第25話:公開処刑2

アバディーン王国歴100年11月10日、王都近くの街道・ベンジャミン王視点


「殺せ、王を殺せ、俺たちを苦しめた愚王を逃がすな!」


「「「「「おう、愚王を逃がすな!」」」」」


 余が愚かであった、考えれば直ぐにわかる事なのに、バカな事をしてしまった!

 何も考えず、これまで通り、馬車も馬も徴発してしまった。

 王都近くにある村で、騎士と徒士に馬車と馬を集めろと言ってしまった。


 これまでなら、何も言わずに黙って余の命に従い馬車も馬も差し出されていた。

 いや、貧しい村に余が気に入るような馬車などないから、金目の物や作物を徴発してお終いだった。


 半分以上が実際に集めた騎士や徒士の手に渡っていた。

 余に届くまでに多くの者が加わって、徴発した金や作物の一部を手に入れていた。


 余の元に届くには、村々から徴発した金の極一部だ。

 必要な額になるまで、多くの街や村に騎士や徒士を派遣していた。

 この国の仕組みは建国以来こんなものだった。


 だが今は、最初の村で激しい抵抗があった。

 怒りに満ち目を向けるだけでなく、実際に襲い掛かってきた。

 最初は余裕で返り討ちにしていた騎士や徒士が、徐々に押されて行った。


 いや、はっきり言おう、何度斬っても死なない平民に恐れをなして逃げ出した。

 王宮と王城の惨劇を思い出して、恐怖の余り悲鳴をあげて逃げ出した。

 余も一緒に逃げ出したのだが、逃げられなかったのだ!


「余は王だぞ、王を襲ってタダで済むと思っているのか?!」


「へん、カーツ様の使い魔から、悪人なら殺していいと言われているんだ」


「なんだと?!」


「悪事を働いたら殺されるが、悪事を働いた者が相手なら無敵になれる。

 カーツ様が村々に使わしてくださった使い魔に教えてもらったんだよ」


「余は何も聞いていない、卑怯ではないか!」


「愚王、お前らも何も言わずにいきなり徴発したではないか、同じ事だ!」


 余は最後に捕らえられてしまった。

 惰弱とはいえ、騎士や徒士は余よりも体力があったが、重い鎧や武器を装備しているので、戦えるが逃げ足は遅くなる。


 何度斬っても直ぐ傷が治る平民相手に勝てるわけがない。

 最初は絶対に死なない自分に戸惑っていた平民も、徐々に慣れた。

 頭を潰されて死ぬのを前提に、一斉に騎士や徒士に抱きつくのだ。


 両腕に抱きつかれたら、もう剣は振るえない。

 両脚に抱きつかれたら、どうしても倒れてしまう。

 そこを多数の平民に農具で叩かれたら、気を失って当然だった。


「ウォオオオオ、勝ったぞ、俺たちが騎士に勝ったぞ!」


「「「「「ウォオオオオ、勝ったぞ!」」」」」


 村の平民たちが勝鬨をあげている。

 ただの平民が、惰弱とはいえ完全装備の騎士や徒士を叩きのめして捕らえた!

 同じ事が国中でも起こっているとしたら……


(外道共から武器を奪って鎧を脱がしなさい!

 服も奪って構いません、裸にしてしまいなさい)


 耳に伝わるのは声ではなく、頭に直接入って響いた。

 誰が伝えているのかと周りを見たら、木の枝に止まって余を見下ろすカラスと目があったが、まさか、カラスが使い魔なのか?!


「「「「「はい!」」」」」


(悪人から奪った物は村の物にして構いません。

 ただし、私の指示した通り公平に分けるのです。

 私の目を誤魔化せると思って盗んだ者は、殺します)


「「「「「はい!」」」」」


 恐ろしい、余たちが王宮で生き地獄を味わっている間に、カーツ公子は国中に使い魔を放って支配下に置いていたのだ!


(死んだ騎士と徒士は、持ち主の槍に突き刺して見せしめにしなさい)


 死んだ、死ねるのか、余たちは死ねるのか?

 いや、期待するな、騎士や徒士は死ねても、余は死ねない可能性が高い。

 カーツ公子の性格なら、余は最後まで死なせてもらえないだろう。


(生き残っている騎士や徒士は、生きたまま縛って放っておけ。

 虫に身体中を喰われて死ぬのがふさわしい連中だ。

 だが、お前たちもカーツ様の命に背いたら同じように虫に食われて死ぬと思え!)


 飢えと渇きの苦しみは、もう嫌と言うほど味わったが、死ねると分かっているのなら我慢する事はできる。


 うらやましい、死んで楽になれる連中がうらやましい。

 余も早く殺して欲しいのだが、無理であろうな。


「使い魔様、愚王はどうしたしましょうか?」


(生き残った騎士や徒士と同じように、縄で縛って放っておけ)


「この場で殺してしまわなくて良いのですか?」


(この国を堕落させた元凶の1人を、楽に死なせる訳にはいかない。

 今少しは苦しませないと、見せしめにならない)


「分かりました、同じ様に縛っておきます」


 そうか、やはりまだ死なせてはもらえないのだな……

 死なせてもらえないのなら、あがくしかない。


 手足が腐るのなら、その時に縄から解放されるだろう。

 激しい痛みがあるだろうが、腐った体で逃げるしかないだろう。

 次の罰は、腐った体で生きる事なのか……


(心配するな、今度は死ねる)


「本当か、本当に死ねるのか?!」


(ああ、死ねるぞ、カーツ様の御慈悲で死ねる、有難く思え)


「オオオオオ、カーツ様、ありがとうございます!」


(ただし、何十何百何千と、人以外の虫や獣に生まれ変わるそうだ。

 人としての記憶を残したまま、虫や獣として生まれ変わり、殺し殺される生命を繰り返し、人として生まれ変わる資格を得るまで、罪を償ってもらうそうだ)


「ひどい、酷過ぎる、それでも人間か?!」


(お前に虐げられた人々が、同じ呪いの言葉を叫びながら死んでいった。

 その人々の数だけ生きる苦しみを味合うがよい!)

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