第8話 急襲
各々が冒険話に花を咲かせ、クロウが目を輝かせて話を聞き、時に質問をしたりする。そんなひと時が過ぎ、眠りについて完全に日が登ったころ。
まず、異変に気がついたのはマーサだった。
己が張った結界に敵意の反応。
今はまだ破られてはいないようだが魔力の壁をこじ開けようとする圧力を感じとる。
「皆さん!敵ですよ!起きなさい!!」
その言葉にネルが目を開け、剣を履く。まさによく訓練された兵士のように、流れるような警戒体制。
それに続きダスティダストの面々も起き上がる。
誰1人として話さないのは瞬時に状況を把握しようとする経験則のなせる技であった。
鳥の鳴き声ひとつない静寂が辺りを包む。
虫の動きすら感知できると思わせるような集中に、緊迫とした空気が流れる。
「まーさ?どうしたの…?まだ眠いよ僕。」
クロウはうつらうつらと目をこすりながら起き上がりマーサに問いかける。
まだ寝ぼけているのかその場で座り込み欠伸をしていた。
そんな姿を見て、少し弛緩した空気が流れた瞬間。
ドンッ
巨大な鉄の塊同士がぶつかるような轟音が一度。
ドンッドンッ
その後にも続けて、何度も何度もぶつかるような音が鳴り響く。
そしてその音が鳴り止んだかと思うと。マーサが叫んだ。
「結界が破られました!!皆さん!敵が来ますよ!!」
籠城は不可能。敵はおそらくこちらの場所を把握しているとネルは判断し、外に躍り出る。
アッシュらもネルに一歩遅れて駆け出した。
クロウは何がなんやらと言った面持ちでマーサの顔を見る。
「大丈夫。ネルは強いですからね。敵なんてあっという間に倒してくれますよ。安心しなさい。何があっても私がついています。
」
そういうとクロウへの結界をやり一層強化しながら安心させるように抱きしめる。
正体不明の敵に目的も不明。ダスティダストを追ってきたとは言えクロウが狙われていない保証もない。
どんなことをしても守らねばと強く強く抱きしめる。あってはならないと。こんなに不幸な生まれの哀れな子にこれ以上の不幸が訪れないように。幸せにしなくてはならないと決意を胸に秘め、皆は戦いの舞台で舞い踊る。
外に出たネルはその異様に目を細める。眼前には本来群れを作らないはずの魔狼が数十体。
普通の魔狼であれば何匹いようがネルの敵ではないのだが、見ればそのどれもがありえないほどの魔力を内包している。
普通の狼よりも一回り大きい。そして何より毛が黒く、瞳は赤に染まり、牙は小さな子供なら貫通してしまいそうなほど発達していた。そんな魔狼が群れをなしている。
そもそもが群れで行動していることが異常なのだ。通常魔狼はその大きすぎる力ゆえ何者の元へも下らない。
それがなんの冗談か、明らかにこの魔狼は群れを成している。その目は知性を思わせ、何者かの指揮下にあるように見える。
それはこの魔狼よりも強大な存在がいることを示唆していた。そしてそのものが統率し、知性を持って襲ってきている。
ネルは考える。おそらく1人で戦えば半分を受け持つのが精一杯。ダスティダストの連中では数匹が限界だろう。と。
「おい!坊主ども!最初から全力だ!出し惜しみすんじゃねえぞ!」
「おうよ!任せろネルの旦那!レオニール!支援魔法だ!コニー!身体強化して全力でいけ!」
アッシュがそう叫ぶと同時、先手必勝とばかりにネルが駆け出す。
瞬時に膨大な魔力を圧縮し身に纏い。身体強化による身体への負担など感じさせない動きで、まさに獣の如き速さで魔狼へと接敵する。
そして一薙ぎ、正面の1番近くにいた魔狼の首を切り落とす。
まさに神業。その光景にアッシュらは目を剥くとネルに続くように行動を開始する。
アッシュは剣を持ち下手に構えて走る。それに反応するように魔狼が2匹アッシュに向かって疾走し爪を振り上げる。
その爪を剣で受け、もう1匹を蹴り飛ばす。ネルのような身体強化はできずとも足に少し魔力を込めて放たれる蹴りに魔狼は吹き飛ばされる。
命を断つには至らぬもそう捌きながら前衛としての役割を果たしていた。
その横でレオニールから支援を受けたコニーはアッシュへ向かおうとする魔狼に対してナイフによる牽制を行っている。アッシュのように矢面に立ちながら立ち回ることができなくとも、あの手この手で怯ませ撹乱していく。
そしてアッシュが受け止めている魔狼にレオニールの風の魔法がかけられた矢が何本も突き刺さっていく。
未だ3人で1匹の魔狼を討伐できていないとは言え、なんの損害もなく立ち回るその連携にネルは横目でニヤリと笑う。
「いい連携じゃぁねぇか!坊主ども!そのまま何匹が抑えてろ!俺がなんとしてやる!」
そう叫びながらネルは魔狼の群れの真ん中に躍り出て、袈裟斬りに1匹心臓を一突きで2匹と確実に数を減らしていくのであった。
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