第32話:捕虜

アバディーン王国歴100年12月13日、新穀倉地帯、カーツ公子視点


 俺は、言い掛かりをつけて侵攻してきた隣国の王を誘拐した。

 王だけでなく、王位継承権を持つ者全員を誘拐した。

 各国に送り込んでいた使い魔に命じれば簡単な事だった。


 誘拐した各国の国王と王族は、俺が魔術で開拓した穀倉地帯に連れて来た。

 彼らに平民、農民の大変さを思い知らせるためだ。

 とは言っても、実った穀物を収穫するだけの簡単な作業だ。


 種蒔き、麦踏み、雑草取りなどの辛い作業はしなくて良いのだ。

 1年かけて作物を育てる本当に大変な作業ではないのだ。

 

 穀倉地帯に連行したのは王や王族だけではない。

 捕虜にした各国の将兵も穀倉地帯に連行した。


 俺の使い魔たちから、圧倒的な実力の違いを見せつけられて、逆らう気力を無くした屍のような連中だ。


 たった1体の下級使い魔に、大陸最強と言われるインチャイラ王国軍20万が、簡単に負かされてしまったのだから、それもしかたがいと思う。


 彼らも最初から諦めていたわけではない。

 武名の高い騎士や徒士が、次々と下級使い魔に挑んでは負け続けたのだ。


(卑怯なだけでなく、余りにも弱いのだな。

 卑怯者なら卑怯者らしく、集団で挑んでこい!

 指先でも触れられたらほめてやる)


「おのれ、言わしておけば好き勝手言いやがって、その言葉、後悔させてやる!」


 下級使い魔の挑発に乗ったインチャイラ王国軍は、騎士と徒士が連携して挑んできたが、指1本触れる事もできずに叩きのめされた。


 最後には20万兵で包み込んで下級使い魔を圧し殺そうとしたが、全く歯が立たず、1万を超える将兵が地に伏した時点で、憶病な兵士が一斉に逃げ出した。

 

 だが、インチャイラ王国軍の将兵は直ぐに更なる恐怖で動けなくなった。

 たった1体でも勝てなかった下級使い魔が、万を越える数で囲んでいたのだ。

 腰を抜かして小便を漏らしたのもしかたがない事だった。


(我らはカーツ様が創り出してくださった下級使い魔だ。

 特級、上級、中級、下級といる使い魔の中でも最弱の存在だ。

 その最弱の我らの1体に勝てないのに、よく襲ってきた。

 その愚かな勇気だけは評価してやるが、その分だけ罰は受けてもらう。

 分かっているだろうが、戦争の捕虜は身代金を払えなければ奴隷として売られる。

 本国からの身代金支払いがない限り、奴隷として扱う)


「待て、待ってくれ、我らは卑怯無体に侵攻したわけではない。

 この国の王太子妃、カミラ殿の懇願を受けて、王家再興の為にやった事だ」

 

(我らはカーツ様の使い魔で、カーツ様と聖女深雪様が、10年もの苦難な救国の旅を終えたのに、婚約破棄を強要した種豚王太子と尻軽カミラによって、不当な追放刑を受けたのは知っているだろう?)


「それは……」


(インチャイラ王国の老王は、ベッドでカミラにささやかれたから、恥知らずな侵攻をしたのだが、知っているのか?)


「何のことだ?!」


(老王は、自分の種をカミラにつけて、種豚王太子の子だと詐称する事にしたのだ。

 何と恥知らずで下劣な考えだと思わないか?)


「それは……ありえない、絶対にありえない」


(愚かな、いや、卑怯下劣だな。

 自国の王の悪事を認めず、他国に侵攻して、やっと平和な暮らしを手に入れた人々を襲い、金品を奪うだけでなく、犯し殺し獣欲を満たそうとする。

 それで良く誇り高い騎士だ徒士だとほざけたものだ!

 よく分かった、やはり騎士や徒士として遇する価値などない。

 身代金など不要、最初から平民兵、奴隷として扱ってやる)


 こういうやり取りがあって、インチャイラ王国軍50万兵が穀倉地帯に連行され、収穫作業をさせる事になった。


 20万兵ではなく50万兵なのは、最前線で戦っていた部隊だけでなく、アバディーン王国内各地に造られた、補給物資集積地を守っていた20万兵もいるからだ。


 残り10万兵は、インチャイラ王国内の補給物資集積地を守っていた部隊だ。

 下級使い魔たちが攻撃して気絶させた後で連行した。


 小国家群から侵攻してきた4カ国の将兵も、捕虜にして農作業をさせる。

 シルソー王国軍10万兵も同じで、捕虜にして農作業をさせる。

 いや、シルソー王国内にいた後続部隊10万兵も捕虜にして連れて来た。


 シルソー王国群も、インチャイラ王国軍と同じように無謀な戦いを挑んできたが、またも1体の下級使い魔に叩きのめされた。


 名のある将軍、騎士、徒士が一騎打ちを挑んできたが、赤子の手を捻るように楽々と叩きのめし続けた。


 インチャイラ王国の将軍騎士徒士と同じように、次々と心を折られていった。

 挑発して集団で襲うように誘導しなくても、向こうから多数で押し包む戦法を取ってきたが、全く相手にならなかった。


 だが、後の農作業に悪影響を出すような負傷はさせなかった。

 ただ、心を折る事を重点的に叩きのめしてくれた。

 最後は万余の下級使い魔で包囲して、絶対に勝てないと思わせるのも同じだった。


(カーツ様の使い魔の中で最も弱い、我ら下級使い魔に負けるようでは、全く相手にならないくらい理解できるな?

 その弱い下級使い魔ですら、100万もいるのだぞ!

 それでどうやって勝つつもりだ?

 お前たちが、アバディーン・ゴードン王家再興の救国軍ではなく、民を苦しめる侵略者だと思い知れ!

 お前たちの王と王族を捕虜にして、その悪事を全て白状させる。

 カーツ様が受けた損害を賠償しない限り、王も王族も奴隷にされると思え!)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る