第24話:公開処刑1

アバディーン王国歴100年11月10日、王都近くの街道・ベンジャミン王視点


 カーツ公子に見逃されて何とか生き地獄から逃れる事ができた。

 だが、王宮はもちろん、王城からも王都からも追放されてしまった。

 馬車もなく、歩いて王都から離れなければいけなくなった。


「余を守って隣国まで行くのだ。

 さすれば余の従者として豊かな生活が約束されるぞ」


 余はチャールズとは違うので、人並み以上の知恵がある。

 この国を狙っている隣国の王家なら、カーツ公子を簒奪者として侵攻するために大義名分に、余を利用するに違いない。


「けっ、国を滅ぼした愚王が何を言っていやがる!」

「そうだ、お前が種豚王太子に王位を継がそうとしたのが元凶だ!」

「お前が素直にカーツ公子に王位を譲っていれば、こんな事になっていない!」


「何を言っている、それでも王家に仕える騎士か?!

 王子が王位を継ぐのは当然であろう!

 お前ら自身がチャールズに媚び諂ってカーツを罵っていたではないか!」


「けっ、お前がチャールズを可愛がっていたから仕方なくやっていただけだ!」

「そうだ、お前さえちゃんとしていたら、俺たちだってちゃんとしていた!」

「俺たちは王のお前に従っただけの被害者だ!」


「くっ、もうチャールズの事はよい、これからの事だ!

 この国に残っても、チャールズに従っていたお前たちに生きて行く場所などない。

 何所でも良いから隣国に逃げるしかないくらい分かっているだろ。

 余に従い、余を守ってこの国から逃げるのだ」


「……おい、どうする、俺は領地に戻る気だったのだが?」

「俺も領地に戻って好きにやる気だったのだが、確かに民の報復は怖いな」

「民など怖くはないが、民を殺すのをカーツ公子が許すとは思えない」


 俺かな連中だ、領地に戻っても民に殺されるだけなのを理解していない。

 これまでは王侯貴族士族の権力で好き放題してこられたが、これからはカーツの意志が全てだと理解していない。


 余もこんな馬鹿どもを使いたくはないのだが、他に身を守る方法がない。

 自由にできる財産が身につけていた宝石しかないので、傭兵を雇う事もできない。

 声の届く範囲にいる騎士や徒士以外に戦力がない。


 チャールズやカミラ、侯爵とは離れてしまった。

 せめてチャールズとカミラがいれば、捕らえてカーツ公子に引き渡し、王位も譲る事を条件に、安楽な隠居生活もありえたのだが……


 そんな事は絶対に許さない!

 そう分からせるために、チャールズやカミラと違う場所に放り出したのだろうか?


 その可能性があるから、王位を譲る事を条件に交渉もできない。

 カーツ公子の力なら、余から王位を譲られる必要もない。


 下手に交渉しようとしたら、その場で殺されるに違いない。

 せっかく命拾いしたのだ、自分から殺されに行く気にはならない。


 聖女をあれほど大切にしていたカーツ公子が本気で怒ったのだ。

 恐らくだが、精霊から受けた以上の苛烈な罰を与えるだろう。


 もうあんな激烈な痛みや苦しみを味わいたいとは思わない。

 できるだけ早くカーツ公子から遠ざかるべきだ。


「お前の言う通りだ、カーツ公子がお前たちを許すはずがないだろう!

 余やチャールズを差し出したからと言って、許されるわけがないだろう!

 どれほど詫びようと、お前たちのやった事は知られているのだぞ!」


「けっ、偉そうに言いやがて、愚王の分際で……」

「そうだが……カーツ公子に全てを知られているとしたら……」

「民など恐れないが、民を傷つけたらカーツが来るな……」


「分かったであろう、領地に戻れば平民が襲って来るぞ。

 500人や600人の平民が死ぬ気で襲って来るのだぞ、本当に勝てるのか?

 勝てたとしても、多くの平民を殺してカーツが許すと思っているのか?

 間違いなく捕らえられて公開処刑されるぞ、それでも良いのか?!」


「けっ、愚王の分際で偉そうに言いやがって、全部お前が元凶だろう!」

「そうだ、全部愚王が元凶だ……が、それで俺たちが許されるとも思えない」

「カーツ公子に調べられたら、これまでの事は簡単に分かるよな……」


「生き残るにはこの国から逃げるしかないが、どの国に行ったとしても、お前たちが歓迎される事など絶対に無いぞ、分かっているのか?!」


「けっ、歓迎されないのは愚王も同じだろう!」

「そうだ、カーツ公子を恐れるなら絶対に歓迎されない……」

「だが、逆にカーツを狙う国があるなら、愚王でも大切に扱うか?」


「分かったであろう、余を守って隣国に行くのだ。

 余を手に入れたら、カーツを討伐する大義名分が手に入るのだ。

 分かったら余を守って隣国までいくのだ、さっさと馬車を手に入れろ」

 

「けっ、好き勝手言いやがって、全ての元凶はお前だろう!」

「そうだが、利用できるのは間違いない」

「ここにいる連中が1つになれば、それなりの戦力にはなる」


 そうだ、余の周りには、話していた3人以外にも騎士や徒士がいる。

 そいつらを全て集めたら、100人くらいの兵力になる。


 100人いれば、平民が1000人襲ってきても撃退できる。

 大きな領都の民が一斉に襲ってこない限り、簡単に撃退できる。

 これで何とか生きて隣国に逃げられる。


 問題はどこの国に逃げ込むかだ!

 カーツと友好を結ぼうとする国に逃げたら、逆に突き出されてしまう。

 逃げ込むとしたら、欲深くて野心に溢れる国だ。


「グレンデヴォン王国に逃げ込む、さっさと馬車と馬を集めて来い」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る