少年クロウの王の資質
第18話 時は経ち成長する少年
交差する剣と剣。上段からの切り下ろしに合わせるように切り結び鍔迫り合いから弾き返して距離を取る。
次は右から左、下から上、幾度となく切り掛かるがその全てを防がれなかなか一撃が決まらない。
しかし受け手も攻撃に移れないほどの連撃に、隙を探すも見つからない。
ネルとクロウは今や日常となった立ち会いに息を切らせながらも集中してお互いを見やる。
攻め手はクロウ。12歳となり一層大人びた顔つきに変わり、体も大きくなった。
右手に直剣を握るその姿に違和感を感じさせない。
「クロウ!本当に強くなったじゃないか。こりゃそろそろ教えることがなくなったかな?」
ネルはそう言いながらもまだ余裕の笑み。
「もう!ネルはすぐ僕を甘やかす!まだまだなんだから真剣にやってよね!」
「わかってるわかってる。ほらさっさとこないと日が暮れちまうぞー!」
ネルは軽口を叩きながらも内心は精一杯であった。
実際のところ真剣にやっている。手を抜いているつもりもない。しかし受けるだけで精一杯なのである。
隙なく繰り出される剣戟になかなか攻勢にうつれないでいる。
さてどうするか。
ネルは思う。今でも忘れられない、あのアルフォンスの襲撃。
クロウの幼い心に影がさしてしまったあの出来事の後に、クロウはネルやマーサ、アドラたちに自分を強くして欲しいと言ってきた。
初めはマーサが猛反対した。
まだ早い、戦うことを身につけるのは悪くはない。けれどもう少し成長してからでいいと。
それでもクロウは折れなかった。自分のせいでみんなを苦しめたくないと、あんなに怖い思いはしたくないと。その必死の気持ちには誰も何も言えなくなった。
それからだ、マーサやテトラ、アドラからは魔力の扱いを学び、ネルやダスティダストの面々からは剣の扱い、狩の仕方を教わり始めた。
初めはすぐ飽きるだろうと思っていたが、あれから7年。毎日欠かさず鍛錬に励む姿に皆が感心しつつも、それほどまでにあの出来事かクロウの、心にトラウマとして残っているのかと心配になっていた。
「さぁ!クロウ、ネル。朝食ができましたよ。一度家に入ってくださいな。」
そう思いを馳せていたネルはふと我に帰り、助かった、このままだと負けるところだったと剣を下ろして、家へ入るぞとクロウは促した。
「えーー!もう!まだ物足りないのに!」
不満げに剣を下ろして頬を膨らませるクロウにマーサは一瞥するとニコリと微笑む。
「あらあら、物足りないなんて。仕方ないですね。でもクロウ少し身体強化がおろそかですよ?もっと圧縮して薄く薄くしなさい。昨日は寝ている間に何度も解けかけていたのです。剣ばかりじゃなく魔力操作もしなきゃいけません。」
その笑顔の中の有無を言わさぬ迫力にクロウはたじろぎ、えへへと苦笑いを浮かべるのであった。
「遅いわよネル。私はお腹が減ったわ」
家の中へ入るとすでにアドラとテトラは先についていた。
机の上にはサラダや白いパンなど朝食らしい食事が置かれている。
「わぁ!白パンだ!てことはアッシュ達帰ってきたの?」
「ええ、先程帰ってきて帝都で仕入れた食材をたくさん置いて行ってくれましたよ。こないだ貴方が狩ったほろほろ鳥が高く売れたと言っていましたね」
アッシュらは定期的に帝都に赴きクロウらの為に生活に必要なものを仕入れてきてくれている。それによって7年前に比べて生活水準が随分と上がったとマーサは言っていた。
「そう言えばクロウ。貴方最近魔力操作がおろそかになっていませんか?」
白パンを頬張りながらアドラは横目でクロウを見る。
「さっき、マーサに同じこと言われたよー。そんなにおろそかにしてるつもりはないんだけどなぁ。寝てる時って難しいよやっぱり。」
常に魔力を放出して、寝ている時も身体強化をすること。それがアドラやテトラ、マーサから最近出されている課題だった。
常に魔力が増え続けていくクロウには、それくらいしなければ、その膨大な魔力に飲まれてしまうのではと皆が話し合った故の課題。
しかしクロウには秘密にしているが、寝ている時にも無意識でなど、たとえどんなに扱いが上手い魔法使いであっても出来ない芸当である。
それを、完全にでは無いとはいえ習得しつつあるクロウに密かな皆は驚愕しているのであった。
「そうそう、さっきアッシュが帰ってきた時に、クロウをまた狩に連れて行きたいと言っていましたよ。後で会いに行ってきたらどうですか?」
「そうなんだ!わかった!後で行ってみるね。ありがとうテンちゃん!」
テンちゃんと呼ばれたテトラは微笑みで返すと再び食事に戻る。
テンちゃんとドーちゃん。あの後、アドラとテトラから本当の名前を教えてもらってもクロウは呼び方を変えなかった。
当の本人達も、そう呼ばれる方に喜んでいる。
アドラとテトラは何者なのか。未だわからぬことが多い中、そんなことは関係ないとクロウは思い気にした様子もなく7年を過ごしているのであった。
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