第3話 森の異変

アルテシア大陸。

 周りを海で囲まれ、その中央にはアクロネシア王国、北には広大な森林を挟んでをトールドリア帝国が霊峰を背に存在している。

 東には海にも見間違えるほどの湖の辺りに聖皇国パトラギア、南から西にかけて小国家郡が鎬を削っていた。


 その大森林、トールドリア寄りの森の中にクロウたち家族の住む家はある。


 森には動物や魔物、エルフやドワーフなど様々な生き物が外界との接触を断つかの如く暮らしていた。


 そんな森で最近、異変が起きていた。


「いったいこりゃぁどう言うことだ。なんで動物の痕跡すら見つけられない?」

ネルはここ2日間もの間、動物を獲るどころか、魔物にすら襲われていなかった。


 本来、魔物とは動物が生まれながらにして魔力をもち変異したものである。

 普段の習性は元となった動物に似通い、他者に対する攻撃性さえ除けばそう変わるところはない。


 特殊な手順で、捌けば食べることも可能なのだ。

 そんな理由から魔物でも動物でも獲物はどちらでも良かった。

 人を見かければ逃げずに攻撃してくる習性を考えれば、臆病な動物なんかよりも魔物の方がネルには見つけやすく狩りやすい獲物であった。


「全く足跡もなければ臭いもない。糞もないな。この世界から生き物がいなくなっちまったみたいだ。」

 あまりにも不自然な森の様子にネルはひとりごちる。


その静けさは森をよく知るネルにも不気味な雰囲気を、感じさせていた。


「こりゃあ一度戻ってマーサと相談しないとだな。」

 まだ1匹も獲物をとれていないが、仕方ないと家への道へ引き返す。


 その道中、自分のつけた目印を辿りながら獲物がとれなかったと聞いたらクロウな悲しむかな。などと考えながら歩いていると、何者かが争った様な痕跡を発見した。


 「こりゃぁ魔物と人間か?人間は大勢だな。まだ家までは1日半の距離。ほとんど時間は経ってなさそうだ。」


 その痕跡はまだ家からは距離があるとはいえネルが通った半日前までは無かったものだ。

 近くにまだいるかもしれない。そう思いネルは警戒を強める。


「魔物と動物なりゃいい、人でも冒険者がたまたまここを通った可能性もある。まだオレらにちょっかいかけに来た馬鹿どもと決まったわけじゃない。」


 冒険者がこの森に狩にくることはそう多くはないとはいえ無いことでもなかった。

 クロウらが住む周辺は強い魔物が多く、一攫千金を求める者や名声欲しさにやってくる者も少数だがいる。


「今の森の様子と関係なきゃいいんだがな。クロウとマーサが心配だな。早く帰らねぇと

な。」


マーサがいれば万が一にも何も無いとは思いつつもネルは帰路を急いだ。




一方その頃クロウは、マーサに魔法の訓練を受けていた。


クロウは目をつぶり、体内にある魔力を体に纏う。


「クロウ。もっと魔力の流れをよく感じるんです。少しずつ、少しずつ魔力を込めなさい。そうすれば魔力のコントロールも込められる魔力の量も増えます。」


 本来魔力は火に変換したり、水に変換したり、何かに変換して、使用する方が簡単である。

 魔力を魔力のままとして使うことは、何より難しい。

 その分消費できる魔力も多いことから、マーサはクロウに、魔力のままでの扱い方を教えていた。


「クロウ。魔力が乱れていますよ。集中なさい。この魔力の扱いさえ極めれば、どんな変換も思いのままなのです。旅に出たいなら必ず会得しなくてはなりませんよ?」

そういうとマーサはお手本を見せる様にクロウと同じ様に目をつぶり魔力を纏う。


何時間そうしていただろう。クロウがふと目を開ける。

「マーサ?ネルはいつ頃戻るんだろう。もう2日も帰ってきてないよ?」

そう不安げな顔でマーサに話しかけた。


「クロウはネルが心配なのですね。んー。どうでしょうね。うまく獲物がとれなくともあと1日2日で帰ってきますよ。」


 ネルを心配しているが為に魔力が乱れてしまうクロウに、安心させる様に笑顔でそう話す。

 マーサが見たところクロウは心配で魔力のコントロールが不安定になっている。

 そんな優しいクロウの一面を微笑ましく思いながらも、こんなに心配をかけているネルに少し苛立ちを感じていた。


「これは帰ってきたらお説教ですね。」

マーサがそう呟くとクロウは困った顔をしてまた目をつぶる。


「なんだかね?不安なのもあるんだけど、嫌な予感がするの。何か怖いことが起こりそうなそんな予感が。」

クロウのその言葉にマーサは答えず安心させる様に抱きしめるのであった。

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