第8幕『アリスとテレスのまぼろし工場(2023)』
岡田磨里監督作品。製鉄所の事故によって時間がとまった町。主人公の中学生たちは町を維持するために変化を禁じられ、変わりばえのない日常を漫然と生きる。
舞台設定は押井守監督『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』を連想させるが、テーマ性としては同監督の『スカイ・クロラ』と重なる。『スカイ・クロラ』に登場する歳をとらない子供たち“キルドレ“は、生きることの喜びも希望も見失い、眠ったような日常を生きていた。彼らはまるで大人のように煙草を吸い、車を運転し、娼館に通う。
『アリスとテレスのまぼろし工場』の中学生もまた、外見は子供でありながら大人のように車を運転する。押井守は『スカイ・クロラ』をいまの若者に向けて作った、と言っていたが、同じ問題意識を岡田麿里さんも共有しているのだろうと思う。
冒頭のラジオメールによって、今日的な若者の希望のなさ、先の見えない閉塞感のある現実感覚が示される。コロナ禍を通じて、その感覚はいっそう強固なものとなり、全世代的に共有されたように思う。日本社会にもう未来はない、いくら頑張っても先は見えず、ならばこれ以上生きていても何の意味があるのか。『アリスとテレスのまぼろし工場』とは、この今日的な懊悩に対し、2時間かけて答えてみせた作品と僕は解した。
今作では、愛こそが終わりのないトンネルの出口として提示される。そしてまた、愛と痛みとは不可分な関係でもある。「痛みを感じる方向に出口がある」というのは、『電脳コイル』の台詞だった。舞台設定は斬新ではあるがけっこう難解で、理解するのに手間どった。が、ともかく僕は、愛こそ、痛みこそ、この長いトンネルの出口だ、と受け取った。
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