第19話 狩と野営と野党
朝食の後、クロウはアッシュらの家は来ていた。
アルフォンス撃退後、アドラが作った更地にアッシュらとネルが家を建てた形だ。
質素ながら3人が住めるだけの広さにキッチンにトイレと充分な設備を完備している。
「アッシューーー!おかえり!白パンおいしかったーーー!」
クロウは扉を開けて大声で呼ぶ。
「おぉ!クロウ!帰ってきたぞー!」
アッシュはクロウを出迎えながらにこやかに手を振る。
「アッシュ!また狩にいくのー?僕行くよ!いつ行く?今から?」
「おいおい!早いな!やる気はいいが準備からだぜ。今回は野営を含めて泊まりでいくぜ!許可はとってあるから明日出よう」
アッシュはクロウの無邪気さに笑う。
既に昼の狩ではクロウ1人でも充分に可能であるまでに成長しているが、野営はまだ未経験。今回はその野営の技術を教えるためであった。
その夜、野営をすると聞いたアドラとテトラは荒れていた。
荒れていたというよりもクロウが心配でマーサに喰いかかっているようであった。
「マーサ。クロウにまだ野営はまだ早いと思います。そもそも必要ですか?」
「私もアドラの意見に賛成ですね。もう少し時期をずらしてもいいんじゃないですか?」
アドラもテトラも嫌に反対するその様子にマーサは訝しむもまぁまぁと宥めすかして嗜める。
「アドラもテトラも、どうしたんですか。最近はそこまで反対することもなかったのに。それに今のクロウなら野営を学ぶに実力が足りないわけじゃないでしょうに。」
なかなか引き下がらないアドラとテトラに嘆息しつつも、クロウのためだと言う。
事実、クロウの実力は魔法や剣術、狩の技術はすでに並の冒険者のそれを超えている。むしろ野営に出るのが遅いくらいの実力があった。
「それにアドラもテトラも、実はクロウと離れていても何かあればここからでも助けに行けるでしょう?」
その一言が決定打だった。アドラとテトラは目を泳がせる。
過保護なほどの2人が狩にでるクロウに今まで何も言わなかった。
知られたくなかったのかそう言われて2人は何も言えなくなってしまう。
そして夜はふけて、当日。
「みんなー!いってきまーす!」
朝日を受けて笑顔で挨拶し、ダスティダストの面々について森へと入っていくクロウであった。
森を歩きながら動物の痕跡、魔物の気配を注意深く探しながらクロウは歩く。
ほろほろ鳥や、つのうさぎ、その他にも森でとれる獲物は多い。
獲物が取れれば食卓が豊かになる。狩りに出る時はみんなに喜んでもらいたい一心で嬉々として歩を進めていく。
歩くこと数刻。
前方から何者かの気配をコニーが感じ取る。
「何かいる。複数。二足歩行か……?」
それを聞きすぐさま警戒し、臨戦体制を取る3人。
確かに何かいる。小さい二足歩行の何かがクロウらにゆっくりと近づいてきている気配を感じとる。
初めに動いたのはアッシュだった。
ナイフを抜きレオニールに目配せすると、目標に向かって駆け出した。
それに気がつく様子もなく、目標の先頭にいた何かは簡単にアッシュのナイフ間合に入る。
目の前に来て初めてアッシュに気がついたらしい何かは慌てたように後ろを振り向くが、何かに躓いたかの様に転んでしまう。
「がはっ!や、やめ…」
頭を庇うように腹ばいに丸くなり悲鳴を上げた何かにアッシュはナイフを突きつける。
「動くなよ。」
その何かは小さな子供。耳は尖っており肌は浅黒く、白い髪をした人であった。
「…え、エルフ?え?」
その様子を見ていたクロウはアッシュに駆け寄り驚いた顔をしていた。
「おい!仲間の命が惜しかったら全員出てこい。出てこねーならお前ら全員こっから射殺すぞ。」
レオニールはそういうと、弓を構え四方を警戒しながら魔力を矢に纏わせる。
「わ、わかった!今出て行くから!やめて!メルを殺さないで!」
四方から出てくる子供が6人。
種族はまちまちだがまだ10歳にも満たなさそうな子供たちがそれぞれに小さな鎌やナタを持ってクロウらの前に出てくる。
「武器を捨ててとりあえず手を挙げな。まだ子供とは言え盗賊の真似事か?危害を加える様子があったら容赦しねぇ」
冷たくそういうコニーに油断の色はない。
よく見ればまだ子供、それにろくに食べられていないのか体はガリガリで小汚い。
そんな様子にダスティダストとクロウは目配せをして武器を回収すると、メルと呼ばれた子供を立たせる。
「まぁ、まだ襲われたわけじゃねぇ、何があったかしらねーがこんなこともうするんじゃねーぞ」
何かしら事情があるんだろうが、野党は野党。油断をすれば危ないのは自分らだと冒険者であるダスティダストはよく知っていた。
それにこんな森の奥、明らかに訳ありの子供が集団でいる。
この異様な雰囲気にクロウは何かまた嫌な予感を覚えてしまう。
それは7年前にも感じた予感。
何か良くないことがまたこの森で、クロウの身近で起こっていると。そんな予感を感じさせる出会いであった。
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