第31話:誘因3

アバディーン王国歴100年11月26日、新穀倉地帯、カーツ公子視点


(インチャイラ王国は、50万の軍を3つに分けております。

 10万を領内に残して補給物資を確保しております。

 残る40万兵をアバディーン王国に侵攻させていますが、前線で戦うのは20万兵に限り、残る20万兵はアバディーン王国内に造った拠点を守らせています)


 ずっとインチャイラ王国を監視させていた、特級使い魔が報告してくれる。


(分かった、そのまま監視を続けてくれ)


(承りました)


 インチャイラ王国は本当に慎重だった。

 小国家群の4国が攻め込んだ程度では動かなかった。

 シルソー王国が攻め込んだ時も焦る様子がなかった。


 自国の準備が整うまで、じっと我慢していた。

 アバディーン・ゴードン王家だけでなく、全ての王侯貴族士族を追放した、俺の実力を見極めない限り手を出さない、慎重な国かと思った。


 確かに慎重だったが、全く欲がない訳ではなかった。

 シルソー王国に我が国全てを併吞させられないと思ってもいた。


 それなければ、元凶であるカミラの亡命を受け入れるはずがない。

 ちょうど良い神輿として、チャールズの婚約者だったカミラを手に入れていた。


 使い魔が伝えてくれた、カミラの節操のなさには大笑いしてしまった。

 インチャイラ王国に逃げ込んで直ぐに、老王のベッドの中に潜り込んだ。

 潜り込んだだけでなく、とんでもない謀略をその耳にささやいた。


「陛下、私がチャールズ王太子と情を交わしていた事は広く知られております。

 今ここで陛下の種を頂いて子が宿ったとしても、チャールズ王太子の子供だと言い張る事ができます。

 陛下のお子が、アバディーン王国の国王に成れるのです」


 使い魔が実況してくれる言葉に、その場で噴き出してしまった。

 インチャイラ王国を利用してアバディーン王国を手に入れようと言う。

 自分は幼王の国母となって実権を握る気だ。


 インチャイラ王国の老王は、アバディーン王国への侵攻を決断した。

 カミラに籠絡されたのか、好機と捉えたのか、判断が難しい。

 引き続き特級使い魔に見張らせつつ、新たな使い魔創りを急いだ。

 

 一般的な人間の場合、体重60kgの人で1日37・5mlの血を造る。

 だが俺は、魔術を使っていくらでも食べられるし、食べた分を全て身体に取り入れられるし、その気になれば幾らでも血液を造り出せる。


 俺が無理なく1日に造り出せる新たな血液は3750mlだ。

 1滴の血を与える中級使い魔なら12万5000体創れる。

 最低限の10滴を与える上級使い魔なら1万2500体だ。


 特級使い魔の最低辺、100滴3mlなら1250体創れる。

 このクラスなら最下級の神が相手なら勝てるくらい強い。

 

 人間や精霊だけが相手なら、中級使い魔までで十分勝てる。

 だが、今後この世界の神々を滅ぼす気が有るなら、特級以上で揃えるべきだ。


 だから俺は超特級の使い魔も創る事にした。

 自分の造血量と筆記速度の限界まで頑張って、使い魔を創り出した。


 超特級使い魔は、俺の血を1000滴30ml与える超特別製だ。

 純粋な戦闘力だけなら、この世界の創造神に勝てると思う。


「1日使い魔創作量」

下級使い魔 :12万5000体

中級使い魔 :6万2500体

上級使い魔 :3250体

特級使い魔 :160体

超特級使い魔:16体


 俺の家臣、普通の人間を演じてくれる下級使い魔の数は、もう200万を越えているので、その気になれば何時でも敵を全滅させられる。

 

 だが、俺の目的は、人殺しではなく聖女深雪の心を安らかにする事だ。

 命を奪うのではなく、心を砕いて言い成りにする事だ。


 改心させられるなら、それが1番なのだが、腐り切ったこの世界の人間を芯から改心させるには、とてつもなく長い時間がかかる。


 そんな長時間、聖女深雪をこの世界に縛り付けられない。

 もう既に10年もの長きにわたって苦しみ血の涙を流し続けてきたのだ。

 それに加担していた俺にも重い責任がある。


 それが分かっているからこそ、1日でも早くこの世界をきれいに化粧して、聖女深雪を騙してでも安心してもらう。


 この国、アバディーン王国の王侯貴族士族に地球の生き地獄を味あわせて、少しでも改心するか確かめたが、駄目だった。


 生き地獄にいる間は改心したフリをするが、解放したとたん、悪事に走った。

 よほど慎重な性格で頭も良い者だけが、俺の目を掻い潜るために改心したフリをしていたが、隣国に逃げ込んだとたん本性をむき出しにしていた。


 カミラがその典型的な人間だった。

 俺の実力をある程度把握できたのだろう。

 アバディーン王国領を出るまでは、改心した演技をしていた。


 獣欲剥き出しの王侯貴族士族や平民は騙せても、俺の使い魔は騙せない。

 目に宿った悪意と身体から漂い出る悪意は隠せない。


 武術や魔術を極めた人間なら、真意を隠し身体から漏れ出す気も隠せるのだろうが、欲望のままに生きて何の努力もしてこなかったカミラには無理な事だ。


 俺は、周囲の魔素を取り込んで穀物を促成栽培できる魔法陣を完成させている。

 聖女深雪を安心させる事を目的に作り出した穀倉地帯が豊作になっていた。


(よし、頃合いだ、誰1人殺すことなく捕虜にしろ)


(承りました)


(侵攻している将兵を全員捕虜にできたら、侵略者の王も捕虜にする。

 王だけでなく、王位継承権を持っている者、全員を捕らえる。

 全員用意はできているな?)


(((((はい!)))))


 可愛い使い魔たちが一斉に返事をしてくれた。

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