さよならマキさん2/4

 付き合いだしてから、僕達は毎晩電話で話をした。


 今日は僕から、次の日はマキさんからといった感じで、通話料がかかるので毎回10分だけの会話だったが、バイトで会えない日でも、マキさんの声を聞くだけで、とても幸せな気持ちになった。


 …………


 告白してから1週間がたち。ついにマキさんと初めてのデートをする事になった。


 …………


 待ち合わせの1時間前についた僕は、動物園のクマのように、同じ場所をグルグル回りながら、マキさんの事を待っていた。


 「なに回ってるの?」と声を掛けられて、ハッと振り向くとマキさんがニコニコして立っていた。


 「マ……マキさん」あれ?まだ待ち合わせの時間よりだいぶ早いぞと思っていると。


 「私も楽しみで、早く来ちゃったよ」と僕の手を掴んでくれた。


 『何この可愛い女の子……僕の彼女です』と馬鹿な事を考えていたら「ほら、行くよ」と僕の手を引いて、マキさんが走り出した。


 映画を見て。食事をして。マキさんお気に入りの「都堂」というバーに行った。


 カウンターに二人腰かけて、マキさんはビールを僕はジンジャーエールを頼み、その日見た映画の話をした。

 

 話の途中で、マキさんが紙に何か書いて、バーのマスターに渡した。


 マスターは「かしこまりました」とマキさんが書いたメモを受け取り。


 奥にあるプレイヤーをセットすると、暫くして『Sing Like Talking』の『離れずに暖めて』が流れ始めた。


 「実は最近『Sing Like Talking』にハマってね〜」と笑いながらマキさんが教えてくれた。


 「洋楽好きのマキさんが、邦楽聴くの珍しいですね?」と言うと『Sing Like Talking』はね〜洋楽なんだよ」と超展開な解説を初めた。


 ビール3杯目だししょうがないな〜と思っていると「君がシラフだとつまらないぞ~」とマキさんが絡んできたので、僕も仕方なくビール飲むことした。


 都堂を出る頃には、マキさんは完全に酔っ払っており。足取りがフラフラしていた。


 危なっかしいマキさんの手を引いて下通り(熊本の繁華街)を歩いていると「君はね〜告白してくるのが遅いんだよ」とマキさんが言い出した。


 「いえいえ、これでも精一杯頑張りましたよ」と言うと「サインを出しても、ちっとも気付かないんだもんな〜」と繋いだ手をブンブンと振るマキさん。


 「えっサイン……全然気付きませんでしたよ」と言うと「これだよ〜男子校〜」と出身校まで否定された。


 「女の子が、好きでもない男の子に手紙なんて書かないでしょ」と言い、繋いだ手にギュッと力が込められた。


 「……そうですね……すいません」と謝ると「ん、素直でよろしい」とマキさんは嬉しそうに笑った。


 マキさんはご機嫌なのか『離れずに暖めて』を鼻歌で歌いだし。繋いだ手をメロディーに合わせてブンブンと振り。嬉しそうにしていた。


 「良い曲ですよね」と言うと「そうなんだよ〜鈍い君にも分かっちゃったか〜」と告白が遅かった事を、まだ根に持ってるようだった。


 しばらく下通り(熊本の繁華街)を歩いていると、今度は「気持ち悪い」と言い出し、人通りの少ないところでマキさんは盛大にゲロゲロした。


 「大丈夫ですか?」と背中をさすっていると「お水が飲みたい」と言うので、近くの自販機で水を買って「はい、どーぞ」とマキさんに渡した。


 水をグビグビと飲みながら「君はあれだな。優しい奴だな」とマキさんが言った。


 「ありがとうございます」と言うと「その気持ちを忘れないように」と何故か上から目線のマキさん……しかしそんなマキさんも可愛い。


 時間は深夜0時を回っており、その日はタクシーで帰ることになった。


 タクシー乗り場に付き「マキさん今日は凄く楽しかったです。ありがとうございました」とお礼を言うと。


 「チューは」突然マキさんが言ってきた。


 「え?」


 「お別れのチューだよ」とムチュ~と僕を馬鹿にするように口を尖らせるマキさん。


 完全に僕をからかっているのが分かったが……あえてそれに乗る事にした。


 「し……仕方ないですね」と言って、口を尖らせたマキさんにチュッと唇に触れるだけのキスをした。


 本当にキスされると思ってなかったのか、キスした瞬間。マキさんの目がまん丸になって「キミって奴は、時々男らしいな」というので「男子校出身ですから」と返すと「そう……私も楽しかった。またデートしようね」と乙女な返事が返ってきた。


 …………


 こうしてこの日のデートは、無事終わった。

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