さよならマキさん3/4

 付き合い出して2ヶ月。


 僕たちの交際は順調そのものだった。


 学校に行って。バイトに行って。マキさんと休みを合わせて時々デートをする。


 そんな幸せで穏やかな毎日だったのだが……ほとんど休まず毎日バイトに入っていたため、学校の成績は壊滅的だった。

 

 マキさんは「勉強もおろそかにしてはいけない」と休みの日に僕の勉強を見てくれた。

 

 マキさんは将来、中学校の英語教師になるという夢を持っており


 「君が生徒第1号だな」と最初は張り切っていたが。


 しばらくすると「…………出来の悪い生徒だ」と僕の残念学力に、唖然としていた。


 …………


 付き合いだして3ヶ月たったある日「海に行きたい」とマキさんからデートのリクエストがあった。


 免許は持っていても、車を持っていない僕は、母親から軽自動車を借りてドライブデートする事になった。


 海で泳ぐには早すぎて、海辺を散歩するだけだったが、海辺ではしゃぐマキさんがとても綺麗で「このまま時間が止まればいいのに」と本気で思っていた。


 夜の海を二人で眺めながら、僕たちはずっと先の話をした。


「10年後も20年後もこうして海が見たいね」とマキさんが言った。


 僕はそれが嬉しくて、嬉しくて「……そうですね」と少し涙声になってしまった。


 「なんで、泣いてるのさ~」突然泣き出した僕を心配して、マキさんがギュッと抱きしめてくれた。


 マキさんの気持ちが嬉しくて、さらに涙が溢れ出した。


 この人を好きになって本当に良かった。


 心からそう思った。


 …………


 僕達はその夜……結ばれた。


 …………


 次の朝「ちょっと照れますね」というと「私も恥ずかしいんだから、その事に触れないで」と耳まで真っ赤にしたマキさんが可愛くて、今度は僕がマキさんをギュッと抱きしめた。


 「キミって奴は……時々男らしいな」と言うので「男子校出身ですから」といつかの台詞のやり取りをした。


 …………


 海から帰り、またいつもの穏やかな日々が始まった。


 …………


 夏が近づき休み前になると、専門学校では試験がある。


 試験結果が悪ければ、当然夏休みに補修があるわけで……。


 「今年の夏は、マキさんと遊びまくるぞ」と心に誓い。バイトも1週間休み。僕は試験勉強を頑張る事にした。


 バイトを休んで三日目。その日は朝から大雨で、大粒の雨が部屋の窓をずっと叩いていた。


 その日はマキさんがバイトの日で、きっと帰りに困るだろうな~と考えた僕は、母親から車を借りて、マキさんには秘密で迎えに行く事にした。


 車を走らせながら、マキさんの驚いた顔、喜んだ顔を思い浮かべると、自然と頬が緩んでしまう。


 マキさんの仕事終わりより少し早く着いた僕は、マキさんにバレないよう離れに車を停めて、遠くからバイト先を見ていた。


 マキさんの仕事終わりの時間になる頃。一台の車が店の前に停まり。ハザードランプが点滅した。


 その車には見覚えがあった。


 T君との話で出て来た店長の車だった。


 暫くするとマキさんが店から出て来た。車から軽く手を振った店長と何か話したあと。マキさんは……店長の車に乗り込んだ。


 大雨の中。自転車で帰るマキさんを心配して、店長が迎えに来たのかもと思ったが、T君が言った「噂だけど、マキさん店長と付き合っているらしいよ」あの言葉が脳裏を過る。


 いけない事と思いながらも、僕は店長の車を尾行する事にした。


 店長の車は、マキさんの家とは全然関係のない逆方向の道を走り、繁華街の方に向かっていた。


 時間は夜の22時を過ぎており。この大雨の中「一体何処へ?」と考え。鼓動がドクドクと波打ち。嫌な予感が頭をもたげた。


 店長の車を尾行しだして30分位たった頃。店長の車が何かの建物に入ろうと、ウインカーを点けたのが見えた。


 店長の車が建物の中に入っていくのを見届けてから、店長の車が入っていった建物の前に車を停めた。


 それは……ラブホテルだった。

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