど、黒の棺にそんな力はないわよ。その黒い棺は魔力を、生命力を、吸収するだけのもの。それも黒き魔力にのみ反応するのよ。それを目的に作られたのだから当たり前だけど。起動にはたくさんの魔力が必要だから普通の魔力も、ないとダメだけれどね。」


「は…?、何を言っておる…?この黒き箱は我らが聖皇国が代々受け継ぐ至宝であるぞ。そんな効果なだけではあるまい!」


 アレクシアは、アドラの説明を聞いても信じられない。

 自分が何年もの歳月をかけ、研究して、心血を注いできたのだ。それが魔力を吸収するだけ?それも今日初めて見た黒い魔力のみが対象だといわれても受け入れることができない。


「まぁ信じなくても私には関係ないわ。本当にそれだけのものなのだから。」


黒の棺


 かつて狂気に呑まれた黒き王を救うために生み出されし古の魔道具。

 一定の成果を収めながらも、失敗に終わった過去の産物。

 アレクシアが心血を注いだその欠陥品は、黒き魔力に反応して魔力を吸収し続けるという効果以外はない。

 ためた魔力を利用することもできなければ、浄化する術もない。

 ただ、吸収するだけ。


 そんなものでどうやって力を得るのだとアドラもテトラもアレクシアを嘲笑の目で見て笑う。

 無駄な努力ご苦労様と。


「さて。時間の無駄ね。諦めて帰るなら皆殺しは勘弁してあげるけど。とりあえず死になさいな。」


その竜族の末裔は前を見て冷たい顔で死を告げる。


アレクシアは動かない。黒い球を見て、呆然とした顔で。

 

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