第7幕『燃ゆる女の肖像(2019)』

 セリーヌ・シアマ監督作品。見合いをひかえる令嬢のエロイーズと、彼女の肖像を描くよう頼まれた女性画家のマリアンヌ。時代的な桎梏のなかで、あくまで逞しく強かに生きる女たちの美しさ。


「振り返る」というのが、ラストに向けてひとつのキーワードになっている。古事記にもある黄泉の国の話と同型のギリシア神話が、作中で語られる。「振り返ってはならない」と妻に言われた男は、それでもつい振り返ってしまう。この神話を聞いた女中は男の行為に怒りを滲ませるが、エロイーズとマリアンヌは別な解釈をする。振り返ってしまったのは愛ゆえの衝動で、あのとき、男は夫としてではなく、詩人として行動した、と。


 再会したとき、マリアンヌはエロイーズがいることに気づき、からだを硬直させるが、エロイーズは振り向かない。マリアンヌに気がついていても、振り返ってしまえば母として生きることができなくなってしまうことを分かっている。だから、からだを震わせ、涙を流しながらも、彼女は前だけを見つめていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る