避けては通れない未来の話。

 通話はここで終わった。向こうが切ったのか、伊代がボタンを押したのか、ここからでは判断材料に乏しい。


「カステラ、食べる?」

「あの、秋月さん」

「せっかくだから食べたほうがいいと思うの!」

「先輩に対してタメ口はよくないのでは」

「食べたほうがようござんす!」


 千夏は伊代の半開きになっている口にカステラを押し込んだ。宝のセリフはスルーするものとする。カステラだけでは口の中の水分が奪われてしまうので、あとからお茶を流し入れる。これが先輩に対する行動か?


「もぎゅ……」

「美味しいでしょ!?」


 伊代が高速でうなずくと、千夏も納得したようだ。そんな無理矢理食べさせられたらうまいもまずいもわからなくないか。


「組織が始まる前、能力者保護法の成立よりも昔っから隠蔽体質だってことがわかったの」


 まとめに入っている。実際これでこれまでうまくいっている――ようには見えるが、そのうち皺寄せがくるんだろう。そうなったら、組織はどうなってしまうのかまで作倉には視得ているんだろうか。


「この件、どうしましょう」

「本当はどっかの雑誌にでもタレコミしようとしてたの」


 誰も幸せにならない。風車宗治の死の真相を明るみにすれば、騒ぎにはなるだろうし、再捜査はされるだろう。芋づる式にさまざまな出来事の真実までバレてしまいそうだ。そうなれば組織は崩壊する。確実に。


 最初からうまくいくはずがなかった。


「やめましょうか」


 伊代の表情を見て、宝は資料をクリアファイルに戻す。千夏はカステラを折りたたんで口の中に放り込んだ。


「一人で考えさせてください」


 どういう表情をしていたのかは、伊代には見えない。



【fin.】

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る