第4話 冒険者クラン ダスティダスト

「ちくしょう!どうなってやがる!なんだあの魔狼!普通じゃねぇ!アッシュ!何がどうなってやがる!?」


 森の中で何かから逃げる様に走る男たちが3人。


 木々を縫いながら全速力で駆け、岩を飛び越えながら白髪の青年は叫ぶ。


 全員が至る所に裂かれた様な傷痕をつくっている。


 「コニー!大声を出すんじゃない!体力の無駄だ!あいつも手傷を負わせたとは言えまだ生きてやがる!今のうちに距離を取るぞ!!」

 アッシュと呼ばれた男も何がなんやらわからないと言った様子で先頭を走っていた。


 調査のみの任務だったはずだった。最近帝国で起きている子供の誘拐事件。

 その子供たちが聖皇国のとある施設に連れて行かれたと言う情報をもとに調査をとある筋から依頼されたのだ。

 本来は接敵する予定もなく、周辺地理の把握と情報収集のみの依頼だった。


「情報が漏れてたとしか思えねぇ!くそ!アッシュ、コニー!とりあえず森の奥だ!時期に日が暮れる!」

 そう言ったのは斥候を務めることが多いレオニールだ。白い髪の短髪。アッシュとコニーに比べて軽装で弓とナイフを据えている。


 何時間経ったろうか

 日は完全に落ちて、3人は息を潜め森の中をゆっくりと移動していた。

襲ってきたのは魔狼。

 魔力や凶暴性は通常のそれとは比較にならない程強大ではあったが魔狼と同じ習性を持つ過程するなら匂いで追われると思うべきだろう。

 「レオニール、どうだ?森からの抜け道はわかりそうか?」

期待してはいない。冷静になれとアッシュは問う。

「アッシュ。抜け道じゃぁねぇが、人が通った様な痕跡をみつけた。」

 レオニールは地面のわずかな凹みから男性の足跡らしきものを見つけたのだ。


「こりゃ1人だな。こんな山奥に1人。どうする?追うことは可能だ。」


「他に行くあてもない。今はその人間が俺らにとっての蜘蛛の糸だと信じていこう。」


その一言で3人は痕跡を追う。半日前につけられたネルの足跡を。

これが彼らの人生を変える出会いになろうとは思うよしもなかったのである。


——————


その頃ネルは自宅に戻ってきていた。急いで戻ったものの日は暮れかけていた。


「クロウ、マーサ戻ったぞ。」


「ネル!僕心配したんだよ!!3日も家を空けるなんて!どうしたの?獲物は取れた?」


ネルの声に真っ先にクロウが外に出てネルを出迎える。本当に心配していたのだろう。とても不安そうな顔をしてネルを見上げる。


「クロウ!心配かけたな。獲物は取れなかったんだ。すまねぇなぁ。」


そう言うネルは申し訳なさそうな顔をしつつも嬉しそうな雰囲気だ。


「ネル。どうしたのです?あなたが獲物を取れないなんて、何かあったんですか?」


マーサはネルの狩の腕を知っている。そのネルが何も取れないなんて何かあったのではと目は険しかった。


「あぁ。それがな。動物も魔物もまるでいない。痕跡すら残ってねぇんだ。こんなのはありえねぇ。何かおかしなことが起こってる気がする。」

ネルは真剣な顔になるとマーサの目を見てそう言った。

続きはクロウが寝てからだ、と家に入る。


よほど心配していたのだろうクロウは、安心したのかすぐに寝てしまう。その寝ている傍ら、マーサとネルは森での異変について話し合っていた。


「帰りの途中、人と魔物が争った様な痕跡を見つけた。どう考えたっておかしい。ネズミ1匹見つからなかったんだ。それなのに半日の間にその痕跡だ。明らかに何かがこの森で鬼ごっこしてやがる。」


「聞く話だとそれしかありませんね。動物も魔物もいないとなるとその鬼がよほど強い魔力を持った魔物かもしれないねぇ。」


「ああ、そうだろうな。そいつから逃げて動物たちはどこかに身を潜めてるんだろうよ。」


そう情報をもとに2人は状況を整理していく。


「これが俺らにちょっかいかけにきた奴らじゃないともかぎらねぇ。クロウだけは命に変えても守ってやりてぇ。」


「命に変えてもなんて言うもんじゃありません!ネルが死んだらクロウがどう思いますか!!」


マーサはネルへ怒った様にそう言った。

 クロウはきっと悲しんでしまう。今クロウには私たちしか家族はいないんだとそうネルに言う。


「確かにそうだ、すまねぇ。しかし警戒は厳にしたほうがいいな。マーサ。聖女様のお手並み拝見と行こうかな?」

そう言うとマーサをみてニヤリと笑った。


マーサは老いたとはいえ元聖女。

結界を張るのはお手のものだった。結界は魔物や敵意を抱いたものを除外する魔法。魔力にそう指向性を持たせて周囲に纏わせるのだ。


「やれやれ、仕方ありません。ネルもしっかりクロウを守ってやるんですよ?期待していますよ団長殿?」


2人は互いににやりと笑うとそれぞれ準備にとりかかる。


そして夜はふけていく。冒険者との、邂逅まであと数時間。


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