第13話 顕現
吹き荒れる魔力の中、クロウはとめどなく巡る思考から抜け出せずにいる。
なんでこんなことに。怖い。助けて欲しい。誰か助けて。と。
もはや自らを魔力を制御することもできない。マーサに教えてもらった魔力の操作も意味をなさず、ただただ魔力を垂れ流す。
そんな垂れ流される魔力は自ら意志を持つように、クロウを包み込む。
「あり…えない……」
アルフォンスはその光景見て目を疑う。
魔力が、自ら意志を持つように圧縮されていく、吹き荒れるだけであった嵐のような魔力が、その濃密さを失わず、徐々に二つの黒い塊になっていく。
「助けて…テンちゃん…ドーちゃん…。」
クロウはその魔力の塊に何故か心地よい安心感を感じてそう呟いた。
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「許せない…。私たちのクロウに。我らが主人にこの所業。無礼な振る舞い。必ず殺す。何があってもこの獣風情が。必ず殺してやるぞ。」
「えぇ。必ず。この者どもに天罰を。ありとあらゆる苦痛ののちに無力を恥じるまもなく誅してやろう。天の御使たるこの私自身で!」
クロウに迫る悪意に、マーサが崩れ落ちるその時。天使とドラゴンはその光景を見て怒りにを露わにする。
魂のみの己の存在を厭わずに、クロウに寄り添い歯噛みする。
その時、突如として吹き荒れる黒の魔力。
歓喜した。我らが主人の覚醒に。自らに流れ込むその星を飲み込むほどの魔力の量に。
あぁ時は来たと。我らが主人を守るのだと、2人は凶悪な笑みを浮かべ時を待つ。
その祝福を一心に受けながら、今か今かと歓喜する。
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突如として止む嵐。そこに残るのは二つの黒い魔力の塊。それは不定形に形を変え胎動する。
雛鳥が殻を破るように、少しずつ、その黒い塊が崩れ落ちる。
そこには天使とドラゴンが佇んでいた。
1人は純白の羽を持っていた。天罰の代行者足るにふさわしい偉容。まさに天使と呼ぶに、ふさわしかった。
美しい金髪に、眼鏡をかけて、その翼を広げクロウを優しく抱き止める。
もう1人。それは女であった。真っ赤な長い髪に青い瞳、その腰には爬虫類を思わせる尻尾。
ドラゴンを思わせるその尻尾を地面に打ち付け笑うその姿は、狂気の中にあって目が離せないほどの美しさであった。
「バ…バカな…召喚だとっ……ありえない!!ありえないありえないありえない!許されない!そんなものは!!いくら魔法が奇跡だとはいえ!何者かを召喚する《ルビを入力…》など!!あり得ていいはずがない!!」
アルフォンスは目の前の現実が信じられずそう吐き捨てる。
そう、本来魔法で召喚など不可能なはずなのだ。無から有を生み出す奇跡といえども限度はある。
火を起こし風を吹かせることができたとしてもそれは魔力をエネルギーに事象を起こすだけ。
何かを依代にして形を変え放つ事ができたとしても矢のように飛ばす事が精一杯。
魔力の大小によって規模が違うのみ。
それを存在を作り出しこの世に留め、意志を持たせるなどどう考えても不可能である。
では今起きているこれはなんなのか。
アルフォンスには到底理解の及ばぬ事が目の前で起きていた。
「テンちゃん…ドーちゃん…?たすけにきてくれたの…?あのね…皆が危ないの…お願い…助けて…」
クロウは朦朧とする意識の中、天使にだかれながらも家族を、仲間を慮る。
そしてそういうと安心したように意識を手放した。
目を閉じたクロウを、天使は丁重に床に寝かせる。自らのマントを体にかけ一度頭を撫でる。そうしてクロウの前で片足を地面につけ傘下の礼をとる。
「「御下命を賜りました。我が主人。身命を賭して必ずや。」」
2人の揃った声には歓喜が溢れていた。
なんと言う幸福。顕現させていただいただけでなく。すぐにご命令をいただけた。我らを頼ってくださった。あぁなんと言う良き日だろうか。
2人の目は狂信的なまでの輝きを灯し、歓喜に身を震わせていた。
「さて、それではゴミ掃除を始めましょうか。」
天使とドラゴンは立ち上がり、アルフォンスをみてそう言った。
「ではまずは私から。」
そういうとドラゴンは一歩前に出る。
「私、古代より栄光ある竜族が末裔。黒の王が誇る守護者の一員。アドラ・エル・ヴァイツと申します。あ、覚えなくて結構です。あなたはここでチリも残らず消えるのですから。」
そうアドラは名乗る。
「では次は私ですね。どうも初めまして人間。私は天罰の代行者。地上の裁定者。黒の王が誇る守護者の一員。テトラ・アーロンと申します。私の名前は覚えていきなさい。死出の手向になりましょう。私は慈悲深い。安心して死になさい。」
そうして顕現した。
古の怪物が2人。王の敵は殲滅すべしと。狂信的なまでの忠誠を王に捧げた化け物たちがクロウの元へと。
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